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短編集・散文集

髪留め

作者: Berthe

 柚絵(ゆえ)は目元へ落ちかかる前髪を幾度も手ではらい耳にかけながら、それでもはらりと落ちて来るので、仕方なしにそこらを見回しながら見つけた髪留めに前髪をはさみ、そのままもとのように韓国語の参考書に没頭しようとはするもののどうしても気に掛かってしまう。


 本をそっと閉じながらつと立ってドレッサーへ寄り、やり直そうとしたところで、髪と額との境に覚えのない小さな赤い出来物を認めるや否やたちまち柚絵は目を見張って鏡へくっつくほどに小さな白い顔を近寄せ、舌打ちすると、もう眉根を寄せながらそこへじっと睨みをきかせるうち、今一度舌を鳴らして髪留めをぬきとりながら鏡へ背をむけた。


 どうせ四五日もするうちには、きっとすっかり赤みも引いて真っ白な清い肌に回復するのは経験からも分かってはいるものの、いざ不純物が出来たとなるとどうも悔しくてならない。


 いつしかドレッサーの縁に尻をもたせて細く長い脚を物憂げに組みながら、ぼんやりと沈み込み、はらりと落ちかかる髪の毛を手で押しのけるのさえ煩わしいような心持ち。折からふと一枚の壁を隔ててつたう優しく爽やかな静音。


 その音に耳をとられるうち、柚絵は鬱々たる心が静かに晴れて和んでゆくのを覚えながら、すっと鏡に向き直って髪をかき上げると共に髪留めを差し込むと、いつものごとく顔の左右を見くらべながら塩梅を考えている最中、急に照れくさくなって髪留めを抜きとりながら髪を振ると共に鏡へ背をむけた。


 折から隣の戸の開く音がしたかと思うと、背の高い引き締まった付き合って間もない彼が来て、切れ長の目でこちらを見据えるなり声もなくつかつか歩み寄ると、風呂上がりの火照った顔で見下ろしたまま柔らかに微笑んだなり柚絵の頬に音もなく触れた熱の冷めない指先は腕を愛しげにそっとすべりゆく間もなくすぐさまむきだしの白く(たお)やかな腿へと忍び寄って来るのに、柚絵はふいにぽっとなって我にもあらずどきどきするままぐっと髪留めを握るうち、ふっと前髪の奥の小さな赤い出来物が気になりだして、それを幸いもうその事のみに専心しようと努めだした。

読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] はうー(๑´ฅωฅ๑)照 Bertheさまの描く男性ってなんでいつもこんなに格好良いんでしょう?色っぽくて存分にどきどきさせていただきました! 前髪がきまらなくて落ちてくる感じが鬱陶しかった…
[良い点]  面白かったです!色っぽくて良かったです!女性の髪を耳にかける仕草や、お風呂上りの火照った男性にはドキドキせずにはいられませんでした!  出来物を見つけてしまった時ってムカつきますよね!…
2023/03/13 22:48 退会済み
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