第10話 立ち止まらない勇気
数日ぶりに病室を出た瞬間、張り詰めた空気と眩しい朝の光が肌を刺した。
紫苑さんの背中を追いながら、一歩、また一歩と足を踏み出す。
(……怖い……)
数日前のことが、脳裏にこびりついて離れない。
暴走する力。焼け焦げた床。結界を突き破ったときの、あの鋭い衝撃音。
そして、八咫烏のメンバーたちが見せた、恐怖と嫌悪の眼差し。
(……私……またあんな風になったら……)
心臓が嫌な音を立てる。
吐き気がするほど不安で、足が止まりそうになる。
けれど、紫苑さんは一度も振り返らない。
その背中が、黙ってこう告げているようだった。
⸺歩け。
廊下を曲がった先に、八咫烏のメンバーが揃っていた。
桔梗さんが冷たい目で私を見下ろし、鼻で笑う。
「ほら、死人が歩いてるわ」
絢華さんは嘲るように唇を歪めた。
「また暴走して、私たち巻き込むんじゃないでしょうね」
一鉄さんは腕を組み、鋭い目を細める。
冷たい言葉が、突き刺さる。
胸がぎゅっと締め付けられ、呼吸が浅くなる。
(……やっぱり……私は……)
俯きそうになる視界が滲む。
でも、そのままでは終われない。
私は立ち止まらず、ゆっくりと顔を上げた。
怖い⸺。
震える⸺。
今にも涙が零れそうだった。
(……でも……)
思い出す。
あの時の家族の笑顔。
「無駄だ」と吐き捨てられた言葉。
奪われた日常。壊された幸せ。
失ったすべて……。
(……無駄じゃない……私は……無駄なんかじゃない……)
震える足に、力を込める。
恐怖が完全に消えたわけじゃない。
私はまだ弱くて、臆病で、泣き虫で……でも。
(……それでも……前に進む……)
一歩、また一歩と歩みを進める。
その瞳には、確かな覚悟の光と……消えない恐怖が揺れていた。
八咫烏のメンバーたちは、わずかに目を見開く。
驚きと戸惑いが、その顔に刻まれた。
(……足手まといなんて……言わせない……)
紫苑さんが立ち止まり、振り返る。
無表情の奥で、ほんの少しだけ瞳が細められた。
「……今日から訓練を再開する。ただし、能力訓練は無しだ」
「……はい」
「基礎体力の底上げだけに専念しろ。……いいな」
その声は冷たく鋭かったけれど、不思議と心に沁みた。
(……私は……変わる……ここで……)
静かに、小さく息を吐き、私はしっかりと頷いた。




