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第13話 動き出す復興、ゴーレム無双!

 翌朝、俺こと天野幸助と隣に立つエルフの王女エリアーナ(エリ)は、再び隣村の広場にいた。


 朝日が痩せた土地と古びた家々を頼りなげに照らしている。

 広場に集まった村人たちの顔には昨日までの絶望の色は薄れ、代わりにわずかな期待とまだ拭いきれない不安が入り混じっていた。


「皆さん、おはようございます!」


 俺が声を張ると村長であるエルド老人が前に進み出て深く頭を下げた。


「コウスケ様、エリ様、お待ちしておりました。何から始めればよろしいでしょうか?」


 その声には藁にもすがるような響きがあった。


「まずは皆さんの住む家と飲み水の確保。それから畑をなんとかしましょう」


 俺はそう言うと手のひらに乗るサイズの土偶のようなゴーレム、ゴレムスを地面に置いた。


「こいつはゴレムス。建築や土木作業が得意な俺の相棒です。まずは村中の家を見て回って修繕計画を立ててもらいます」


 ゴレムスはカタカタと動き出すと小さな体からは想像もつかないスピードで村の中を駆け巡り始めた。

 家々の壁を叩いたり屋根に登ったり地面を調べたり。

 その様子を村人たちは目を丸くして見守っている。


「さて、次は…ちょっと驚くかもしれませんが、頼もしい助っ人を呼びます」


 俺はそう前置きして意識を集中させる。

 アステリアからワープした後、この温泉郷の近くの森の奥深くに地中待機させていたもう一体のゴーレムに念話を送る。


(コロッサス、聞こえるか? 出番だ!)


 《御意、マスター》


 直後、ゴゴゴゴゴ…と地響きが起こり村の外れの地面が盛り上がった。

 村人たちが悲鳴を上げそうになるのを俺は手で制する。

 土を割りゆっくりと姿を現したのは全高10メートルを超える巨大な石造りの巨人、守護ゴーレム・コロッサスだ。

 その威容に村人たちは息をのみ恐怖に顔を引きつらせた。


「だ、大丈夫です! こいつも味方です! 見かけはゴツいけど力持ちで頼りになりますから!」


 俺とエリが必死に説明しコロッサスにその場で静止するように命じると、村人たちはようやく恐る恐る遠巻きに見守る体勢になった。


「コロッサスにはまず新しい井戸を掘ってもらいます。場所は…村長、この辺りでいいですか?」


 エルド村長と相談し村の中心に近い広場の一角を指定する。


「ゴレムスは家屋の修繕と畑まで水を引くための水路の設計・整備を頼む」


 《了解しました》


 《ピポッ。家屋状況スキャン完了。修繕計画及び水路設計を開始します》


 二体のゴーレムは俺の指示を受けて直ちにそれぞれの作業を開始した。

 村の復興がついに具体的な槌音を響かせ始めた瞬間だった。


 ゴーレムたちの働きぶりはまさに「無双」という言葉がふさわしかった。

 コロッサスは巨大な腕をショベルのように使いみるみるうちに地面を掘り進めていく。

 硬い土も岩もまるで豆腐のように砕いていく。

 一方ゴレムスは高速で動き回りながら傷んだ家の柱を補強し壁の穴を塞ぎ屋根を葺き替えていく。

 近くの森から手頃な木材や石材を器用に運び込み魔法のような精密さで加工していくその様は、もはや職人芸の域を超えていた。


「す、すげぇ…」


「あんなでかいゴーレム、初めて見た…」


「あんな小さいのが家を直してるぞ…」


 村人たちは最初は恐怖と驚きで遠巻きに見ていたが、次第にその圧倒的な作業能力に感嘆の声を漏らすようになった。


 しかしすべてが順調に進んだわけではなかった。

 数時間後、コロッサスの井戸掘削がピタリと止まった。

 地下深くの巨大な岩盤にぶつかってしまったのだ。

 コロッサスのパワーをもってしてもその岩盤を砕くことは容易ではないようだった。

 ゴレムスの方も問題に直面していた。

 村の周囲には家屋の修繕に使えるような丈夫で良質な木材が思った以上に少なく、資材不足で作業のペースが落ち始めていたのだ。


 そしてそれ以上に厄介な問題が村人たちの心の中に静かに広がり始めていた。


「なあ、俺たちの仕事なくなっちまうんじゃねえか?」


「ゴーレム様様、ってわけか。なんだか情けねえな」


「いつまであのよそ者たちの言いなりなんだ?」


 特に働き盛りの若い男たちの中からそんな不満や不安の声が囁かれるようになった。

 自分たちの手で村を立て直したいという誇り、そしてゴーレムという異質な存在への戸惑いが彼らの心をざわつかせていた。


 エリはその微妙な空気の変化を敏感に感じ取っていた。

 王族としての教育が民の心の機微を読み取る力を彼女に与えていたのかもしれない。


「コウスケ、少しよろしいでしょうか」


 エリは俺の袖を引き心配そうな表情で囁いた。


「村の方々が少し不安を感じていらっしゃるようです。わたくしたちが前に出すぎるのはあまり良くないのかもしれません」


 エリはそう言うと自ら村人たちの輪の中に入っていった。

 そして一人ひとりに優しく声をかけ、ゴーレムはあくまで復興を早めるための「道具」であり「仲間」であること、この村の未来を最終的に築くのはここに住む皆さん自身であることを真摯な言葉で語り始めた。


「わたくしもコウスケも皆さんと一緒に汗を流したいのです。どうか力を貸してくださいませんか?」


 その姿には以前の迷子の王女の面影はなく、民を導こうとする指導者の片鱗が確かに見えた。


 エリの言葉は村人たちの心に少しずつ響いているようだったが、目の前の作業停滞という現実は重い。

 岩盤に阻まれた井戸、資材不足で進まない家屋修繕。

 村に漂い始めた不穏な空気を振り払うには目に見える「希望」が必要だった。


(くそっ、岩盤と木材か…。どうにかならないか…? あ、そうだ、もうこんな時間か)


 俺は懐中時計(これもガチャ産SR『自動時刻合わせ懐中時計』)を確認する。

 ちょうど日付が変わる頃合いだった。


(よし、今日の運試しだ! 頼むぞ俺のSSS級ガチャ運! 岩盤をぶち抜く何かと木材を楽に運べる何か! できれば両方来い!)


 心の中で強く念じ【神授のガチャ】を発動する。

 脳内にいつものルーレットが回りピタリと止まる。

 今回はやけに力強い光が溢れた気がした。


 《SR『岩盤破砕用・小型魔力ドリル』を獲得しました!》


 《SSR『空間圧縮型・資材運搬ボックス』を獲得しました!》


「……ッシャア!!」


 思わず声にならないガッツポーズが出た。

 まさに今喉から手が出るほど欲しかったものが二つ同時に!


 俺はすぐにアイテムを取り出し、まずは魔力ドリルをコロッサスに念話で操作させ岩盤に押し当てた。

 ギュイイイイン!と甲高い音と共にドリルは硬い岩盤をバターのように貫いていく。

 そして次の瞬間。


 ゴボゴボッ! バッシャーーーン!!


 掘削孔から大量の綺麗な水が勢いよく噴き出した!


「「「おおおおおおーーーっ!!」」」


 村人たちから地鳴りのような大歓声が上がる。

 乾ききった大地と人々の心に待ち望んだ恵みの水が溢れ出したのだ。


 歓声が響く中、俺はもう一つのアイテム、資材運搬ボックスを手に少し離れた森へと向かった。

 鑑定グラスで目星をつけていた良質な木材が群生している場所へ行きボックスの力で次々と木材を回収していく。

 見た目はただの箱なのに内部の空間が圧縮されているらしく驚くほどの量の木材を収納できた。


 村に戻りボックスから大量の木材を取り出すと再び村人たちから驚きの声が上がる。

 これでゴレムスの修繕作業も一気に加速するだろう。


 枯渇していた井戸から水が溢れボロボロだった家々がみるみるうちに修繕されていく。

 その確かな成果を目の当たりにして村人たちの顔からは不安の色が消え希望に満ちた笑顔が広がっていった。

 ゴーレムたちへの警戒心も薄れ「すごいもんだな!」「頼りになる!」とその働きを素直に称賛する声が聞こえ始めた。


「やりましたわね、コウスケ!」


 隣でエリが嬉しそうに微笑む。


「ああなんとかな。まあ俺の運とエリの説得のおかげだな」


 俺たちは顔を見合わせ安堵のため息をついた。


 エリの真摯な言葉と俺の(ガチャによる)力技。

 それがうまく噛み合い復興への最初の壁を乗り越えることができた。

 村には確かな希望の光が灯り俺たちと村人たちの間にも少しずつだが確かな絆が生まれ始めていた。


 だが村の復興はまだ始まったばかりだ。

 そして俺の持つ次元渡りの羅針盤は依然としてリュックの奥で不穏な光を放ち続けていることを、俺はまだ知らないふりをしていた。

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