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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十七話「課題は多く、しかし先行きは明るく」

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0676:尽くす女同士

「よし。土砂の箇所、それと遠回りの道にそれぞれ仕込みをする。遠回りの方はどうするか……どれくらいの場所に仕込みをすれば効果的かな……?」


 可能ならば足を止める場所に嫌がらせに必要な仕込みをしておきたいところだった。


 しかし考えている時間もそんなにない。何せもうすぐ日が暮れる。まだ夕方になったあたりの時間であるためにそこまで暗くはなっていないが、ここから一時間もしないうちに日が落ちて一気に暗くなっていくだろう。


 そうなると移動にも仕込みにも手間がかかる。明日の朝までに仕込みをすればよいとはいえ、せっかくの時間を無駄にしたくない。


「主殿、具体的に仕込みとはどうする?」


「例えば……土砂の場所であれば、追加で土砂崩れを誘発しやすいようにするとか、がけ崩れを起きやすい感じにしておきたいな。遠回りの道だったら……地形にもよるけどオーソドックスなのは魔物を配置するとかなんだけど……相手は勇者だからな……もっと別のアプローチをしたいなぁ」


 魔物を配置するというのは和平ができる最も簡単な仕込みの一つだ。しかし魔物を仕込んだところで勇者にあっという間にやられてしまうのは目に見えている。


 もう少し別の形で勇者一行に対してちょっかいを出したいと考えている和平だが、なにせ今回の接触自体があまりにも突然のものであったが故に何も考えていなかったのである。


 もう少し考える時間と猶予をくれればまた違った形を思いつくのだが、地形調査も周辺の情報収集も相手の目的も何もかも準備が足りない。


 人手もなければ時間的な余裕もないとくれば、嫌がらせ目的とはいえ和平の取れる手段もかなり限られてしまう。


 虫たちを使っての嫌がらせも考えたが、この国であまり盛大に小動物や虫を使った工作はまだしたくない。


 あれは攻略方法が決まった後の手段であって、このような小手先で使うべきものではないというのが和平の考えだ。


「土砂の場所に関しては明確でいい。そちらは儂が受け持とう。作業中に追加の土砂崩れが起きるようにしておけばよいのじゃろう?」


「そんな感じで頼んだ。俺らはもう一つの街道の方に行っていろいろ考えてみる。トゥー、この街周辺の状況確認上空から頼んだ。俺とユニとの情報の橋渡し役になってくれ」


「心得た。しかし……随分と警戒するな?我が攻撃してみてもいいんだぞ?」


「それはやめろ。絶対だ」


 普段和平が発しない圧力がそこにはあった。今勇者に手を出してはいけない。今は手を出すべき時ではない。


 特にトゥーのような存在を勇者に近づけたくはなかった。有象無象の魔物とは違う。この世界に生きた、この世界で和平が初めて交わした、仲間だ。


 そんな人物をこんなところで鉄砲玉のように使い潰す気は毛頭なかった。


「ぁ……あぁ。わかった」


 和平の真剣な目と声音に、トゥーはわずかに心臓を大きく跳ねさせながらうなずく。


 この状況下で食いついていいほど、勇者という餌は甘くない。


 食らいついたら逆に食い尽くされてもおかしくないほどの巨大な罠だ。


「しかし、いつかは倒すのだろう?」


「あぁ、いつか倒す。絶対倒す。俺が、必ず」


 和平の中には強い執念のようなものが生まれていた。


 十年間、勇者のことを考え続けた。勇者を殺すことを考え続けた。


 人を攻め、街を攻め、国を攻め、そうして辿り着いた。


 この十年は、本当にあっという間に過ぎていった。決して軽くない、楽ではない道のりだったと思える。


 しかし、その中で和平の全ての中心にあったのは勇者だ。全ての行動は勇者を追い詰めるために。全ての策略は勇者を倒すために。全ての悪意は、勇者を殺すために。


 和平の全てを注いで、勇者を殺す。これはそういう仕事だ。


 和平の悪意に満ちた目を見てトゥーは目を細めて、小さく笑う。


 彼女は和平のその目が好きだった。純粋で混じりけのないまっすぐな目。熟練の狩人を彷彿とさせる、迷いない戦士を想起させるその目が。


「わかった。この場は見に徹しよう。その方がお前も動きやすいだろう?」


「あぁ、頼むぜトゥー」


「問題ない。軽くこなしてみせよう」


 トゥーが飛び上がるのを見ながら、ユニステラは渋い顔をする。


「あんないい女はそうそうおらんぞ?主殿はあれをどうするつもりじゃ?」


「ん?どうするってのは?」


「どのように使い潰すのかと聞いておる。あれは、心底お前に臣従するつもりじゃぞ?恐らくは、どこまでもついていこうとするはずじゃ」


 年老いたとはいえ女。ユニステラは女の勘でそう確信していた。


 トゥーは仮に和平が地獄を作ろうと、その地獄の果てまで付いていってしまう。そういう危うさを秘めていると。


「使い潰す?冗談じゃない。俺はあいつの最期をちゃんと見届ける。どんな形になっても」


 それはある意味最期まで添い遂げると聞こえなくもない言葉だ。しかしそれはそんなに優しい言葉ではないことをユニステラもわかっていた。


「あれを粗末に扱うことはいくら主殿とはいえ許さんぞ?肝に銘じておくことじゃ」


「意外だな。トゥーのことをユニがそんなに気に掛けるなんて」


「……同じ男に尽くす女同士、それにあんなにも健気にお前を想っているのじゃ。思うところくらいある」


 形は違えど、意味合いは違えど、ユニステラもトゥーも和平に尽くす女だ。そういう意味では彼女たちは同じ立場にあるのかもしれない。それ故に、放っておけないのだろう。


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