第21話 追跡者──大型堕天使の咆哮
大型堕天使の咆哮が街全体に轟き、砕け散ったビルの壁の破片が雨のように降り注ぐ。
「……っ……」
私は刀を構えたまま震えていた。
全身が粟立ち、冷たい汗が背を伝う。
足が竦み、喉がひりつくように渇いている。
まるでその場に縫い付けられたかのように足が動かない……。
(怖い……でも……でも……!)
私は震える唇を噛み締め、一歩前に踏み出した。
(戦わなきゃ……生存者を守る為に……!)
大型堕天使が赤黒い瞳で私を見据える。
腐敗した翼が音を立てて動き、街中に瘴気が広がった。
「天音!!下がれッ!!」
一鉄さんの怒声が響いた。
振り返ると、一鉄さんは顔を険しく歪め、凛子さんも必死に生存者を庇っていた。
「ダメよ!!今は戦う時じゃない!!撤退するわよ!!」
「でも……!」
私は叫んだ⸺。
「でも、生存者が……ここで逃げたら……!」
一鉄さんが私の襟首を掴み、目の前に引き寄せた。
その瞳は怒りと焦燥で血走っていた。
「馬鹿野郎!!勝てる相手じゃねぇ!!戦況を見極めろ!!」
「っ……!」
「前に全員でやっと倒した相手だ!!たった三人で、しかも生存者を抱えて戦えるわけがねぇだろ!!」
私は息を呑んだ⸺。
拳を握り締め、爪が手のひらに食い込む。
(そんな……でも……でも……!)
「天音!!今は人命が最優先!!分かったなら動いて!!」
凛子さんの叱責が胸に突き刺さる。
「……っ……はい……!」
私は震える声で返事をし、生存者の女性と男の子の手を握った。
「行くぞ!!」
一鉄さんが先陣を切り、崩れたビルの間を駆け抜ける。
凛子さんが癒しの結界を展開しながら背後を守り、私は生存者と共に走った。
──だが、その時だった。
ズゥゥゥン……ッ
地鳴りのような振動が足元から響く。
振り返ると、大型堕天使がこちらへ向かって歩みを進めていた。大型堕天使が一歩踏み出すたび地面が揺れ、油断すれば体勢が崩れそうになる。
赤黒い瞳が爛々と輝き、腐り落ちた口が開く。
「ギャアアアアアアッ!!」
街中に響く咆哮。
その声だけで肺が震え、呼吸が止まりそうになる。
(追ってくる……どうしたら……!!)
恐怖で胸が潰れそうになる。
だけど──。
(追いつかれたら……皆が……死ぬ……!)
震える足に力を込め、私は前を向いた。
「行こう……絶対に、生きて帰る!!」
荒廃した街に、私たちの足音と堕天使の咆哮が響き渡った⸺。




