表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/108

第100話 始まりの記憶

部屋に戻ると、さっきまでの温もりが嘘のように静まり返っていた。

扉を閉めると、世界から音が消える。

胸の奥にぽっかりと穴があいたような感覚だけが残る。


(……紫苑さん……)


頭から離れない。

あの、寂しそうな瞳。

強がるように背を向けた広い背中。


(話さなきゃいけないのに……私は全てを知らない……こんな中途半端な私じゃ、紫苑さんの隣に立てない……)


頬に残る体温を両手で押さえ、ベッドに腰を下ろす。

呼吸がうまくできない。

心臓がうるさいほどに高鳴る。


「……私、どうしたらいいの……」


かすかな声は、誰にも届かず闇に溶けた。

深く息を吐き、ベッドに身を投げる。

天井を見上げながら、指先をぎゅっと握りしめた。


(私は、ただみんなを守りたいだけ……でも……この気持ちは何? 紫苑さんのことを考えると……怖いくらい胸が熱くなる……)


――やがて、瞼が重くなる。

眠気に抗えず、意識が沈んでいく。


……そして、夢の中。


目を開けると、そこはあの白い世界だった。

風も、音も、何もない。

けれど、なぜか心が落ち着く――懐かしい匂いのする場所。


「……天禰さん!」


駆け寄ると、彼女は穏やかな笑みで迎えた。

けれど、その瞳にはいつもより深い影が宿っている。


『また会えたね、天音』


「天禰さん……お願いです。教えてください。

 私の前世……あなたが何をして、どうして追放されたのか……私が、何者なのか……全部知りたい」


必死に言葉を重ねると、天禰は静かに目を伏せる。

その横顔に、ためらいと痛みが交錯している。


『本当はね、少しずつ話していこうと思っていたの。

 あなたの心が折れないように、ゆっくりと……』


小さく吐息をもらし、天禰は私をまっすぐ見つめる。

その瞳には、もう迷いはなかった。


『でも……最高神代理の動きがこれほど早いのなら、もう猶予はない。天音、あなたには知る権利がある。

そして……選ばなくてはならない時が来る』


選ぶ――その言葉が胸に重くのしかかる。

呼吸が止まりそうになるほど、鼓動が速くなる。


「……選ぶ……?」


『そう。前世の私が犯した“罪”を知れば、あなたは必ず迷う。

けれど――それでも立ち向かわなければならない。あなたは、この世界を揺るがす存在だから』


足元から、柔らかな光がじわじわと広がる。

光が肌を包み込み、心臓が早鐘のように打ち始める。


「……はい。聞かせてください。全部……!

 私が何者なのか……自分で選べるようになるために!」


天禰はわずかに目を細め、微笑んだ。


『――なら、始めよう。あの日、私が神界で犯した“罪”の物語を』


光が一気に強まり、世界が白に塗りつぶされていく。

次の瞬間、視界がひらける。


黄金の光に満ちた都――天界。


そこに立つのは、今よりも少し大人びた私自身。

豪奢な衣をまとい、玉座の前に立つ姿。


(……これが……私の、前世……)


胸が震える。

物語が、始まる。


――続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ