第9話 密かなる決意
静かな部屋に、機械の電子音が淡々と響いていた。
(……ここは……?)
薄暗い闇の中から浮かび上がるように意識が戻ってくる。
瞼をゆっくり開けると、見慣れない天井が広がっていた。
ぼんやりとした白色の照明。無機質な壁。淡い薬品の匂い。
(……病室……?そうだ……私昨日……)
記憶が一気に押し寄せる。
床が焦げるほどの灼熱の光。
結界を突き破るほど暴走した力。
八咫烏のメンバーが、恐怖に目を見開き、私を見ていた顔……。
(……あれは……私……?)
頭がズキズキと痛む。
ほんの少し動こうとしただけで、全身にびりびりと痺れる感覚が走り、息が詰まった。
怖かった……。
自分自身が。
あの時、自分が自分じゃないみたいで、何もかもが恐ろしくて……。
『目覚めよ……天音……お前の本当の名を……力を……』
突然、頭の奥に冷たく無機質な声が響く。
(やめて……やめて……っ!!)
必死に頭を振ろうとするけれど、体が言うことをきかない。
ただ、震える指先をシーツの上でぎゅっと握りしめることしかできなかった。
ふと視界の端で動く影に気づいた。
椅子に座り、浅く眠る紫苑さんの姿。
(……紫苑さん……)
普段は冷たく鋭い瞳で、決して感情を見せないのに、今は少しだけ表情が緩んで見えた。
その頬に触れたら、どんな顔をするんだろう。
そんなことを考えて、すぐにかき消した。
(……あの時……紫苑さん、私に言った……)
『あの力は……あまり使うな……』
どうしてそんなことを言うのかは分からない。
でも、あの声は言っていた。
『思い出せ……お前は神なのだ……』
(神……私が……?そんなわけない……)
心臓が痛いほど脈打つ。
あの力は怖い。自分じゃないみたいで、全てを壊してしまいそうで……。
(……でも……)
目を閉じると、浮かぶのは家族の笑顔。
ぎゅっと胸が締め付けられる。
(……取り戻したい……)
訓練場で、一鉄さんや絢華さん、桔梗さんに嘲笑された。
『無駄だ』と吐き捨てられたあの言葉が、何度も頭の中で反響する。
(……無駄なんかじゃない……)
涙が滲む⸺。
(私は……絶対に……無駄なんかじゃない……)
静かに、でも確かに決意した。
この想いは誰にも言わない。
言ったところで、また笑われるだけだから。
でも……。
(……もし、あの力で家族も日常も取り戻せるなら……私は……使う……)
怖くても⸺。
壊れそうでも⸺。
八咫烏の一員として……いや、それ以前に、ただの神楽天音として。
(……負けない……絶対に……)
涙が一粒、シーツの上に落ちた。
遠くで機械音が微かに鳴り響く。
紫苑さんが眠りの中で微かに眉を寄せるのが見えた。
その気配が、怖いはずなのに……ほんの少しだけ、温かく感じられた。




