表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/82

遠慮せずにと言われたので

「そこで父上には、三河侵攻に向け寄騎をつけていただきたくお願いいたしまする」


 現状、義信の配下は傅役で武田家宿老の飯富虎昌。

 奥近習衆の長坂昌国。

 乳人子の曽根虎盛をはじめ、次代の武田家幹部候補がつけられている。


 しかし、彼らもまだまだ若い。


 いずれも信玄の目にかなう優秀な若者とはいえ、未だ経験不足は否めなかった。


 そこで、義信は戦や城主などを任せられる経験豊富な家臣を求めていた。


「……誰ぞ欲しい者がおるのか」


「いるにはいるのですが……」


「遠慮せず申せ」


「はっ、馬場信春、飯富昌景、内藤昌豊の三名を預かりたく……」


「むぅ……」


 義信の要求に、信玄は顔をしかめた。


 遠慮なく言えとは言ったが、遠慮がなさすぎる。


 これら三人はいずれも優秀な家臣で、武田家で重責を担う者たちだ。おいそれと動かすわけにはいかない。


 信玄が首を振った。


「…………………ならん。皆、信濃各地を治めるのに必要な者だ」


「父上が遠慮せず申せと言ったのではありませんか」


 痛いところを突かれ、信玄がウッと怯む。


「…………その者たちでなくてはダメなのか?」


「お言葉ですが、今川を獲る戦はすでに始まっております。出し惜しみをするくらいなら、全力で挑まれませ」


「むぅ……」


 義信の言葉は正しい。


 すでに今川家家臣団に調略を進めており、北条に対しても上杉をぶつけた。


 ここまで来て、今さら引き下がるというのも難しい。


「父上!」


 義信に詰め寄られ、信玄が気圧される。


 やがて、渋々といった様子で頷いた。


「…………よかろう。しかし、この者らもすでに代官として仕事を抱えておる。……それゆえ、お主が三河侵攻をする際、こやつらに軍を持たせて出撃させる」


「……………………」


「これ以上、儂は譲る気はないぞ」


 義信の顔がふっと緩む。


 義信とて、自分の要求がすべて通るとは思っていない。


 ある程度人材を補給するか、信玄からの援軍を獲得できれば、義信としてもそれでよかった。


「武田の誇る名将を援軍に下さるのですから、これ以上頼もしいことはありませぬ。

 無理難題をお聞き入れくださり、ありがとうございます」


 自身の要求が通ると、義信が頭を下げるのだった。






 躑躅ヶ崎館を出ると、曽根虎盛が興奮した様子で馬に跨った。


「しかし驚きました。調略ばかりか、すでに今川家臣の内応を取りつけていたとは……。さすがは若……先の先まで手を打っておられる」


「ああ……」


 義信が頷いた。

 そういえば、そんなことも言ったな。


「あれは嘘だ」


「……………………は?」


 呆けた顔をする曽根虎盛に、義信が続ける。


「手土産が長篠城だけでは足りぬと思ったのでな。いくつかニセの書状を用意しておいたのだ」


「はぁ!?!?!?!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 無責任大名さんとは違うパターンですが、やっぱハッタリやは言ったもん勝ちの姿勢は面白い。ケツに火がついてのドタバタ、無理矢理の匂いがワクワクです
[良い点] 悪党だなぁ。(^_^)
[一言] >「あれは嘘だ」 しれっと言いやがったwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ