第105話 不安の鎧
先代最高神の間に通されると、広間にはすでに数名の神々が並んでいた。
彼らは皆、何かを隠すように視線を逸らし、私の姿を見るとわずかに身じろぎする。
「ここに来る前に、見知らぬ鎧を身に纏った者たちが居ました……あれは一体……」
先代最高神はゆるやかに微笑んだ。
その表情は穏やかで、どこか懐かしさすら感じるのに――背筋がぞくりと冷たくなる。
「見たことのない鎧を着た者たち……か。あれは天使たちの新たな装いを試作しているだけだ。この神界を守る者たちが、より強くあるために必要な措置だ」
柔らかく告げられる言葉。
けれど、その瞳の奥は深く、何一つ読み取れない。
(……ただの装い……? 本当に?)
胸の奥でざらりと不安が広がり、心臓が早鐘のように打つ。
手のひらがじんわりと汗ばんで、拳を握る指先に力が入りすぎる。
呼吸が少し乱れ、息を整えようとしても胸の奥がざわざわと落ち着かない。
先代最高神は答えを深追いさせる隙を与えない。
「それと――今日から精鋭部隊を新たに編成する。選ばれた者は後ほど伝える。天禰、お前にも協力してもらう」
低く、抗えない響きを帯びた声。
私は小さく頷くしかなかった。
(……協力……? 何に……)
広間を後にしても、胸のざわめきは消えない。
廊下の向こうから聞こえる号令の声が、耳に刺さるように響き、鼓膜の奥まで振動する。
心臓がさらに早く打ち、胃の奥がぎゅっと締め付けられる感覚。
訓練場の方に視線を向けると――
あの鎧をまとった天使たちが整列していた。
背筋は機械のようにまっすぐで、表情には一片の感情もない。
まるで、生きているのに、何かを失ってしまった人形のようだった。
(……違う……あれはただの鎧じゃない……!)
胸がきゅっと締め付けられ、息が詰まる。
理由の分からない恐怖が、足元からじわじわと這い上がってくる。
(計画は……止まったはずなのに……)
拳を握りしめ、深く息を吸う。
それでも胸の鼓動は落ち着かず、むしろ先ほどよりも強く、速く脈打っていた。
――そして私はまだ知らない。
あの整列する天使たちこそ、再始動した神兵計画の“最初の犠牲者”だということを。
静かに、しかし確実に、神界は変わろうとしていた。




