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第26話 刀を握る理由⸺守るという覚悟

腐敗した瘴気が街を覆う⸺。

大型堕天使の咆哮が耳を突き破りそうで、思わず歯を食いしばった。

(っ……!! 息が……苦しい……!!)

荒い呼吸を繰り返すたび、焼けつくような痛みが喉を裂く。

視界が霞み、足元が揺れて見える……。

(立ってるだけで……精一杯……でも……)

何時間振り続けたか分からない……。

刀を握る手が痺れ、感覚がほとんど無い。

能力を連続使用した反動で、腕も脚も重りをつけられたみたいに動かない。


背後では、凛子さんが一鉄さんの治癒を続けている。

二人とも、まだ動けない。

守れるのは──私だけだ。

(私は……絶対に退かない……!)


大型堕天使が腐敗した羽根を広げ、全身から黒い瘴気を撒き散らす。

その巨体が僅かに身を沈めた。


(来る……!)

刹那、視界いっぱいに黒い腕が迫る。

「っ!!」

私は刀を逆手に構え、地面を蹴った。

反射神経だけで回避する。

風圧で頬が切れ、熱い血が滴る。

着地と同時に反動で足が崩れそうになるのを、必死に堪えた。

(負けない……!!)


足元から結界を展開する。

瘴気を弾く淡い光が広がるが、力が尽きかけた身体からは絞り出すようにしか発動できない。


私の姿を嘲笑うかのように、大型堕天使の瞳が赤黒く光り、咆哮と共に腕を振り下ろす。

結界が鈍い音を立て、砕け散った⸺。

(防げない……でも……!!)

「八咫烏【瞬歩】──!!」

一瞬で間合いを詰め、脚を切りつける。

しかし腐敗した皮膚は硬く、刃が浅くしか入らない。


「っ……!!」

大型堕天使が痛みも感じないように腕を振り払い、私は空中で体勢を崩した。

地面に叩きつけられ、肺の中の空気が一気に抜ける。


「……っが……は……っ……!」


呼吸が出来ない……。

目の前がチカチカと暗転する。

息を吸えば、肺が悲鳴を上げる。

(だめ……動け……私……!!)

背後にいる一鉄さんと凛子さんの姿が脳裏に浮かんだ。

(守らなきゃ……!!)


腐敗した巨腕が、トドメを刺そうと振り上げられる。


(……っ!!)

私は刀を握り直そうとした──が、指先に力が入らない。

能力使用の反動で、完全に麻痺していた。

(お願い……動いて……っ!!)

感覚の無い指を必死に動かす。

血で滑る柄を、震える手で握り締める。


(私は……退かない……!!)

大型堕天使の赤黒い瞳と目が合う。

その瞳には、怒りも憎悪もない。

ただ、死を与えるだけの絶対的な捕食者の光。


それでも、恐怖より先に込み上げたのは怒りだった……。


(絶対に……誰も死なせない……!!)


私は再び立ち上がる。

震える足に力を込め、血に濡れた刀を構え直した。


「来い……私が相手だ……!!」


夜を裂く咆哮と、私の叫び声が瓦礫に響き渡った。


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