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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0714:魔導の模範演技

「ともかく、あの筋肉にも鍛えられているという事であれば、殿下は近接戦もある程度こなせるという事ですね?」


「うん。ある程度は。剣も使えるし、徒手空拳も使えるよ」


 伊達に殴られ蹴られを行ってきたわけではない。アーチェルが大嫌いな筋肉に鍛えられたアルヴィストの実力は並大抵の兵士では歯が立たない程度には高められているのだ。


 ニックとの訓練では魔法の操作技術よりも、実戦的な利用方法に終始した戦闘を行ってきた。


 言ってしまえばあまり行儀のよくない、魔法の品などを求めない実戦的な扱い方と表現するべきだろう。


 ジスカル老が技術面での訓練を進める中で、ニックによる実践的な訓練を重ねたことでその技量は高められた。


 もちろん兵士たちがあまり教えたがらない徒手空拳の部門の訓練もニックは徹底的に指導してきた。


 そのおかげと言うべきか、そのせいでと言うべきか、アルヴィストは実際のところ剣術よりも徒手空拳による戦いの方が得意なほどだ。


「であれば、この学院での訓練でも後れを取ることはないでしょう。殿下は魔法学を専攻なされますか?」


「せっかくだからね。アーチェルの授業をしっかり聞くつもりだよ」


「これは手が抜けませんね。いえ、元より手は抜いていませんが……」


「学院の中で魔法の授業を受ける人はどれくらいいるの?」


「んん……その時々といったところですね。実際魔法に対して興味を持つ者の数によるとしか言いようがありません。貴族の中でも、より高位なものか、平民の子たちなどは魔法に対しての興味はかなり強いようですね」


 魔法に対しての高い知識を有している者ほど魔法の知識を求め、魔法のような具体的な力や手段を求める平民もまたその授業を受けたがるという。


 そう言う意味ではアルヴィストもまたその例に漏れないといったところか。


「しかし、今年は受講生が多くなりそうですね」


「僕が受けるから?」


「はい。どのような形であれ殿下との繋がりを作りたいと思うものは多いでしょう。メイレイン殿下の時と同じです。それが剣か魔法かの違いでしょうな」


 メイレインの時は剣で繋がりを作ろうとしたものが多く、皆返り討ちになってしまった。対してアルヴィストの場合は魔法で繋がりを作ろうとする者が出てくるかもしれない。


「魔法の授業のときは正直集中させてほしいんだよなぁ……」


「そうはいかないでしょうな。こればかりは仕方がりません」


 正直勘弁してほしかった。魔法の技術は危険と隣り合わせだ。アルヴィストも魔法の勉強や訓練をするときは高い集中を維持することを絶対としている。そうしないと自分の身に危険が及ぶということを身に染みて理解しているが故である。


「しかし殿下は魔法の危険性もよく理解している御様子。流石師匠が直々に指導しているだけはありますなぁ」


「それもあるが……殿下の場合、ニックとの訓練もあったからのう。あれとの魔法訓練は一歩間違えれば危険なものも多かった故、それが身に着いたと言うべきか」


「あの筋肉の仕業か……いやまぁ……良い結果をもたらしているとはいえ……そうか……そんな危険なことをやらかしているのかあの阿呆は」


「実際殴る蹴るって感じだったからしょうがないと思うけどね。ニックとの訓練の場合、肉体強化の訓練が主だったから本当に集中しないと危なくて。魔法の力が体の中で暴発すると本当にひどいことになったから」


 アルヴィストだって肉体強化の魔法を最初から十全に扱えたわけではない。


 むしろ最初は何度も暴発していた。


 骨や皮膚などの強化などならまだいいのだが、筋肉の強化や動体視力の強化などの時は酷い目に遭ったのを覚えている。


 筋力強化の度合いを間違えて城壁に頭から突っ込んだり、感覚強化の調整を間違えて吐いたりと碌な目に遭っていない。


 ジスカル老と主に行っていた防御の魔法の時と比べ、集中を維持しなければ自分に直接不具合が生じるために、普段の訓練よりさらに高い集中を求められた、そのように強いられたと言うべきだろうか。


 ニックの作り出した結果とはいえ、より良い結果につながったのは間違いない。


「殿下が覚えているのは具体的にはどのような魔法で?」


「んーと……簡単な念動力の魔法とか、あと『遠の手』系統の魔法。風の魔法をいくつかと肉体強化。それと障壁の魔法と……」


 つらつらと自分が使える魔法を思い出しながら羅列していくが、この年齢の少年が使うにしてはずいぶんと数が多く、また実戦的な魔法が多いことにアーチェルは素直に驚いていた。


「その御年でそれだけの魔法が使えるとは……師匠の評価通り殿下の才能は確かなものであるようですな」


「何言ってるのさ。まともに才能があるとは言われなかったよ?」


「いいえ。普通……この学院に通う生徒を基準とした話になりますが、殿下の御年で魔法を扱うことができるようなものは一握りにすぎません。その者たちもまた、扱える魔法など得意な魔法が一つか二つある程度。殿下のように複数の手札を持つこと自体が異質と言えるでしょう」


 アルヴィストは幼少時から魔法の知識をため込み、魔法が扱える年齢になってからは欠かさずに訓練を進めてきた。


 普通はその年齢の子供はもっと別のものに目を向ける。そのため魔法そのものの実力自体が未熟なものが多いのだ。


 かくいうアーチェルだって今のアルヴィストと同じ年齢の時には三つ得意な魔法を持つ程度だった。それでも同年代の中では突出していたのだが。


「それだけ扱える魔法があるとなれば……殿下に一つお願いしたいことがございます」


「なに?僕学院長からも演説とか頼まれてるからあんまり頼みごとを増やさないでくれると嬉しいんだけど……」


「ご安心ください。別に生徒の前で話をしろとは申しません。魔法の実技演習において……なんといえばいいでしょうか?剣術における模範演技のようなものを行っていただきたいのです」


 模範演技。それは剣術指南役等、互いに高い実力を有する者同士が互いの剣術の型や技術を見せ合うものだ。


 魔法でも同様のことをしろというのはなかなか難しい注文である。


「それって普通だったら教師役とかがやるべきじゃないの?アーチェルとリカルドがやればいいんじゃない?」


「去年まではそうしていたのです。リカルドはちょうどよい相手だったので」


 丁度よい相手。リカルドだって相当レベルの高い魔導師だ。少なくとも一緒に訓練をしていた時、アルヴィストはリカルドの魔法技術の底を見ることはできなかった。


 細かな操作や発動時間、同時発動数に保有魔法数など未熟なアルヴィストとは比べ物にならない。


「今年は私と殿下とで模範演技をしたいと思いまして」


「おいアーチェル、それはさすがにどうかと思うぞ。学ぶべき生徒が教師と模範演技をするなんて」


 流石に黙って聞いていられないと判断したのかリカルドから横から割って入る。アルヴィストはあくまでこの学院に学びに来ているのだ。確かに高い技量を持っているというのは間違いないのだが、だからと言って危険さえ伴うようなことをやるというのは簡単に許容できなかった。


 リカルドとしては臨時講師としての立場よりも、アルヴィストの傍で仕えた経験のある従者の立場からそれを容認できなかった。


「本来であればそうだろう。しかし殿下の場合、それはある意味必要であると感じるのだがな」


「どういうことだ?」


「単純な話、魔法の授業に集中できるようにするため。このままでは殿下の魔法の技量も何も知らない生徒たちが殿下に群がってくるでしょう。しかしそれではあまりに授業の邪魔。そこで殿下の格の違いを見せつけるのです」


「格の違いを見せつけると邪魔者を排除できると?」


「あくまで可能性として。メイレイン殿下のことを思い出せ。剣術で圧倒された生徒たちはあっという間に関わらなくなっただろう?逆に剣術に自信のある者だけが再戦を申し入れていた。あの状況を作り出す」


「なるほど……そういう事か」


 その状況を実際に見ていないアルヴィストでも容易に想像できる。メイレインが立ち向かってくる男子生徒たちを斬り伏せていく様が。


 そして鍛え上げて再戦してきたものもすべて斬り捨てていったのだろう。何せ彼女が敗北したという話は一度として聞いていないのだ。


「つまり、最低限の実力も持っていない相手が僕に関わることがないように排除できるようにするってこと?」


「言い方は悪いですがそういう形になります。もっとも、相手は別にわたしでなくとも構いません。そう、ここにいるリカルドでもよいのです」


「わ、私が?殿下と?」


 まさか自分に話が向いてくるとは思っていなかったのか、リカルドは驚きで目を白黒させている。


 リカルドだって臨時講師だ。講師と生徒としての技量比べという意味では十分意味を持っていると言えるだろう。


「あくまで学院側の魔法の専門家と殿下が戦える段階にあるという事を知らしめられればいい。それで魔法授業に向き合うか、殿下と繋がりを作るものを別に考えるか……その二つに分かれるはずだ」


 レベルの違うものでは話し合いにすら参加できない。そういう状況を作り出すことがアーチェルの目的なのだろう。


 そう言う意味では適切な方法かもしれない。メイレインのように直接的に相手を叩きのめしていない分、だいぶましな方法だ。


「どういたしますか?私か、リカルドか。どちらかと模範演技をしていただければよい結果になるかと」


「んー……正直どっちも強敵なんだけども……」


「殿下、言い方はあまり良くありませんが、アーチェルの相手はしないほうが良いかと」


 リカルドの耳打ちにアルヴィストは目を細める。


 何か理由がありそうだとさらに話をするように促すと、リカルドはそれを察してそのまま話を続けてくれる。


「アーチェルは我々兄弟弟子の中で数少ない、師匠の教えの全てを修めた魔導師です。我々の中での技量の高さは五本の指に入るでしょう」


 ジスカル老の全ての教えを修めた。つまりは免許皆伝のようなものなのだろう。


 兄弟弟子の中でも五本指に入るということは、恐らくはこの国の中でも有数の魔導師ということになる。


 おそらく最上位に位置する魔導師の一人。そんな人物がこの学院で講師をやっているという事実。


 なるほど王立学院というのがこの国における最高学府になるわけだと、アルヴィストはそのレベルの高さを実感していた。


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