表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/82

徳川の軍議

 義信が三河攻略を進める中、躑躅ヶ崎館では義信の長男、彦太郎が侍女に世話をされていた。


「食べ終わったー!」


 彦太郎のお椀を覗き、侍女が声をもらした。


「まあ、まだお米が残っているではありませんか。

 ひと粒残らず食べなくては、バチが当たりますよ」


「そうなのですか?」


 彦太郎が尋ねると侍女が頷く。


「甲斐の民が丹精込めて育てたお米です。上に立つ者として、粗末にしてはなりませんよ」


「わかりました!」


 彦太郎が不慣れな箸使いでお椀から米を摘もうとする。……が、どうにもうまくいかない。


 やがて、彦太郎が手づかみでお椀についた米を食べ始めると、その様子を侍女たちが微笑まし気に見つめるのだった。






 岡崎城の包囲が続く中、義信が雑兵たちに向かって声を張り上げた。


「ひと粒残らず略奪しろ! 残してはバチが当たるぞ!」


「「「オオオオオオ!!!!!!」」」


 雑兵たちが村々に群がっていく。


 その様子見て、飯富虎昌が苦々しげな表情で尋ねた。


「若、よろしいのですか」


「なにがだ」


「これだけ派手に略奪をしているのです。……今ごろ、城内の兵たちは我らに怨みを募らせ、士気が上がっていることでしょう」


「いいんだよ。それが狙いだからな」


「は!?」






 武田軍に包囲された岡崎城内では、軍議が開かれていた。


 当初は織田からの援軍を待つ籠城派が主流だったが、武田軍の略奪が続き、日に日に城からうって出ようという野戦派が勢いを増していた。


「これ以上武田の蛮行を見逃すなど、もはや堪えられませぬ……。殿、出陣の許可を!」


「ううむ……」


 家臣に詰め寄られ、家康が考え込む。


 家康とて、武田の蛮行は聞き及んでいる。


 田畑を刈り取り、村々に火を放ち、城外に残る民を攫い続けているという。


 やっとの思いで今川からの独立を果たし、一向一揆を鎮めたにも関わらずこうも領地を荒らされては、なんのために国内をまとめたのかわからないではないか。


「殿、ご決断を……!」


「殿!」


「殿!」


 家臣たちが家康に詰め寄る。


「ううむ……」


 武田軍の蛮行は、家康とて(はらわた)が煮えくり返る思いだった。


 しかし、決戦を避け岡崎城に籠城したのは、精鋭揃いの武田軍を避け、信長からの援軍を待つためだ。


 それなのに、やすやすと籠城を解いていいものか……。


「すでに岡崎城周辺の村々は荒廃しきっております。殿が立ち上がらなくて、誰が三河の民を守れましょう!」


 そこに至り、家康はようやく自分の原点に思い至った。


 今川の手に落ちた故郷を取り戻すため。

 三河を大国の好きなようにさせないため。

 自ら大名となり、立ち上がったのではなかったのか。


「……皆の気持ち、よくわかった」


 家臣たちを見回し、家康が声を張り上げる。


「今こそ、武田に報いを与える時ぞ!」


「「「オオオオオオ!!!」」」






 岡崎城の城門が開くのを見て、飯富虎昌が義信に報告に上がった。


「殿、岡崎城南門より、徳川軍が討って出ました!」


「来たか……!」


 堅城である岡崎を力攻めしては、こちらの損害も大きくなる。


 そのため、義信は包囲による落城を狙っていた。


 だが、他ならぬ家康が野戦を望むというのなら、話は変わってくる。


「見せてやれ、(じい)。お主の率いる赤備えを!」


「はっ! 三河の田舎者に、我が精兵を味わわせてくれましょうぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ランキングで挙がっていたから誰書いてるのかな?って思ったら、あんた木村さん家の人だったんか(笑) 今回も流石の略奪でございます(笑) [一言] 三方ヶ原の戦いもそうだったけど誘い出して城か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ