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第31話 白い夢、赤い瞳

真っ白な空間だった。


どこまでも果てなく続く白。

重力も、空気も、温度も感じない。

ただそこに私が立っている。


──夢だ。

理由は分からないが、ただ夢だと確信は出来た……。


それは分かっているのに、肌に触れる感覚があまりにもリアルで、心臓の奥が冷たくなる。


「……来たのですね」


声がした⸺。


振り返ると、そこにいたのは男だった。

長い黒髪が風もないのに揺れ、赤い瞳が細められている。

神々しいほど美しく、けれど恐ろしいほど冷たい。


胸が締め付けられる。

怖い……。

怖いのに……懐かしい。

息が苦しくなるほど、知っていると感じた。


(……誰……?)


足が震える……。

視線を外せない。

その男はゆっくりと歩み寄り、私の頬へ手を伸ばした。


「相変わらず可愛らしい。……人間の器も悪くはありませんね。」


冷たく滑らかな指先が頬を撫でる。

その感触に、背筋が粟立った。


(やだ……やだ……っ)


全身が震える。

足が竦み、逃げ出せない。


「……でも、私は知っています。あなたはここに居るべきではない。」


赤い瞳が細められ、その奥に狂気が滲んだ。


「戻りなさい……私の元へ。さあ、早く私の元へ……」


(……取り戻す?)


意味が分からない。

でも、言葉を聞いた瞬間、喉の奥が焼けるように痛んだ。

涙が溢れそうになる。


(いや……いやだ……っ)


息が苦しい。

胸が潰れそうだ。


男の瞳が僅かに細められ、唇が歪む。


「どうしました?そんな顔をして。人間として生きることが、そんなに幸せなのですか?」


優しげな声だった。

けれど、その奥に底知れない憎悪と狂気が混ざっている。


「私は……あなたがどんな姿でも愛しています。神であれ、人間であれ……あなたは私のもの。永遠に。」


視界が滲む。

涙が頬を伝う。


(やだ……やだよ……助けて……)


全身を縛りつけられるような恐怖。

でもその奥で、懐かしさに似た、息苦しいほどの愛しさも確かにあった。


──この人を、知っている。


それだけは分かった。


男は微笑み、赤い瞳が静かに細められた。


「……また会いましょう。私の愛しい……最高神。」


次の瞬間、白い世界が崩れる。


──


「……っ……ひっ……!」


跳ねるように目を覚ますと、病室の天井があった。

喉が痛い。

涙が頬を濡らしている。


(……怖い……怖い……)


恐怖で全身が震える。

でも同時に胸の奥がきゅうっと締め付けられるように、苦しいほど懐かしかった。


(……誰……あの人……。なんで……私……泣いてるの……?)


震える手で自分の顔を押さえ、私はベッドの上で嗚咽を殺した。

涙が止まらない。

訳もなく、怖くて、悲しくて、苦しくて──


白い天井が、じわりと滲んで滲んで、見えなくなった。

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