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飛騨防衛戦

 永禄12年(1569年)5月20日。


 飛騨の国境に織田軍の旗が見えた。


「織田家が目前まで迫ってきました!」


 武田軍の陣が見えると、長槍を携えた織田軍が突撃を仕掛けてきた。


「よし、弾込めをせよ! 矢をつがえ!」


 武田軍の弓兵と鉄砲兵が弾込めに入る。


 終わったのを見計らって、侍大将が采配を振るう。


「構え! 撃てッ!」


 槍を構えて突撃する織田兵に、矢弾の雨が降り注ぐ。


「今ぞ! 弾込めしている隙に攻めかかれ!」


 混乱する織田兵に武田の槍兵が槍を奮うのだった。






 織田軍の侵攻が始まって、半日が経過した。


 当初は防衛陣地を造って優位に立ち回っていた武田軍であったが、次第に織田軍に押され始めていた。


「やはり鉄砲の数、練度が違いますな……」


「我らが10撃つ間に、あやつらは30撃ってくる……」


「これではいたずらに兵を消耗してしまいますぞ」


 織田との物量差を前に、武田家臣たちが口々に弱音をこぼす。


 このまま手をこまねいていては、ジリ貧になるのは目に見えていた。


「爺、あれを使うぞ」


「はっ」




 織田軍との戦いのさなか、武田軍では大規模な山狩りを実施していた。


 もちろん、これは山側からの奇襲を防ぐためではあるのだが、他にも理由がある。


 織田軍と死闘を繰り広げる山の中腹。木が切り倒され、一部では山肌が露出していた。


 それもそのはず、織田が飛騨に攻めてくるとわかった時に、丸太を用意して織田軍の脇腹を崩せるよう罠を作っていたのだ。


「かかれ!」


 丸太を堰き止めていた縄を切ると、何本もの丸太が勢い良く斜面を転がる。


 遮るものがなく、次第に速度を増していったそれは、やがて織田軍の脇腹を貫いた。


「なっ、なんだこれは!」


「ま、丸太!?」


 突然の強襲に、織田兵たちが浮足立った。


 ある者は丸太の直撃を受け、ある者は逃げようとして崖下に転落し、またある者は武田軍に背後を晒して矢弾に貫かれる。


 織田軍の前線はたちまち混乱状態に陥ってしまった。


「敵が浮足立っておる。……今ぞ!」


 飯富虎昌が刀を抜くと、武田が誇る精兵、赤備えが山を駆け下りた。


「なっ、あれは!」


「赤備え……!」


 未だ混乱の渦中にいる織田兵たちが、次々と赤備えに葬られていく。


 蜘蛛の子を散らすように逃げ出す織田兵に飯富虎昌は追撃をかけるのだった。






 おまけ


 美濃と飛騨の国境で武田軍と織田軍が激突した。


 あらかじめ逆茂木や土嚢で防御陣地を築いていたこともあり、織田軍の攻撃を凌げてはいるが、依然予断を許さない状況には違いなかった。


「幸い、兵糧は十分にある。2、3ヶ月は食うに困らぬぞ」


「なんと……」


 今回の事態を想定したかのような用意の良さに、飯富虎昌は思わず感嘆の声を漏らした。


「しかし、飛騨を降すのなら、それほど兵糧は必要ありますまい。……なにゆえこれほどの兵糧を用意したのですか?」


 飯富虎昌の質問に割って入るように、雨宮家次が報告に上がった。


「お館様! 越中までの進軍路を確保してまいりました。すぐにでも越中に攻め込めま──なんでもありませぬ」


 飯富虎昌の顔を見て、雨宮家次が踵を返した。


 案の定、飯富虎昌がわなわなと震えた。


「まさか……飛騨を平定したのち、すぐさま越中に侵攻するおつもりだったのですか!?」


「うむ」


 織田軍が飛騨に攻めなければ、この足で越中まで進軍するつもりだったのか。


 隙あらば攻め入らんとする義信の抜け目なさに感心しつつ、飯富虎昌が諭すように言った。


「しかし、攻め込もうにも大義名分がございますまい……。第一、此度の遠征は公方様をお迎えに上がるためのものでしょう!? 甲斐とは真逆の方角に行軍して、公方様にはなんと申し開きをするおつもりだったのですか」


「慣れぬ土地ゆえ、道に迷ってしまった、と」


「それは……無理があるでしょう……」


 あまりに強引な言い訳に、飯富虎昌が呆れた様子でつぶやくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 越中は不味いね(笑) 上杉の従属国が治めてるし…
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