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第102話 覚悟の宣言

白い広間に、重苦しい沈黙が落ちた。

金色の柱が鈍く光り、神々の視線が一斉に私――天禰へと注がれる。


「何度でも言います……神兵計画を、即刻中止してください」


自分の声が、あまりにもはっきりと響いた。

一瞬のざわめきのあと、広間は再び凍りつく。


玉座に座る青年――先代最高神が、ゆっくりと立ち上がった。

長い銀髪が肩に流れ、冷たい光を帯びた瞳が私を射抜く。

その瞳の奥には、怒りではなく、かすかな哀しみと戸惑いが揺れていた。


「これは決定事項だ……異を唱える事は認めない」


低く落ちる声に、胸が締めつけられる。

かつて何度もその声に励まされ、守られてきたことを思い出す。

だが今は、その声が遠く感じられた。


「人間を兵器として扱う計画は、神界の理に反しています。これを許せば、神と人との信頼は二度と戻らない」


広間の空気が一層張り詰める。

神々が顔を見合わせ、ひそひそと声を交わした。

背筋を伸ばしながらも、足元から冷たい汗がにじむ。


「……天禰、忘れるな。お前は次期最高神と目される身だ。そのお前がこの場で計画に反対するということは――神界の秩序に背くということだ」


先代最高神の声は冷たいが、どこか苦しげだった。

拳を握りしめ、私をまっすぐ見つめる。


「私は……お前がこの座を継ぐ日を、ずっと夢見てきたのだぞ。神界を託すべき唯一の存在として、育ててきたのだ」


その言葉に、胸がかすかに揺らぐ。

彼が私を大切に思っていた日々の記憶が、脳裏をよぎる。

しかし――


「……それでも、私は止めます」


震えそうになる喉を押さえつけるように、言葉を吐き出した。


「もしこの計画が強行されるなら……私は、神界を去ります」


広間が一瞬にしてざわめきに包まれた。

神々が息を呑み、互いに顔を見合わせる。

誰もが「彼女は本気だ」と悟った。


「天禰……!」


先代最高神の瞳が見開かれる。

その瞳に宿るのは怒りではなく、切実な哀しみ。

それはまるで、愛する者に見放される恐怖そのものだった。


「お前は神界の未来だ。お前なしでこの世界を支えることなど……!」


声が途切れ、銀の髪が揺れる。

その横顔に、どうしようもない孤独が滲んで見えた。


「……私にとって未来とは、人と神が共に生きられる世界です」


静かに言い切り、私は踵を返した。


実際に神界を去ったわけではない。

ただ社の自室に戻るだけ――それだけのはずなのに、足取りはひどく重かった。


社の中は静まり返り、灯火がわずかに揺れている。

その揺らめきが、まるで自分の迷いを映しているように見えた。


(私は……もう、ただ従うだけの神ではいられない)


胸の奥に、確かな覚悟が灯る。


「……私の意志で、答えを出す」


小さく呟いた言葉は、誰に聞かせるわけでもない。

けれど、それは天禰にとって確かな宣言だった。

最高神への反抗ではない。

神界そのものを拒むつもりもない。


ただ――これから歩む道を、自分自身の意志で選ぶということ。


冷たい床を踏みしめる音が、やけに大きく響く。

社の静けさが、ひどく張り詰めて感じられた。

小さく響いた鈴の音が、天禰の胸に決意を刻むように鳴った。


背後で、低く押し殺した声が落ちる。


「……ならば、力づくでも止めるしかないか」


その呟きが耳に残った瞬間、視界が揺らぎ、景色が白に塗り潰される。

次の記憶が、私を飲み込んでいった――。


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