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浅井戦の後

 浅井軍の追撃が終わると、上杉謙信は朝倉義景に詰め寄っていた。


「朝倉殿! なにゆえ戦いに加わろうとせなんだ!」


「ご、誤解じゃ。儂らも浅井と戦ったぞ。……ほれ」


 朝倉義景の指す先。


 陣の片隅では、負傷した朝倉兵が味方から手当を受けていた。


 しかし、単純な損害は浅井軍の猛攻をもろに受けていた上杉軍の比ではない。


 案の定、謙信がわなわなと震える。


「……かような児戯にて浅井と矛を交えたと申すつもりか」


 謙信に詰め寄られ、朝倉義景の額に汗が浮かぶ。


「いや、いやいや。儂らとてな。何もしなかったわけではないのだぞ。上杉殿と浅井殿が戦わずに済むよう、裏で手を回そうとしたのだ。

 ……此度は間に合わなかったが、あれほどの大軍を失ったのだ。浅井殿もしばらくは大人しくなろう。

 ……これで美濃攻めの憂いもなくなったのだから、本腰を入れて侵攻ができるというもの」


 違うか? 朝倉義景が視線で尋ねる。


「……ならば次の城攻め、その(ほう)が先陣をきって攻め入るのだな?」


 今回の戦い、朝倉軍は静観の構えをとっていたため、比較的損耗は軽微だ。


 今回戦わなかった分、次は本腰を入れて戦ってほしい。


 謙信は暗にそう匂わせいた。


 案の定、朝倉義景の顔が曇る。


「いや……いやいやいや。儂が出張るより、上杉殿が指揮した方が早かろう。越後の龍が直々に出陣するのだ。どんな城もたちまち落として……」


「……もうよい」


 義景の言い訳を最後まで聞くことなく、上杉謙信が朝倉軍の陣をあとにした。


 謙信が去ったことを確認すると、義景はその場に座り込んだ。


「怖かったぁ……」


「次、上杉様がいらしたら、如何しましょう」


「……その時は、仮病とかなんとか言って追い返しておけ」


 あんなにヒヤヒヤさせられるのは、もう御免だわい。


 朝倉義景が小さくつぶやくのだった。






 自陣に戻ると、謙信は嘆息した。


 朝倉が浅井と同盟を結んでいたのはわかっていたが、朝倉はこちらの軍に加わったのだ。


 ということは、当然浅井と戦うことになるのも織り込み済みのはずである。


 それが、土壇場になって朝倉義景は浅井と戦うのを放棄して、静観の構えをとった。


「これでは、なんのために参陣しているのかわからぬではないか……」


 上杉と朝倉は長年に渡り対一向宗の盟友として親交を深めてきた。


 それだけに、これしきのことで朝倉を見限ることはないと言い切れる。


 しかし、今回の行動で朝倉義景に失望したのもまた、確かであった。


 謙信の胸中を察してか、直江景綱が口を開いた。


「朝倉家とは長年の盟友なれど、此度のようなことが続くのであれば、今後の付き合いも考えなくてはなりませぬな」


 景綱の言い分も間違っていない。


 それだけに、謙信が押し黙るのだった。

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