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3人と1体の物語  作者: 端くれのぬん
第1章「前置き」
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古い記録

第1話「記事」


俺は暇を持て余していた。だからよくネットでブログやら記事やらを見て時間を潰していた。その時見つけだブログの題名の「(無題)」というものに惹かれ、そのページを開く。2年前の物だ。ブログの内容はこういうものだった。


俺は電車出勤の自分で言うのもなんだがホワイト企業務めだ。毎日定時に始まり定時に帰り、残業も滅多にない。だから乗る電車は変わらない。


ある日帰宅していると駅のホームで高校時代の先輩にあった。あの人には昔から良くしてもらっていたから人の顔を覚えるのが苦手な俺でもすぐにわかった。


先輩は「おー!〇〇(本名)じゃーん!変わってねぇな!」と言って近づいてきた。俺も嬉しかったもので、先輩の方へ歩いた。


その後は近くの居酒屋に入り、身の回りの事をお互いに話した。俺が粗方話した後、先輩も身の回りの事を話した後、こんな噂話を教えてくれた。


「さっきお前はいつも同じ電車に乗ってるって言ったな?その電車にはよ、同じ服装、同じ車両、同じ席、同じ新聞を読んでる中年っとぽい男性が座ってる」


というものだ。俺はそんな事もあるだろうと思いながらも、少し興味が湧き、次の日から探し始めた。探し始めてから4日後、3両目の端の方の席にその人は居た。3日間連続で同じ服装、席、新聞だった。俺は少し鼓動が激しくなりながらも、その日も出勤した。


次の日、俺は混雑に紛れてその男性の前に立った。バレない程度に新聞を覗いてみると、5年前の新聞というのが分かった。俺は変だと思いつつも、今更変だと感じるのが変だという結論を出し、そのまま出勤した。


だがその日は珍しく残業になってしまい、帰るのが遅れた。家に帰りたかったので急いで電車に乗った。電車によった後、呼吸が荒くなった。走ったからというのもあるがそれよりもだ。あの中年男性があそこに座っていた。俺はここが3両目な事を確認した後、急いで隣の車両へ移った。とにかく今はあそこに居たくなかったからだ。


だが俺は急に気になってしまい、あの人を尾行することにした。ストーカー行為なのは分かっているが、ソレでも俺は自分の好奇心には勝てなかった。


中年男性は終電で駅に着くと電車を降りて、歩き始めた。どうやら駅から10分ほどの古びた一軒家に住んでいるらしい。俺は帰ろうと思ったが、違和感を感じ、もう少し居ることにした。


違和感に気づいたのは3分後だ。あの男性が帰って来てから3分経つが、一向に灯りがつかない。その異質な状況に俺は恐怖し、また走って帰った。


その一週間後、俺は有給をとり、あの家にまた行こうとしていた。俺は俺の好奇心には勝てないようだ。


家に着くとカーテンが空いていた。俺は申し訳なさを感じつつも、窓から中を覗いた。中には古びたテーブルの上に新聞と筆記用具がのってる茶の間が見えた。


新聞の内容はもう少しで見えそうだが見えなかった。その時の俺はアドレナリンが出ていたのか、全てがどうでも良く感じており、庭に侵入し、新聞を見た。


5年前の新聞だ。内容は


「〇〇市にて火事。母親と息子が死亡」


というもので、どうやらその日の夜に火事が起こり、母親と息子が焼死体で見つかったが、残業で帰るのが遅くなった父親だけが生き残ったというものらしい。


そして筆記用具をよく見てみると、何本もの鉛筆の芯が折れた跡があり、相当の力で書いたとされた殴り書きされた紙があった。その紙は新聞やネット記事を印刷したもので、「一家心中」「突然襲った不幸」などの文章が消されていた。


何となくあの男が何者なのかを理解してきた。そういえばここはこの新聞に書いてある〇〇市だ。きっとこの辺りで妻と息子を失ったのだろう。そして、その事実が受け入れられないのだろう。と。


その時、玄関から音がした。あの男が帰ってきたのだろう。タイミングが悪い奴だ。俺は急いで玄関の反対側の道に出て、逃走した。どうやらバレていないらしい。追ってくる気配は無い。




俺はもう関わらない事にした。あの男は普通に可哀想な奴だ。変な目で見る人が1人でも減るといいなと思い、3両目にも行かないようにした。


だが最後に、このブログに書くことにした。変な奴がいても、もしかしたら悲しい過去があったのかもしれないと伝えたかったからだ。




ブログはこれで終わっていた。なんでこんなものがあるのかと不思議に思ったが、それ以上に俺は違和感があった。一家心中になぜ父親は入っていないのか。俺はこの〇〇市に行くことにした。


ブログにあった電車は分かる。定時に間に合うような時間に走っている電車を〇〇市にある駅を片っ端から調べればいい。


だがそんな苦労はする必要はなかった。まず初めに乗った電車の3両目に、あの男性がいた。中年で、端の席で新聞を読んでる奴は3両目にはあいつ以外いなかった。


一応次の日も確認したが、やはり居た。コイツで間違いない。俺もあのブログを書いた人同様に、尾行させてもらう。罪悪感はあるが、させてもらう。


俺はそのまま尾行し、奴の家を突き止めた。確かに、古びた家で、ブログに乗っていた家と特徴は一致する。



第2話「過去」


俺はそこそこの勉強ができたため、そこそこの会社に入ることが出来た。俺は若いうちに妻と結婚し、子供が産まれ、幸せの絶頂にいた。


この〇〇市は暇な時に釣りに行けるくらい海が近かった。そして俺の家は海が見えるほどの場所にあり、帰りによく海を見ていた。


今日もいつも通り、帰る時に海を見ていた。だがその日は違った。真っ黒な服装の男が何か大きい物を海に投げ捨てていた。俺はすべてを察してその場から逃げ、急いで家に入った。男には気づかれていないことを祈るしかできなかった。


どうやら男には見つかっていなかったようで、いつも通りの生活ができていた。残業も無く、家に帰れば妻と息子。職場での人間関係も変わらず、あの事なんて忘れていた。


ある日俺は残業で帰るのが遅くなってしまった。急いで家に帰ろうとすると俺の家の近くに人だかりが、と認識する前に俺の目の前に広がったのは、本来目の前にあるはずの俺の家が暗い夜を照らす真っ赤な火に包まれていて、その火を消防隊が必死に消化していた。俺は近くの消防隊員に俺がここの家の人間だということを言い、状況を聞いた。


……隊員が突撃した頃には妻と息子は既に焼死体だったらしい。火が強く、中々入ることが出来なかったらしい。俺は近くのアパートに泊まり、日々を送った。


絶対にあの男だ。あの男が俺がもう帰ってると勘違いし、放火したんだ。新聞には一家心中と書いてあるが、そんな事があるわけが無い。事実俺は生きている。あの男を探し出す。だがどうやって……


その日から俺は同じ服装で、同じ席に座り、同じ新聞を読む事にした。テレビ局に手紙を送ったりすれば大々的に報道され、奴らに勘づかれるかもしれない。そう思ったからだ。これで違和感を感じた人が何も知らずに協力してくれるだろう。分かってる。もっと他にやりようはある。でも俺はこれでやる事にした。あいつを絶対に許さない。



第3話「現在」


この生活を始めてからだいぶ時間が経った。今日も今日とて最寄り駅に着くまで同じ服装、同じ席、同じ新聞を読み、駅に着いたら家に帰る。


そのまま家に着き、玄関を開け、中に入ろうとした時、俺は背中に何かを感じた。その何かは一瞬で分かった。刺された。俺はそのまま倒れ込み、うずくまった。痛みに耐えながら後ろを見ると、男が立っていた。もう2度と忘れもしないあの顔だ。何故今更こんなことに。男は


「困るんですよ。何で生きてるんですか。」


とだけ言い、俺を茶の間まで運び、放火し、逃げた。運んでいる時の


「生きてても無駄ですよ。揉み消せるんで。」


という言葉に恐怖を覚えながら、俺は息絶えた。妻と息子への申し訳なさも感じながら。

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