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青色メビウスメイズ  作者: 紀之貫
1年 1学期
5/100

第5話 最初のランチとお客様

 2限続きのHR(ホームルーム)は、何事もなく無事に終了。学級委員以外の役職も淀みなく決まった。

 その後の授業は、先生の顔合わせとオリエンテーション的なもので、特に出来事というほどのものでもなく。

 授業よりもお昼休みの方が、私たち新入生にとっては大きな関心ごとのように思える。

 端的に言えば、お友だち作りの時間ということで。


 校内には学食があるし、校則では外食も明確に許可されている。富裕層の子女に、一般的な金銭感覚を身に着けてもらうための措置のようね。

 ただ、初日から外へ行こうっていう子は、あまりいない。教室の中にはほとんどのクラスメイトが残っていて、とりあえずといった感じでお隣さんと席を寄せ合う流れができている。

 やっぱり、それが無難かしら。私も誰かに声をかけようと動き出したところ――


 廊下から一人の女子生徒がやってきた。緑なす黒髪って言葉が似合う、つややかなロングヘアで、しとやかな印象。間違いなく他のクラスの生徒で、おそらくは上級生。

 堂々とした(たたず)まいの、その女性が歩いていく先には、「例の彼」の席があって――

 予感は的中だった。継森君と何か手短に言葉を交わし合った後、彼が立ち上がって二人は教室の外へ。


 少し遅れ、男子数名が二人の後を追っていく。その中には相川君の姿もあった。

「まさか」とは思うけど、その「まさか」かもしれない。どう対応したものか迷うけど、何もせずにスルーしてしまうのも……


 気づけば私は席を立ちあがっていて、小走りに男の子たちの後を追っていた。私の後に誰か続く感じはなくて、それは少し恥ずかしいような。

 ともあれ、私は先行する一団に追いついた。


「みなさん、どちらへ?」


 歩調を合わせつつ尋ねると、答えてくれたのは……確か、新田君だったかしら? 自己紹介の時から、この学校では割と希少なお調子者っぽい感じがあった彼は、今回もテキトーなことを(のたま)ってきた。


「なんつ一か、果たし合いの立ち合い?」


「果たし合い?」


「巌流島みたいな」


「小次郎がわざわざ呼びに来たのですか?」


「プッ!」


 吹き出し笑いの新田くん。他の男の子たちは、こちらを向いて軽く目を白黒させている。


「いや~、ちゃんとツッコミ入れてくれるとは」


「面白いとこあんじゃん」


……ああ~、余計なことを言ってしまったかも? まずは悪目立ちしないよう、大人しくて温厚な子で行こうと思っていたのに。

 いえ、こうして追っかけ(・・・・)に混ざってる時点で、手遅れなのかもしれないけど。

 失策の照れ隠しに軽く咳払いして、私は相川君に話の矛先を向けた。


「それで、本当のところは?」


「さあ?」


 これは別に、はぐらかされているわけではなく、彼も「本当のところ」は知らないようだった。

 実際、それはそうでしょうね。あの先輩らしき女子生徒と、継森君の会話が聞こえていたはずもないのだから。なにか断言できるようなものはなかったはず。

 とはいえ、あの彼が呼び出しを受けたことに反応したあたり、何かしら感づくものはあったのだと思う。私と同じように。


「念のために聞きますが」


「ん?」


「何か、こう……プライバシーの侵害にあたるのでは?」


 互いに察するものはあり、立場上、お小言を言っておく義理はあると思った。

「それを言われると弱いな」と、同じ立場の相川君が苦笑い。


「で、止めに来たってことか」


 私は即答できなかった。

 実のところ、私は継森君が何かしらのアプローチを受けることになるものと考えている。それがお茶の誘い程度のもので終わるか、それとももっと重い――お付き合い等の打診かはわからないけど。

 一緒に早足で後をつけるみんなも、たぶん考えることは同じはず。

 念のための答え合わせに、私は問いかけた。


「いわゆる、野次馬しに行くわけですよね?」


「まあ、そう」


 アッサリと口を割った同級生に、なんだか妙な笑みが込み上げてくる。ああ、こういう学校にも、こういう……飾らない生徒がいるんだって。


「で、藤原さんは止めに来たのか?」


「このままだと共犯だな~」


 実を言うと、どちらとも言い切れない自分がいる。そろそろ決めなければならないところだけど。

 前方の二人の足取りは、どうやら校舎の外へ向かう様子。彼がどこへ連れ込まれるにせよ、タイムリミットは近い。

 ただ、私のスタンスを明らかにする前に、聞いておくべきこともある。


「みなさんは、単なる興味本位ですか?」


 朝の様子では、相川君と新田君は、継森君と知り合いらしかった。何かしら、もう少し深い事情を知っている可能性はある。

 事実、他のみんなは興味本位だと認めたけど、この二人は少し違っていた。「そういう興味もあるけどさ」と認めつつ、新田君が口を開く。


「知らんぷりするのも、なんか違う気がしてさ」


「だな。すでに首を突っ込んでしまってる件というか」


 なるほどね。継森くん含め、彼らの中ですでに何かあった後というのは、まず間違いなさそう。

 さて、予想通り校舎の外へと足を向ける二人を見て、私は軽く息を吐いた。


「野次馬は感心しませんが……クラスメイトについて、知っておくべきこともあるかとは思います。相川君たちは、コレ(・・)そう(・・)だと思ってるわけですよね?」


「まあ、そうだな」


「しかし、何もこんな人数で行くことはないのでは?」


 私の提案に、男の子たちが顔を見合わせた。


「じゃ、前の二人だけで追っかけるか。頼む」


「りょ」


 相川君が手短に指示を出し、部隊が分割することに。入学早々、チームワークでいいわね、うん。

 それと……直接覗きに行くわけではないけど、これでも私も関係者ね。ある程度は情報を得られるだろうし……

 おそらく、継森君と一番近しい仲、あるいはそうなるであろう男の子たちとの縁ができた。落としどころとしては無難だと思う。

 追跡する二人を見送り、私たちは顔を見合わせた。


「昼、どうする?」


 聞かれはしたものの、答えはもう決まっているようなものだった。


「せっかくですし、一緒に食べませんか?」

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