第30話 守れた仲間と命、震える指先
ぼんやりとした光が、瞼の裏に滲んでいる。
(……ここは……?)
身体が重い……。
鉛を抱え込んだみたいに、腕も脚も思うように動かない。
喉がひりつき、呼吸をするたびに胸が軋んだ。
──でも、不思議と、痛みより先に安心感があった。
「……目を覚ましたか」
静かな声が聞こえた……。
ゆっくりと瞼を持ち上げる。
滲む視界の中に、黒髪の男が立っていた。
淡い光を背にして、月夜みたいな瞳が私を見下ろしている。
「紫苑……さん……?」
声にならない声が喉から零れた。
紫苑さんは無言のまま、ベッド脇の椅子に腰を下ろす。
冷たいはずの瞳が、どこか安堵に揺れていた。
「……どれだけ眠っていたか分かるか?」
私は首を横に振る。
言葉にする力もなくて、ただ紫苑さんを見つめ返した。
「……三日だ」
(……三日も……?)
驚きと同時に、胸がぎゅっと締め付けられる。
あの戦いの最中、何度も意識が遠のきそうになった。
最後の最後まで、怖かった。
でも、それ以上に……守りたいって思った。
「……皆……無事ですか……?」
震える声で尋ねる。
紫苑さんはわずかに目を細め、そして頷いた。
「あぁ……お前のおかげだ」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていたものが崩れ落ちそうになった。
喉の奥が熱くなる。
(よかった……守れた……ちゃんと……皆……)
でも同時に、あの戦いの記憶が蘇る。
刀を握る手が震えて、怖くて、泣きそうで……。
──でも、あの時……。
私は、確かに感じた。
あの絶望の淵で、私の中から響いた声。
意識を失う前に聞こえた、優しい声⸺。
《……もういい……眠れ……私が護る……》
それは、私自身の声のようで、私じゃない声だった。
(……誰……?私……?でも……)
朧げな意識の中で、その声にすがりたくて、泣きたくなるくらい温かくて、でもどこか悲しかった。
「……天音」
名前を呼ばれて、はっと意識が戻る。
紫苑さんが手を伸ばし、そっと私の頬に触れた。
冷たいはずの指先が、優しくて。
思わず涙が滲む。
「……怖かったか……?」
「……はい……でも……守れて……よかったです……」
声が震える。
紫苑さんは何も言わずに、ただ私を見つめていた。
その瞳の奥に、深い哀しみと切なさが滲んでいることに、私はまだ気づけなかった。
──その後、紫苑さんが病室を出ていくと、すぐに賑やかな声が聞こえてきた。
「天音ちゃん!!」
扉が勢いよく開き、絢華さん、凛子さん、一鉄さん、桔梗さん、煌さんが飛び込んでくる。
一鉄さんと凛子は怪我だらけで、包帯が痛々しかった。
「よく頑張ったな!」
一鉄さんが豪快に笑い、凛子さんは泣きそうな顔で「無事でよかった……!」と呟く。
絢華さんは「まったく、無茶しすぎよ」と呆れながらも、優しく頭を撫でてくれた。
桔梗さんは腕を組み、「まぁ……今回は認めてあげるわ」とそっぽを向き、
煌さんは「……お疲れさま」と小さく微笑んだ。
(……皆……来てくれた……)
胸が熱くなる。
守りたかった人たちが、今ここにいる。
生きて、笑って、泣いてくれる。
それが、こんなにも嬉しいなんて……。
(私……もっと強くなりたい……)
そう思った瞬間、またあの声が、微かに耳の奥で響いた。
《……私は……私を……超えていけ……》
(……私……?)
でもその声に返事をする前に、皆の笑い声に包まれて、私はそっと目を閉じた。




