第24話 怒りの中の静寂⸺守る為の殺意
避難シェルターを出て、私達は来た道をただひたすらに引き返す⸺。
しばらく走り続けると瓦礫の隙間から、一鉄さんの姿が見えた。
血塗れで、コンクリートの地面に倒れている。
その胸元には、大型堕天使の腐敗した腕が振り下ろされようとしていた。
(……間に合えっ……!!)
私は地面を蹴り、瓦礫を滑るように駆け抜けた。
刀を逆手に構え、全身の力を込める。
「……はぁあああああっ!!」
振り下ろされる腕を、寸前で刀で受け止めた。
腐敗臭と瘴気で喉が焼けるように痛む。
受け止めた腕が痺れて、刀を落としそうになるのを堪える。
だけど、それ以上に胸が苦しかった。
「……一鉄さん……!!」
一鉄さんは目を開き、血に塗れた口元で笑った。
「……遅ぇぞ……バカ野郎……」
その声に、涙が滲んだ⸺。
弱々しく笑う一鉄の姿に、どれほどの死闘を繰り広げたかなんて想像も出来ない……。
(……私は……なんで……戦ってるんだろ……)
これまで私は、ただ「守らなきゃ」って思ってた。
家族を守れなくて、無力で、何もできなくて……何度も願った。
力があった、物語のような能力があったら……家族を失ってそんな叶うはずもない願いを抱き続けてきた……。
それこそが、私の罪だと思ってた。
守れる力がある今なら……今度こそって。
(……でも……)
今、この瞬間、一鉄さんの死に晒された姿を見たとき、私は気づいた。
(……私は……もう……嫌なんだ……)
ただ、守りたいからじゃない。
罪を償いたいからじゃない。
ただ、もう……。
(……もう、誰も……目の前で死んでほしくない……!)
涙が零れた⸺。
悔しさでも恐怖でもない。
その想いだけが胸の奥で燃えていた。
「……絶対に……!!」
刀を握り直す。
血で滑りそうになる柄を、震える指で掴み直す。
これまでで一番、強く。
迷いも、恐怖も、全部この刀に乗せる。
ゆっくり、一歩ずつ大型堕天使に近づく。
「天音!!下がって!!今のあんたじゃ無理よ!!」
凛子さんが叫ぶ。
でも、その声はもう届かなかった。
大型堕天使の赤黒い瞳が私を見据える。
腐敗した翼が音を立て、瘴気が辺りを包む。
一歩踏み出すたび、地面が軋み、粉塵が舞い上がった。
それでも、私は退かなかった。
「……私は……」
涙で滲む視界の向こうで、大型堕天使が口を開く。
「ギャアアアアアアッ!!」
咆哮が街を震わせ、瓦礫が崩れ落ちる。
だけど、その声ですら私を止められなかった。
(私は……絶対に……誰も死なせない!!)
刀を構え直す。
心臓が早鐘を打つ。
周囲が驚くほど鮮明に見える。
なのに、胸の奥は熱く滾っていた。
足は震えているのに、怖くなかった。
それは、初めて感じる感情だった⸺。




