表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十七話「課題は多く、しかし先行きは明るく」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

678/764

0678:理外の一手

「ワカ!ワカ!大変だ!」


 街道の近くでそんな話をしていると、遠くの空から血相を変えたトゥーが飛んでくる。彼女がここまで取り乱すのは珍しい。


 何か緊急事態が起きたのだろうということはわかるのだが、いったい何だろうかと和平とクーランは顔を見合わせてしまっていた。


「どうしたトゥー!何があった!?」


「連中が動いた!あの街を脱出している!」


「…………はぁ!?だって、だってもう日が暮れるぞ!?これからこっちに来る……!?いやそもそも馬車の位置はほとんど動いてない!」


「違う!馬車を置いて馬だけで移動している!土砂崩れの方でもこの街道でもない!全く別の道だ!」


 何故そんなことを?そんな考えが和平の脳裏にいくつも浮かんだが、それらを思考するよりも早く和平は指笛を吹いてワクモを呼んだ。


「急いで戻るぞ!日が完全に落ちたらあいつらを見つけられなくなる!トゥー!どの方向に向かったとかはわかるか!?」


「山道だ!恐らくは馬でギリギリ通ることのできる道を行こうとしているのだろう!この時間に出るなんて正気の沙汰ではないが……!」


「ったく……!なんでそんなことしてやがるんだ!」


 和平はワクモの背に乗って空の上を移動し始める。


 和平たちがフィラツクの街に戻った時には、完全に日が落ちてしまい、もう既に勇者たちの姿はどこにも見えなかった。


 あるのは山の中に向かったという情報だけ。


 なんという事だと、和平は愕然とした。


 普通ならばこの街で一泊して準備を整えて出発するところのはずだ。だがあの勇者一行はそうしなかった。


 一体何があったのだろうかと疑問が残る。和平の存在に気づいたのか。否、そもそも和平は接近すらしていないのだ。気づかれる理由がない。


 もし魔王の代行としての存在を感づかれたのだとしたら厄介すぎる。


 近づいただけで危険を察知されるようなことがあったらどうしようと考えている中、街を観察していたクーランが和平の肩を叩いた。


「若様、どうやら街の中で騒ぎのようなものが起きているようです。兵士たちが動き回っています」


「なんかあったってことか?ったくタイミングの悪い……それが理由で出ていったのか……?確かに何か動き回ってるな」


 日も完全に落ち切っているためか、街中を松明をもって移動している兵士たちの姿が上空からでもよく見える。


 何かを探しているような様子だった。


 一体何を?と聞かれれば、恐らくは先ほどの勇者一行なのだろう。


 あの勇者はこの国の王子のはずだ。だとすれば突然いなくなって領主たちはひっくり返ったように探しているという事だろうか。


「一度降りて調べるぞ。勇者の行き先がわかるかもしれない。トゥー、お前はユニを呼んできてくれ!仕込みは中止だ!」


「わかった。気をつけろよ!」


 空中で身を翻して土砂のあった方向へ飛んでいくトゥーを見送ってから、和平は少し離れた場所に降り立つとフィラツクの街の中へと入ろうとする。騒がしい様子に加え、亜巨人が破壊した防壁が良く見える。

 やはり大掛かりな攻撃を仕掛けると派手でいい。被害が明確に視覚化できる。


 視覚化するという事には大きな意味がある。ククルゥの指導からも学んだことだった。


「くそ!見つからないぞ!もう門の外に出たんじゃないのか!?」


「門兵がやられてる!あいつら!」


 兵士たちの怒号が聞こえてくる中で、和平は一先ず話を聞いてみることにした。


「すいません、兵士の方ですよね?」


「あぁ!?なんだ!?今忙しいんだ!」


「今到着したばかりで、このあたりで宿などはありませんか?泊まる場所を探していまして」


「そんなのは……あぁ、今来たと言ったな!?であれば、十人、いや十五人程度の一団を見なかったか!?」


 和平たちが外からやってきたということに関して興味を持ったのだろう。こうして会話をしようとしてくれるのはありがたい。


 そしてやはり彼らが捜しているのは勇者の一団だったようだ。問題は、なぜあの勇者の一団を探しているのかというところだ。


「あぁ、数まではちょっと確認できませんでしたが、たくさんの馬に乗った人たちなら少し前にすれ違いましたね。すごい勢いで走っていきました」


「くそ!やはりもう外に出ていたか!情報感謝する!領主様に伝えろ!彼奴らは既に街の外に出たと!」


「あの、何かあったんですか?」


「ん?あぁ、今来たばかりだとわからんか。今日デカい魔物……亜巨人がこの街に攻めてきてな。それを倒した一団を領主様が迎え入れようとしたのだが、どういう訳かそいつらはその場から逃げ出したんだ」


 逃げ出した。そもそも魔物を倒した一団を領主が迎えようとしたというところに違和感がある。王子がやってきたらむしろそっちの方を優先するはずだ。


 魔物を倒した一団を迎えた、ではなく王子を迎えた、という表現に変わるはず。

 それがないということに少し違和感があった。


「小さな子供もいたようですが、その人も魔物を倒したのですか?」


「いいや、あれはただ連れているだけの子供だろう。しかし魔法も使えるようだった。魔物を倒したのは魔導師と兵士たちだ。あぁ、宿の位置だったな。宿はこの道をまっすぐ行ったところ、二つ目の十字路を越えたところにある」


「ありがとうございます。それでは」


 聞きたいことは兵士から情報は聞けた。何やら面白いことになっているようだった。


「若様、先ほどの会話から察するに、彼らは身分を隠して行動しているという事でしょうか?」


「かもなぁ……魔導師二人連れてるとはいえ、護衛が十人程度って時点で妙だと思うべきだったか……それにしたってあの魔物を倒した奴らを迎え入れようとしたってのはわかる話だけど、随分と強引な感じだな」


 少なくともこのあたりを走り回っている兵士たちからは鬼気迫るものを感じる。それは恩人を探すというよりは逃げた犯人を捜しているようだ。


 歓迎という態度ではない。むしろ追い立てて危険因子を排除しようとしているようにしか見えなかった。


「これだけの状態になったからこそ彼らは逃げたのでしょうか?早々に次の町へ?」


「そう考えるのが妥当か。問題なのは何をしに、どこに向かったかってところだな。領主様が迎え入れようとしたってことは、そこに話を聞きに行けばわかるかね?」


「可能性は高いとは思われますが……若様、この国で貴族を敵に回すのはまだ早いと愚考いたします」


「お、いいね同意見だ。流石にまだこのタイミングで貴族に面倒ごとを持ってこられるのは嫌だな。特にここの領主、結構力業でなんとかしてきそうな気配がプンプンするし」


 あれだけの魔物の襲撃から助け出した者たちを、歓待するのでもなく何やら脅しをかけるようなそぶりさえも見せている時点で、かなり強引な手段に出るタイプの人間だと推察できる。


 もう少し早い段階で街に誰かを忍び込ませていれば話は変わったのだろうが、いかんせん時間が足りな過ぎた。


 やはり隠密系の人間は常に自分たちの傍に控えさせていないと危険だなと和平はしみじみ思い知る。


 アヤメのようなタイプがいてくれると非常に楽なのだという事を再認識したところで、和平たちは宿に入っていた。


「すいません、まだ部屋空いてますか?」


「あぁお客さんちょうどいいところに。急に部屋が空いて困ってたところさ。どうぞ」


 急に部屋が空いた。その時に和平は内心ほくそ笑む。


「へぇ、急に空いたって、お客さんがいなくなったとか?」


「そうなんだよ。今日いきなり兵隊さんがやって来てさ、お客さんたちを捕まえるみたいなこと言いだしてね。子供まで追いかけて。ありゃあどういう事なんだろうね」


 まさか本当にここに泊まっていたとは思わず、和平は少しだけ驚いてしまっていた。


 兵士の何人かが顔を出していてくれればいい程度に思っていたのだが、まさか勇者本人がここにいたとは思わなかった。


 これも縁のようなものだろうかと和平はテーブルに座ってまずは女将と話をすることにする。


「表でも妙に苛立った兵士たちに会いましたよ。この街ではいつもあんな感じなんですか?」


「いやいや、あんなの珍しいわよ。今日ね、大きな魔物が外壁に現れたって大騒ぎになってたの。まぁそれは何とかなったみたいなんだけどねぇ。噂じゃ今日うちに泊まりに来た子たちがやっつけたんだっていうのよ」


「そりゃすごい。え?でもその人たちを兵士たちが捕まえに?」


「そうなの!意味が分からないわよねぇ?領主様ももう少し落ち着いてくれればいいのに……あぁごめんなさい。部屋、今用意しますからね」


 女将が二階にあるであろう客間を準備しに向かう中、和平は張り付けた笑顔を崩して目を細める。


「俺らの推察は大体当たってたってことだな。問題は、あれらの行き先か」


「現状、ここからトゥーの話した方角へ続くのはアルルゴウンだけかと。ほぼ確定とみてよいのではないでしょうか?」


「ここからアルルゴウンまでの道中、上から連中を見つけられると思うか?」


「発見はできるかと。しかし、その後に手を出せるかどうかは、運に左右されると思われます。山道となれば死角も多いですが、気配を察知できる者からすれば容易に周囲の存在を発見できます」


 クーランも周りの気配を読んで魔物などを見つけることを得意としている。


 戦闘型の中でも索敵能力にも秀でているのは彼女が護衛特化のホムンクルスだからなのだろう。


「死角が多ければ見つからないってことじゃないのか?」


「いいえ、死角が多く生き物の多い山間部や森林では、周りの生き物の動きなどでも異常を把握できます。平野よりも視覚的には把握できない部分がありますが、生き物の気配という意味では熟達した者でなければ気配を消すことは叶いません」


「……俺じゃすぐに見つかるってわけか」


「はい。なので山間部での接触はお止めになったほうがよろしいかと」


「専門家がそういうならやめておくか。さて、となると……どうするかねぇ?」


 思い通りにならないことを和平は楽しんでいるようだった。


 勇者という存在にようやく接触できた。それは和平にとって大きな一歩に違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 この町でのてんやわんや、因果が絡みあった、というか壮大な玉突き事故だったのね……。。 あの一手で良縁を繋いで魔王側からの追跡から逃れたの、領主が自爆しただけで世界的には爆アドだった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ