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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十七話「課題は多く、しかし先行きは明るく」

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0679:対戦相手がいてこそ

「すまんワカ、待たせた」


 部屋に案内された和平は窓を開けて合図を出すと、上空で情報収集をしていたトゥーを迎え入れる。


「暗い中悪いな。どうだった?」


「例の一団らしき影は見つけられた。この街からおよそ南西に向かった位置にいる。このまま進めば国境の大橋に到着するだろうな」


「追いつけそうか?」


「ワクモの力を借りれば余裕をもって追いつけるだろうが……すでに暗い。この状況で追いついても何ができるとも思えんぞ?」


「そうなんだよなぁ……いっそのことアルルゴウンの方に先回りしたほうがマシってレベルなんだけど……あの街監視厳しいから碌なことできないんだよ」


 ジュニラック卿のお膝元であるアルルゴウンは国境警備のために多くの諜報員が活動している。


 それこそこの国の内外問わず情報収集に勤しんでいる者たちが怪しい動きをいち早く察知しようと目を光らせている。


 そんな状況で和平たちが変なことをしたら、それこそ貴族を敵に回しかねない。


 この国における国防の要の一角を敵に回すにはまだ早すぎる。決定的な敵対行為は可能な限り避けたいところだった。


「特に今回は勇者が関わってるからな。この国の権力の頂点に位置してるような奴に関わろうとすると面倒なことになる。ここは静観しておくのが正解だと思う。ちょっと悔しいけどな」


 和平が倒すべき敵、勇者が目の前にいたという状況でありながら手を出せなかったというのはかなり痛手だ。


 だが同時にかなりの収穫でもあった。今まで文字で表記されるような情報しか知らなかっただけに、直接見る機会に恵まれたのは幸運というほかない。


「では、明日は一先ずアルルゴウンを目指すという形ですね」


「そうなる。パパっと向かって監視体制を作りたいところだな。ぶっちゃけ見たところで何すんのって感じだけど」


 ユニステラの言うことが正しいのであれば、件の勇者は本洗礼とやらを受けに大聖堂に向かうはずだ。


 言ってしまえば観光をしに来ているようなものだ。そんな相手を観察してもどれほどの意味があるだろうかと聞かれると、和平としても答えに困る。


 しかし、せっかく勇者を直接観察できる機会なのだ。これを機にいろいろと試したい気持ちは強い。


「もし遠目に観察するのであれば気を付けたほうがいい。連中の中に腕のいい狩人がいた。生半可な距離では気づかれる」


「ほう?トゥーをして腕がいいと言わしめるか」


 狩人の村といっても過言ではない鳥人族の村で戦士として活動していたトゥー。彼女の叔父は村の中で狩人たちをまとめる狩猟長を担っていたほどの実力者だ。


 当然トゥーも狩りに関しては一家言持ちといっても過言ではない。そんな彼女が腕がいいということは相当に良い狩人を連れているのだろう。


「でも狩人なんて、王子の護衛らしくはないな?」


「どちらかというと道案内をしている風だった。このあたりの地形に明るいのだろう。足取りも早く、的確に楽な道を進んでいたように見えた」


「道案内か……この街で雇ったのかもしれないな。面倒くさい。狩人とかそういうのは感覚が鋭いからな……変に近づいて気づかれるのも嫌だな」


 狩人という生き物は気配に敏感だ。特に山の中など自然の中では抜群の索敵能力を発揮する。


 どのような人間かまではわからないが、トゥーが腕の良いと表現する程度には実力者だということはわかる。


 下手に近づくわけにはいかないと、ハードルが上がってしまったようで和平は辟易していた。


「王子の本洗礼となれば普通の人間はまず近づけないだろ?遠巻きに見るのも街までって感じかな……うぅぅううもったいない!」


「我慢したほうが良いじゃろうな。こういう場合は大人しくしているほうが吉じゃ。むしろしっかりと勇者の情報を得られただけ良しとするべきじゃろうよ」


「まぁそりゃそうなんだけどさ……わかってるんだけどさ……なんかちょっかいっかけたいよなぁああ!」


 魔王代行として初めて勇者と接触できるかもしれない機会。しかもこちら側しか相手に気づいていないという絶好の機会。


 これを逃してしまえば次の機会がいつ来るかもわからないという状況なだけに何とも惜しい。


 本当に準備時間さえあればと、和平としては思わずにはいられない。


「落ち着けワカ。敵に気づかれれば面倒なことになるのだろう?ならばここは堪えろ。時には耐え、待つことも狩りの定石だ」


「……わかったよ。とはいえ、何もしないのも癪だな……なんかアクションを起こせないか考えてみる」


 和平としてはこれを機にいろいろ試したかったのだが、勇者が想定と違った動きをしすぎているということもあって空回り感が強かった。


 だがこういう感覚は嫌いではなかった。ゲームの対人戦を思い出して和平は笑みを止められない。


 上手くいかないからこそ楽しい。そう思えるのは和平が本当の意味で対戦相手を見つけたからなのだろう。


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