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8 想いの道

勢いで書いてゆくタイプなので、

「ちょっと待て!」

と過去に自分にツッコミ連発、とか!(苦笑)

「随分とまた…沸いたもんだな」


あきれ顔でタクは視界いっぱいに無数にいる魔物の群れを見渡していた。

魔物は不死山をぐるっと囲んでいた。

もちろん小さな山ではない。

平原にどんとそびえるその山の裾野は周囲数百キロ。

それをありの這い出るすきまもないほど魔物で埋まっている。


「あそこになにがあるんすか?」


タクは老師匠にたずねた。


「あの山に伝説の宝物が隠されておる」

「伝説の宝物?」

「【万感の太鼓】じゃ」


老師匠はちらりと視線をタクの背にある長剣に飛ばした。

タクは長剣の柄に手をやった。


「おぬしの【覇王の長剣】、行方不明になっとる【破邪の薙刀】、そして【万感の太鼓】は『大陸王の三宝物』よ」


老師匠は視線を群がる魔物に移す。


「これをもつものがこの大陸の覇権はけんを握る正当な後継者とされるんじゃ」

「けど魔物がそれを持ったって人は従わんでしょ?」

「それじゃ…奴らは何者かに魔界から召喚されてきておるはずなんじゃ」

「てことは呼んだ奴は人ってことっすか?」

「左様…それが黒の魔術師じゃ」

「老師。んじゃ、その張本人を探し出して倒さにゃ、いつまでたっても終わらないんじゃ?」

「その通り」

「で?」

「うむ。【万感の太鼓」は不死山の頂上にあるほこらまつられておる。そしてその祠を守る一族がおるんじゃ」

「あの山に住んでるってことですか?」

「そうじゃ」


不死山から数十キロ離れた山脈の中腹にいる彼らから一望された絶望的な光景。


(そんな人たちとは思わなかったな)


タクは老師と出会う少し前にあの山の裾野にある村で少しだけ世話になったことがあった。


(腹ペコの俺に…あの超辛いスープはやみつきになる美味さだったな…)


人の良さそうな村人たち。温厚で思慮深い村長。

数日だったがタクの食事の世話を焼いてくれた彼女。


(彼女…ハルニーナも息子のリュウくんも巻き込まれてるんだな…)


束の間思い出にとらわれていたところへユミンが息を切らせてやってきた。


「だめですぅ~!あそこを抜けるなんて無理ぃ~」

「ユミンでもダメか」

「そりゃそうでしょ」


いままで黙ってタクと老師の話を聞いていた桜太夫が苦笑いをした。


「あの中に人らしい姿はあったか?」

「ん~~~」


しばらく腕組みして、見てきた情景を思い出していたユミンにみなの視線が集まった。


「北側がちょっと違った感じだったかな?」

「違った?」

「うんうん。高級魔人が多かったように思うんだ」

「魔人…てことは人とよく似た?」

「そうそう。まぁ身長とか顔つきはでかいしおっかないから、すぐに人じゃないってわかるけどぉ」


タクの視線が老師へ移される。老師は小さく彼にうなずきかえした。




眼下に広がる魔物の群れでできた分厚い絨毯を物見やぐらから見下ろして小さくため息をついたのは彩姫とアーネだった。


「ちょっとこれってまともじゃないわねぇ」

「せやな…なんぼここの一族とわたしたちで防いだかて、負けは時間の問題やね」


彩姫は一緒に矢倉にいるもうひとりの女性の顔を見た。

彼女は微苦笑していた。


「どないします?」

「彩姫さんに策はあるかしら?」

「ボスだけに集中攻撃。これっきゃないやろね」

「だよね…出すしかないか、な?」

「【万感の太鼓】?」

「そう」

「叩けますの?」

「あたしはこれでも戦鼓の巫女候補ではあるのよ?」

「候補やろ?」

「きついわね…でも」

「せや。やってみなわからんし、今はやるっきゃないんやけど…」

「問題はどこを狙って切り込むか…ね?」


きゅっと唇をひきむすんで彩姫がうなずいた。


「ねぇあれって敵の本陣じゃない?」


アーネが指差す方向…山の北側に数十の軍旗が立てられた。


「余裕やな」

「攻撃できるならしてみなさいってところね」

「むかつくなぁ」


そのとき最前線の兵士の一隊がやってくるが見えた。


「なんやろ?」

「行ってみましょう」


巫女候補の彼女の後について彩姫とアーネはやぐらを降り、今は魔物を迎え撃つ『戦鼓の守護人』たちの司令部となっている千鼓村の村長邸へ向かった。


「なぁ、ハルニーナさん」


彩姫は走りながら彼女を呼んだ。


「なに?」

「ほんまにやるん?」

「いまさらなに言ってるんだか」

「まだ逃げ道はあるんやろ?」

「隠し通路は確保してあるはずだわ」

「全滅覚悟やで?」

「そうね…でもそれは『戦鼓の守護人』であるあたしたち一族の覚悟だから」


ハルニーナは真剣な表情でそう言った。





「なんとか山の守護人と連絡つかんかなぁ…」


タクはじっと状況を見ていた。その後でユミンが桜太夫に見てきたことや噂話をしている。


「……でね、百糸ひゃくしの道ってのがあってさ」

「ふ~ん」

「これが凄いらしいんだぁ」

「どう凄いの?」

「小さな洞窟らしいんだけど、中はすっごく複雑なんだって」

「へぇ」

「不死山の風穴ともつながってるなんて言い伝えもあるくらいに、迷路みたくこの平原の地下にひろがってるんだってさ」


何気なく聞いていたタクははじかれたようにユミンを見た。


「それ、マジな話なんじゃないか?」

「え?」

「不死山の風穴?」

「いや、百糸の道だよ。抜け道になってるかもしれない」

「まさか…入り口だけでもめちゃくちゃ数多いけど入ったら迷子確実っていってたよぉ」

「そうやって真実を隠してたとしたら?」


そこへ老師が軍人らしい中年の男を連れてきた。


「タク。こちらはなショウモン王の軍隊を指揮しておる将軍じゃ」


互いに挨拶を交わす。

彼らは自分たちの国に住む民の信仰の対象にもなっている不死山が囲まれたことに危機感を持って出動してきたのだった。

将軍とともに彼らの軍隊の野営地へ向かうとそこには数百、数千の軍団がいた。


(あの軍旗の紋章…新皇国の皇室紋章…だよな…けど魔物相手にどこまでやれるか…)


士気の高い軍団がそこにいた。

あの夢の中で魔物たちに追われ、必死に潰走していた光景が脳裏に浮かぶ。


(あの時、足手まといの俺を救ってくれたあの女性騎士はこの中にいるんだろうか…)


その女性騎士を含め、ともに戦場をかけた人たち。

無駄に血を流したくない。

しかし今は…あの無数の魔人、魔物に対抗するにはとんでもなく嬉しくありがたい援軍だとも素直に感じた。


「ユミン、百糸の道を探索してくれ。ここの偵察兵を貸してもらえることになった。なんとしても、一刻でも早く山と連絡をとりたい」

「ほいほ~い♪」


ユミンの影が見えなくなるとタクは再び遠く不死山を望んだ。




彩姫は再び矢倉に上がって無言の圧力をかけている魔物の軍団をにらんだ。


(このままじゃ確かに先細りやな…)


食料、飲料水ともに豊富だし武器弾薬もたっぷりある。

地の利もあるからそうそう簡単には負けない…


(人間相手なら…やね)


敵は魔物。

道がなければ飛んでくる。

険しくてもそのたくましい体力を生かして、難所も難なく上がってくるだろう。


(一斉攻撃やったらまず勝ち目はあれへん…奴らが攻めてこないんは、こっちに【万感の太鼓】と戦鼓の巫女?がいるからやろな)


不意にあの笑顔が思い出された。


(タク…今、どこにおんのや?)


親友アーネは抜け道をたどって魔物たちの背後へ回り込もうとしているはずだ。

村長のところに魔物の包囲を抜け道を使ってかわして帰ってきた村人がいた。

彼の話からともかく包囲から脱して援軍を呼ぶことを決めた。

誰がこの絶望的な状況に救いの手を差し伸べてくれるだろう…


(けど、もしかしたら)


なんの根拠もなかったけど、彩姫はなぜかあの魔物の作った包囲の壁の向こう側にタクがいるような気がしていた。

あの日、あの町外れで別れてから一度も再会できていなかったけど…でも強く彼の存在を感じ始めていた。


(なんやろ、この確信めいた想いは…)


彼女は目を閉じて、心を静かにして思いを胸にあつめた。

想いがあふれるほど胸に迫った。


(タク!タク!会いにきてんか!)


彩姫は声に出さず、しかし全身に想いをためて、心の声を、強く強く叫んだ。





胸に何かを感じた。


(なんだ…誰かが呼んでる?)


彼は懐かしい何かに呼びかけられているような気がした。

次には全身が震える津波のような強い想いが彼を襲った!


(彩姫?)


タクは山を見た。




彩姫は感じた!タクがそこにいると。




タクは確信した!彩姫がこちらを見ていると。




そこへユミンが数名の兵士とともに女銃士を連れてきた。


「わたしはアーネと申します。不死山の守護人の村から来ました」


タクはアーネの前に立った。


「彩姫が救いを求めてるんだね?」

「え?」

「大丈夫。援軍もいる」

「本当ですか?」

「ああ。そして君と出会えたことで作戦もできた」


振り向いて再び山を見た。そこにあの日の彩姫の笑顔が見えた気がした。


(彩姫、待ってろよ。すぐに行くからな)


彼は長剣を抜き放って頭上にかざした。




「あっ…」


はるか彼方の高地に何かが光った。


(タク、おんのやな…アーネと合えたんやな)


彩姫の頬がゆるみ、唇に笑みが自然と浮かんだ。




【続】

原本は伏線回収してないし!

大幅な加筆…矛盾、ないよな?

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