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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0684:感謝の言葉は誰に

「アルヴィスト殿下」


 謁見を終えたアルヴィストを呼び止めたのはシータだった。


 アルヴィストが報告している間に最低限の身なりは整えたのだろう、城内でよく着ている衣服に着替えた状態で走る彼女は自然な格好に見えた。


「シータ、休んでいていいんだよ?今日くらいは」


「いいえ、そういう訳にもいきません。殿下、お願いがあります。最後に、陛下への謁見をお願いできないでしょうか?」


「……シータ、それは……」


 立場のあるものは立場のある者、あるいは理由のあるものとしか会うことはできない。それはかつてアルヴィストが説明した通りだ。そしてそれは今も変わらないだろう。


 彼女が何者になったわけでもない。たとえこの数年の間城内で一緒に過ごしたとはいえ、そして城内で何度もヴィルクリフ王に会って話をしている間柄とはいえ、それは変わらないのだ。


 謁見とは一種の儀式だ。政治的な、あるいは恒例的な、普通の人間ならば一生関わることのないような事柄だ。


「わかっています。私が、謁見などできるはずもないと。理解は、しているのです」


「じゃあどうして?」


「私は……一度として……お礼を言えていないのです……!貴方のお父上としてではなく、この国の王としてのあの方に」


 アルヴィストの父親としてのヴィルクリフ王には、シータは何度も会っている。城内に暮らしている以上、それは避けられない。


 その中で何度も何度も、城に住まわせてくれていることを、助けてくれていることの礼を言った。その度に気にすることはないとはぐらかされてきた。


 しかし、この国の王に助けられているのだという自覚はあった。ならば父親としてではなく、王としてのヴィルクリフに礼を言いたいと、そのように感じたのだ。


 もちろん、そんなことを許せばヴィルクリフ王の面子にかかわる。何者ともわからない少女との謁見を許したと吹聴されても仕方がない。


 王族という権力を軽んじているわけでもない。ヴィルクリフ王のことを軽視しているわけでもない。


 ただ、立場のある人間の立ち回りをアルヴィストに教えられ、今の自分の立場がどれだけ薄氷の上に成り立っているのかを知って、そうせずにはいられなかったのだ。


 もう、この国に戻ってくることはないだろうと覚悟しているからこそ、シータは王としてのヴィルクリフに正式に感謝を伝えたかったのだ。


「シータ、それはできない。僕の立場からしても、それは断らざるを得ないんだ」


「…………どうにも、ならないでしょうか?」


「……なるとしたら、父上……陛下が直接シータを呼ぶことくらいかな。けどそれもあり得ない。父上もそのあたりはよくわかってるはずだ。城で待ち伏せして、王としてではなく僕の父上として会うほうがまだいいと思うよ」


「……それは……そう、なんですが……!」


 シータの気持ちもわからなくもない。


 公式な立場の人間に、裏で礼を言うのと堂々と正面から正式に礼を言うのとでは意味合いが違う。


 正しい形で礼を言えるというのは、それだけ価値を持つ。もちろん心情的な問題もあるのだろうが。


「シータ、ここでシータが陛下に直接礼を言ったとしても、陛下はそれを認めることはできないんだよ?」


「……私を匿っていた……保護していたことを、事実として公表するようなものだから……ですよね?」


「僕の客人として城にいたのと、陛下が正式に保護したのとでは意味が全く違うからね。ただでさえ他国が怪しい状態になってる現状、国内に妙な噂が立つのも、国外に変な誤解を生むのも避けたい」


 難民が増えている現状、イルス王国の国王がヒルデ協議国の人間を数年間保護していたなどという事実が辺りに知れ渡ればどうなるだろうか。


 難民たちはこぞってイルス王国に向かってくるかもしれない。そのようなことは避けなければならない。

 アルヴィストとしてはシータが公的にヴィルクリフ王と謁見するようなことは避けなければならなかった。


 シータ自身、自分が無理を言っていることはわかっているのだろう。これ以上の無理を言うことはできないと自らを戒めているようでもあった。


「アルヴィスト、ミーザ嬢、どうした?」


「ぁ……!?父上?」


 いつの間にか背後にやってきていたのは先ほど謁見の間で出会ったばかりのヴィルクリフ王だった。


 既に正装を脱ぎ、過ごしやすい格好に着替えている。こういうところは本当にアルヴィストたちの父親といった感じだ。


「へ、陛下……その……!」


 シータは正式に謁見を申し込もうかと口を開きかけた。しかし、その口を噤んで大きく息を吸うと、深々と頭を下げた。


「陛下。長い間、お世話になりました!このご恩は、決して、決して忘れません!」


 これ以上迷惑はかけられない。自分の気持ち程度であれば呑み込むべきだと、シータはその場で感謝を述べるにとどまった。


 おそらく先ほどの会話も聞いていたであろうヴィルクリフ王は薄く笑みを作り、ゆっくりと頷く。


「道中、気をつけるのだぞ。風邪などひかぬようにな」


「……はい……はい……!」


 シータは深く下げた頭をしばらく上げることができなかった。ヴィルクリフ王がその場を去ってからも、彼女はしばらく頭を下げ続けていた。


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