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第103話 揺らぐ未来と、変わらぬ意志

自室に戻ると、広間の緊張がまだ胸の奥に残っていた。

息を吐き出しても、鼓動が早鐘のように鳴り止まない。


(……あの場で言えた……でも……これで本当に止まるの?)


不安が胸をかすめたその時、扉が静かに叩かれた。

返事をする前に、白銀の髪が夜の光を帯びた先代最高神が姿を現した。


「天禰」


彼の声は低く、けれど不思議なほど優しかった。

かつて幼い自分を導いたときの声と同じ響き。


「先程はすまなかった……神兵化計画は中止する。お前の言葉を無視するわけにはいかない」


胸の奥がふっと軽くなる。

緊張がほどけ、肩から力が抜けるのを感じた。


(……本当に……止まった……)


けれど、次の言葉が空気を変える。


「それと……天禰、お前にもう一つ伝えねばならないことがある」


その視線はまっすぐで、迷いがなかった。

けれど、瞳の奥にはどこか切実な色が混ざっていた。


「天禰。お前と婚約を結ぶつもりだ」


一瞬、時が止まる。

静まり返った部屋に、自分の心臓の音だけが響いた。


(……やっぱり……またこの話……)


胸の奥に冷たい痛みが走る。

けれど、天禰は顔を上げ、きっぱりと答えた。


「……何度もお伝えしたはずです。私は誰とも結ばれるつもりはありません」


その声は驚くほど静かで、揺らぎがなかった。

先代最高神の表情が一瞬だけ苦しげに歪む。


「天禰……」


唇がかすかに震えた。

その目には怒りではなく、どうしようもない孤独と焦りが滲んでいる。


「この神界は今、静かに崩れ始めている。

お前の力が必要だ……そして、お前を守るためにも、この形が一番確実なのだ」


彼の言葉は、支配ではなく懇願に近かった。

けれど、天禰は視線を逸らさず、首を横に振る。


「……それでも、私は自分の意志を曲げません」


先代最高神はしばし黙り込み、深く息を吐いた。


「……そうか……」


小さく吐き出された声には、失望と諦め、そしてまだ消えない執着が混ざっていた。

踵を返す前に、一度だけこちらを振り返る。


「……お前の決意は分かった。だが……この神界を守るために、そしてお前を守る為に……やるべき事をする」


その言葉は約束のようであり、宣告のようでもあった。

扉が閉まった後、部屋には再び静寂が満ちる。


(……止まったはず……なのに……)


胸の奥で、理由のない不安がじわりと広がる。

窓の外に広がる天界の夜景は美しいのに、どこか遠く、冷たい。


(……不安が消えないのは……何故……)


けれど、後悔はしなかった。

両手をぎゅっと握りしめ、決意を胸に刻む。


(……私は、この道を選んだ。何があっても、人を犠牲にする未来だけは許さない)


しかし――天禰の知らぬところで、神兵計画は密かに再び動き出していた。

その影が、確実に神界を侵食しつつあった。


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