聖女に選ばれたが思っていたのと違う
何か聖女が今流行ってると聞いたので。
書いてみて思いました。あっ、やっぱテンプレ書けないな……
あたしはセシル。
何処にでもいる様な取るに足りない村娘だ。
日々森に行って薪を拾ったり果物をとって暇な時は絵を描いて。
両親と共に穏やかに暮らしている。
本当に普通の人生。そのはずだったのに……
「突然ですがあなたは聖女に選ばれました」
ある日やって来た女神教の人達がそう告げた。
15歳の誕生日に受けた『鑑定の儀』とかいうものの結果らしい。
あたしが聖女だと聞いて両親は大喜びだ。
聖女って……えーと何だっけ?
何かこう、凄い力を持っていて神様に愛されてどうのこうの……うん、わからん!
とりあえずこのイリス王国においては凄くて偉い人、だったと思う。
村をあげて盛大な宴が開かれた。
両親は泣いていた。
どうやらこれから私は親から離れて聖女として生活するらしい。
両親との別れを惜しみながらあたしは王国内にある聖女宮と呼ばれる場所へ連れて行かれた。
□
聖女級の入り口では修道服を纏った年配の女性が待っていた。
メガネをかけたその表情は険しく神経質な感じだ。
「貴女が新しい聖女ですね」
「あの……セシル、といいます。その……」
「私の名はアグネア。この聖女宮の管理者です」
管理者。
なるほど、道理で厳しそうな雰囲気のはずだ。
やはり聖女たるもの厳しい戒律を守らなくてはいけないのね。
「よ、よろしくお願いします!!」
「……B+、と言った所ね」
アグネアさんがポツリと呟く。
「えっ?」
ひ、ひぃぃぃぃ!!
怖い怖い!
早速あたし、色々と値踏みされてる!?
評価つけられちゃってる!?
「今日の笑顔はB+。新しい聖女を少し怖がらせてしまったわね……」
手鏡で自分の顔を眺めながらアグネアさんはため息をつく。
あれ?この人、もしかして優しい?
「聖女宮ではあなたの他に何名か先輩の聖女達が生活しています。わからない事があれば色々聞いてみるといいでしょう」
私を建物の奥へ案内しながらアグネアさんは説明をする。
なるほど、やはり先輩がいるんだ。
となるとやはりここは陰湿ないじめがあったりして色々と過酷な環境に置かれる。
きっとそうに違いない。
不安で胸がいっぱいになりながら『聖女エリア』と呼ばれる区画に足を踏み入れる。
そこには堀の深い顔をした年配のおじさんが座りながら木彫りをしていた。
「あの人は……」
あたし達のお世話係のおじさんだろうか。
「ライトさん。また木彫りですか……今日は何を彫っているのですか?」
「おお、アグネア殿。今日は槍で貫かれる盗賊の像を彫っています」
いや、何物騒なもの彫ってるんですかこのおじさん!?
「ところでそちらのお嬢さんは……この間言っていた新しい聖女ですか?」
「その通りです。さぁ、自己紹介を」
「えっと……セリスといいます。右も左もわからず迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」
「こちらこそ。私はライトと申します。あなたの先輩聖女ですね」
とても丁寧で優しいおじさんだけど……何か今変な単語が口から飛び出した気が。
「えっと……すいません。聖女って……今、聖女って聞こえた気が」
「ははっ、お恥ずかしながら今年で60歳を迎えましてな。まさかこの歳で聖女になれるとは」
いや、やっぱり『聖女』って言ったよね!?
どう見てもおっさんじゃない!?
いや待てよ。もしかしてこの人、実は見た目がおじさんなだけで実は女性だとか。
「妻と娘も喜んでくれています」
やっぱり男じゃん!!
今、言ったよね?『妻と娘』って言ったよね!?
あれ、聖女って男性がなれるものだっけ?
そもそも既婚者ですよ!?
そんな事を考えていると色黒の女性が皿を持って現れた。
歳はあたしより少し上くらいでスリムな女性だ。
「あの人も聖女ですか?」
「はい。コノアですね。彼女は東方の国からの移民でして……」
コノアさんか……良かった。
若い女性もちゃんといるんだ。
お皿を持ってきたってことは何か食べるのかな?
聖女の食事って言うとやはり質素なものかな?
だが皿の上に載っていた者は何だか無機質な物体で……あれ?
「あれって……」
「あれはグリスコルの背骨ですね」
すいません。物凄く訳のわからない単語が飛び出てきました。
グリスコルって牙を持った大型のサソリ型モンスターでその尻尾で木にぶら下がって頭上から襲い掛かってくるあの凶暴な奴だよね?
理解が追い付いていない中、コノアさんは皿に乗せられた背骨にかぶりつくとゴリゴリと音を立てながら咀嚼を始めた。
「いやいや何で!?何で背骨食べとるね!?」
あまりの出来事に思わず訛りが出てしまった。
「彼女は背骨の中にある髄液が大好物でして。ああやって喰らっては自身の力にしているのです」
「いや、バイオレンス過ぎる!髄液を喰らう聖女!?」
「彼女は『健啖の聖女』ですからね」
健啖の聖女ってそれただの食いしん坊なんじゃ……
「ちなみに私は『木彫りの聖女』です」
いや、あんたは『女』じゃないでしょ?
「セシル、驚いているのですね」
「え、ええまあ……」
「無理もありません。あの背骨が載っている皿は名工として名高いエンデ氏の作品なのですよ」
「そこじゃないです!!」
ダメだ、頭が痛くなってきた。
そんな事を考えているとコノアさんが近づいてくる。
「えっと……」
「新シイ聖女、歓迎。コレアゲル。食ベテクダサイ」
「食えるかぁ!!」
「オーウ、ザンネン」
ああ、おうちに帰りたい。
平凡な生活に戻りたい。
「まあ、最初は中々慣れないと思います」
「慣れたら人間として終わる気がしますけど……ていうかそもそも何故男の人が聖女なんですか!?」
「いいですか、セシル。この空間をよく見てください。これは何だと思いますか?」
「変人の集まりです」
もう色々はっちゃけることにした。
「なるほど。いいですか、これは『多様性』というものです。確かに幅広く戸惑う事もあるでしょうが聖女の力を持ち、平和を愛する者たちであることは変わらないのです」
ライトさんとコノアさんを見る。
そうか……確かに性別だとか年齢だとか民族だとかにこだわるのはおかしいのかもしれない。
聖女の力を持ち、そして平和のために祈っている。
それは紛れもなく『聖女』の資質なのだろう。
「そうですね……あたし、まだまだ見識が狭いですね」
「これから養っていくといいでしょう。あなたが立派な聖女になれるよう祈っていますよ」
「はい、アグネアさん!!」
瞬間!聖女宮に警鐘が鳴り響いた。
「これは……」
兵士が一人入ってきて報告する。
「カロン峠にて災禍獣が出現です!行商人が襲われている模様です。至急、救援を願います!!」
えっ何?
今色々と訳の分からない単語が……
「仕方ありませんね。ライト、コノア。セシルを連れて出撃してください!セシルに聖女の仕事が何たるかを見せてあげるのです!!」
「はっ!」
「ワカリマシタ!サア、セシル、私ト行キマショウ!!」
え、何?
聖女の仕事ってお祈りとかじゃないの?
情報量多すぎて頭おかしくなりそうなんですけど!?
この後、あたしは先輩聖女二人が禍々しいモンスターと戦う姿を見せられた。
どうやら聖女の仕事というのはこういう特殊なモンスターを倒すことらしい。
お父さん、お母さん。
あたし、聖女としてやっていけるか、ちょっぴり不安です。
サソリは本来、背骨の無い無脊椎動物に分類されます。
今回、コノアが食べていたモンスターはサソリに似た姿なのであってサソリではありません。
なので背骨がある無脊椎動物系のモンスターだったりしますのでご了承ください。