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無口な告白

作者: 有世けい

バレンタインが舞台の超短編です。







「申し訳ありません。来月は出張になりましたので、今年はどなたからのも遠慮してるんです」



2月14日、同期の男がそう言っているのを聞いたのは朝のことだった。

女子社員達は残念がり、陰で泣いている女の子もいた。

そのイケメンっぷりは社内でも有名で、毎年バレンタインには山ほどの贈り物を受け取っていたが、今年は3月14日に不在なので一切受け取らないことにしたらしい。

クールな容姿で冷たそうな印象もあるけど、誠実な彼らしい理由だなと思った。

けれど私は内心で溜め息を吐いていた。



今年、私は長年の片想いを終わらせるべく彼に初めてチョコを渡そうと思っていたのだ。







「あーあ、なんで今年に限ってあんな宣言しちゃうのかな。タイミング悪いにもほどがあるわよ」


私の告白を応援してくれてた同僚が恨めしそうに呟いた。


「きっと告白なんかしない方がいいっていうことなのよ。どうせ振られるに決まってるから」


社内一人気者の彼が、私に振り向いてくれるとは思えない。


「そんなこと言ってみなきゃわからないじゃない。……あれ?ねえ、そのピアスちょっと…」



同僚は私の耳を指差し何か言いかけたけど、ちょうど上司から呼ばれてしまい、その会話はそこで終わってしまったのだった。



一人残された昼休み、私は仕方なく行き場のなくなったチョコをロッカーにしまいに向かっていた。

おそらく、一目で本命だとわかる人にはわかってしまうであろう、上品なラッピングの高級チョコ。

宛名だけのカード付き。



「振られるにしても、告白ぐらいはしたかったな……」



落ち込みながら歩いてた私には、小さな箱でさえずしんと重たく感じられた。

けれど、何気なく見やった先、途中の会議室に見覚え以上に見覚えのある後ろ姿を見つけたのだ。

こっそり中を窺うと、彼が机に伏して眠っていた。


寝姿まできっちりしているようで、いかにも彼らしい。

遠目からでもドキドキしつつ眺めてると、ふと、ある考えが浮かんだ。



ズルいかもしれない。

卑怯かもしれない。

でも今を逃せば、もう一生チャンスは巡って来ないような気がしたのだ。



そう思うや否や、私はそっと扉を開けて眠っている彼に近付いていく。


そして枕代わりに頭を乗せている彼の腕の傍に、静かにそれを置いた。


贈り主不明になるけど、行先不明よりはマシだもの。

少なくとも、私にとっては…だけど。

でも、勇気を振り絞ったチョコなんだから。



多少の罪悪感と大いなる達成感を同時に味わっていると、彼が「ん…」と身じろいだので、私は慌ててその場を後にした。



だって、私の振り絞った勇気を、その場で突き返されたくはなかったから………







午後、離席して戻った私のデスクに見覚えのない封筒が置かれていた。

社内だから不審物ではないだろうけど、表も裏も無記名なのは珍しい。

不思議に思いながら中を見ると、ピアスがひとつだけ入っていた。



「え……?」



それは、今日私がつけてきたものだったのだ。

お気に入りで、最近毎日のように愛用しているピアス。


焦って両耳を触ると、右側のピアスがなくなっていた。



「じゃあ、これって、私の……?」



するとそこへ、タイミングよくメールが届いた。




”無口な告白は、確かに受け取ったよ。

今夜7時、車をまわすから駅で待つように。

俺もずっと好きだった”















無口な告白(完)






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― 新着の感想 ―
[一言] はずれかけていたピアスが、メッセージの代わりにしっかり役目を果たしてくれたんですね。 同僚が上司に呼ばれて付け直せずにいた訳で、上司のナイスアシストって事になるんでしょうか(笑) 何はともあ…
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