絶対に○○させない天使
「自殺してはいけません」
ホームセンターでロープを購入してみたは良いもののそれを天井から吊るす梁みたいなものが安アパートの自宅にあるはずもなく、一体世の首吊りした人たちはロープの片端を部屋のどこに引っ掛けてことを終えたのかと今更ながら思い悩んでいるとき、突然部屋の真ん中に天使が現れた。輝くばかりの金の毛髪を光輝に靡かせた、スマホゲームのキャラだったらSSSランクくらいのレアリティがつきそうな結構な見た目をした奴だった。
「自殺したら天国へ行けなくなってしまいます」
天使は言った。
「別に自殺しなくたっておれは天国には行けないんじゃないの? 沢山悪いことしてきたしさ」
尋ねると、天使はきっぱりと首を横に振った。
「いいえ、あなたの悪行なんて自殺という大罪に比べればないも同じのちっぽけなものです」
「何だと」
おれは怒って天使に飛びかかった。頭に血が上ると自分でも何をしでかすかわからないのがおれなのだ。
天使は思いの外腕力のない奴だった。組み伏せ、逃げられないよう背中に生えた左右の羽を捥いで床に放り捨てた。千切れた肉の断面から赤い血が迸り、部屋中に飛び散る。天使は喉の奥から獣のような叫び声をあげ、ぐったりと床の上に突っ伏した。
「どうだ、ひどいだろ」
興奮して尋ねると、天使はそれには答えずおれの下で身を捩った。這って抜け出そうとしている様子だった。
おれは腹が立ち、天使の頭上に浮かんでいた光輪を鷲掴みにした。すると天使は「あっ」と短く叫び、びくんと身体を震わして糸の切れた人形みたいに動かなくなった。放してもすぐには元気を取り戻さない様子だったので、その間に手に持っていたロープで両手両足を縛り上げた。ろくな抵抗もなかったので、仕事はすぐに済んだ。
「これでもおれが天国に行けるって言うのか?」
仰向けにひっくり返し、前髪を掴んで顔を上げさせ、焦点の合っていない虚な目をして浅い呼吸を繰り返している天使の頬を気付けにペチペチ叩きながら訊いてみた。
天使の瞳に僅かに光が戻った。天使は涙でびしょびしょに濡れた大きな双眸をこちらへ向けると、僅かに唇をわななかせ、それでもにっこりと優しく微笑んでみせた。
「ええ、勿論。あなたが本当は良いひとだって、わたしは知っていますもの」
話にならなかった。
こいつは人間の善性しか知らないのだ。或いは、見るつもりがないのだ。
「この世は救うに値しない悪人ばかりだってことをおれが教えてやるよ」
おれは天使に向かってそう宣言した。
何十年掛かっても、こいつに悪の存在って奴を認めさせなくてはならない。
自殺なんかしている場合じゃなかった。
絶対に自○させない天使でした。




