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お気に入り小説2

強い公爵令嬢はわざと弱い令嬢を演じたい。すべては愛する騎士の為に。王太子殿下の求婚ですって?断る為に全力で勝負させて頂きます。

作者: ユミヨシ

アルメディーナ・セレスティア公爵令嬢は銀の髪が艶やかで通った鼻筋、澄んだエメラルド色の瞳、それはもう美しき令嬢だ。歳は17歳である。

彼女には男らしい黒髪碧眼の強い騎士の婚約者がいる。

レクトス・ミルフレッドは、歳は18歳。まだ若き騎士団所属の騎士だ。


身分は伯爵令息だが、剣技が優れていて、アルメディーナに王宮で行われた剣技大会で見初められ、セレスティア公爵家のごり押しで、レクトスはアルメディーナの婚約者になった。


アルメディーナは、レクトスに惚れ切っていた。


「レクトス様。今日のデートは楽しかったですわ。」


「いや、大した所へ連れていけなくてすまない。公爵令嬢の君に取って、

ふさわしくない場所だろう?」


騎士の給料なんて大した事はない。

だから、高いレストランで食事をする事や、高級な宝石店でアクセサリーを買ってやる事も出来ない。


アルメディーナはホホホと笑って、


「構いませんわ。貴方と一緒に拝見した美術館、とても勉強になりましたもの。」


「そう言ってくれると、俺は嬉しい。」


こうして、楽しい一日をレクトスと時間を共にして、アルメディーナは幸せ一杯だったのだ。


ただ、アルメディーナはレクトスに秘密にしている事があった。


- わたくし、腹筋が割れているのよ。脱いだら筋肉バキバキなの。

剣技だって、レクトス様より強いわ。遥かに…ああっ…レクトス様はわたくしの事をか弱い令嬢だと思っている。今更、真実を言えないわ。-


今日だって美術品を見ている時だって、


「大丈夫か?疲れないか?あそこのベンチで休もう。」


やたら、レクトスはアルメディーナを心配してくるのだ。


何故に?貴族の令嬢は皆、か弱いイメージがあるのかしら?



仕方がないので、か弱い令嬢の振りをする。

額に手の甲を当て、瞼を瞑り、眩暈がしたふりをして。


「ああ…有難う。丁度、眩暈がしたところなの。一休みするわ。」


「それがいい。飲み物を買って来よう。」


レクトスが下の階へ降りていったのを確認して、

ベンチからすくっと立ち上がると、えいやっ。たぁっと回し蹴りをし、

空に向かってパンチを繰り出し、身体を動かす。


僅かな時間でも身体を鍛えたい。

今日は、デートがある分、筋トレが出来なかった。身体がなまってしまうわ。

早朝ランニング、明日は何キロ走ろうかしら。


階段を上る足音がしたので、慌てて、ベンチに座り、気分悪そうな演技をする。


レクトスが暖かい飲み物を二つ、手に持ってきて、


「大丈夫かい?ほら、温かい紅茶だ。」


「有難うございます。レクトス様。」


紅茶のカップを両手に持ち、ゆっくりと飲み喉を潤す。


- ああ、幸せだわ。レクトス様と一緒にいると、自分が女性だって実感するわ。-


両親も兄も姉もいるが、家族皆、筋肉バリバリ鍛える派であり、そして、剣技も優れているやり手だ。

だから、騎士団の好青年で、剣技に優れているレクトスと結婚したいと言っても家族は誰も反対しなかった。


剣技に優れている。


それだけで即OKだったのである。

例え彼が平民だって、剣技に優れていさえすればOKしただろう。


彼は伯爵家の次男なので、結婚したら、騎士の妻として王都で屋敷を買い、暮らすつもりだ。


ただ、悩みと言えば、レクトスが自分の事を高貴なか弱い令嬢だと思っていると言う事だ。

アルメディーナは世間に腹筋が割れて、剣技に優れている令嬢だという事を隠している。

両親や兄姉にも、嫁の貰い手がなくなると言いくるめて、秘密にしてもらっていた。

特にレクトスには知られたくなかった。


愛する騎士様には守られたいのですわ。


こうなったら一生隠し通してやるわ。愛するレクトスに守って貰おう。

そう、アルメディーナは思っていたのであったが。




愛するレクトスとデートを重ね、幸せを満喫して、

そんなアルメディーナであったが、その幸せを脅かす事件が起きた。


王家がセレスティア公爵家の令嬢と婚約をしたいと、言ってきたのである。

アルメディーナは美しい令嬢だ。それが噂になって、バルト王太子殿下の目に留まったらしい。

王立学園にアルメディーナは通っている。しかし、来年で卒業である。

卒業したら愛しいレクトスと結婚するつもりでいたのだ。

王立学園でバルト王太子に会った事はない。彼とはクラスが違うのだ。

遠目で見た事はあるが。もしかしてどこかで見られた?

王立学園でも筋肉令嬢だと言う事は秘密にしている。

品の良い高貴な令嬢のイメージで押し通しているのだ。


これは諦めて貰わないと。


愛しいレクトスと結婚するのだ。それを王家は邪魔しようとしている。


父であるセレスティア公爵は困ったように。


「王家の命は断れない。私もレクトスの事は気に入っていたんだがな。」


セレスティア公爵夫人も、


「アルメディーナは王立学園での成績も、目だっていい訳でもないのに…ねぇ。

見かけだけは美しいから騙されたのかしら。」


と、酷い言い草。


兄もダンベルを手に、筋トレしながら、


「騙されたに違いない。気の毒な王太子殿下だ。」


姉もスクワットをしながら、


「そうねぇ。わたくしは貴方と違って、美人じゃないし、面食いなのかもしれないわ。」


姉とは2歳違いで、姉はいまだ独身である。

いくら面食いだからと言っても、アルメディーナは戦う事にした。


王太子殿下に諦めて貰いましょう。わたくし、必ずレクトス様と結婚してみせるわ。




王宮の夜会に招待された。

バルト王太子殿下から送られた銀のドレスを身に纏い、夜会に出席するアルメディーナ。


バルト王太子も銀の髪にエメラルドの瞳を持つ、背の高い美男で、アルメディーナを見つめると、声をかけてきた。


「私がバルトだ。遠目で見て美しい令嬢だと思っていたが、これほどとは。」


キっとバルト王太子を睨みつける。


「わたくし、貴方様との婚約を承諾した訳ではありませんわ。勝負を申し込みます。」


「勝負だと?」


「ええ。夜会は始まったばかり、ダンスのお相手をお願いしますわ。これから夜会の終わるまで、貴方のお相手はわたくしだけ、ずっと踊り続けて貰います。音を上げた方が負け。

いいですわね。」


「ふふん。面白い。この勝負受けて立とう。」



いかに筋肉令嬢だからとはいえ、ダンスの心得位、公爵家の令嬢なら当然ある。


楽団が音楽を奏で始める。

バルト王太子がアルメディーナに手を差し伸べる。

その手に優雅に手を重ねて、二人は身体を密着させる。


楽団が音楽を奏で始める。


勝負は始まった。


ロマンティックなワルツの曲に合わせて、完璧なステップを踏むアルメディーナ。


王族だけあって、バルト王太子のリードも完璧で…


二人は王宮の広間で踊り続ける。

一曲、曲が終わって次の曲になっても…


体力勝負である。

時折、曲の合間に短い休憩を挟みつつも、何時間も踊り続け、汗だくになっても止めない二人。


バルト王太子が、アルメディーナの顔を睨みつけながら、


「もう、30曲は踊っている。他の皆は帰ったぞ。」


「夜会は終わったようですわね。でも、貴方は降参しないのですから、わたくし、踊り続けるしかないのですわ。」


「いい加減にしろ。王太子たるもの降参できるか。」


「でしたら、まだまだ踊るしかないですわね。」


しまいには楽団員が悲鳴を上げる。


指揮者が二人の傍に来て、


「もう、皆、限界です。どうか、勘弁してくれませんか?」



気が付いたら、片付けをしていた係員達も姿を消し、二人と楽団員以外、誰も広間にいなくなっていた。


王宮の窓から、朝日が差し込んでいる。一晩中踊っていたのか…


バルト王太子は、ふううっと息を吐いて、


「仕方がない。勝負は持ち越すとしよう。」


「そうですわね。すっかり夜が明けてしまいましたわ。」


スっとバルト王太子から離れると、アルメディーナはドレスの裾を翻し、


「わたくし、帰ります。又、お会い致しましょう。わたくしは貴方様と婚約する気はありませんわ。」


「どうしてそう頑なに断る。王妃になるのが怖いか?」


「いえ、わたくしには婚約者がいますのよ。いかに王家の命とは言え、貴方様の婚約者になる訳にはいきません。」


「お前の婚約者は伯爵令息で騎士団員だろう?婚約者より、俺の方が余程イイ男だ。」


「失礼致しますわ。」



アルメディーナはカーテシーをし、その場を去るのであった。


王家からの婚約の命令に返事を伸ばしている間にも、アルメディーナはレクトスと会って、デートを楽しんでいた。


「ああ、春も近くて。ほら、もうすぐ花が沢山咲きますわ。」


セレスティア公爵家の庭を散策しながら、木の枝についた花の蕾を指さす。


レクトスは自らの羽織をアルメディーナの背にかけてくれて。


「風邪を引く。か弱いアルメディーナが風邪を引いたら私は…心配で夜も眠れない。」


「まぁ。嬉しいですわ。そんなに心配して下さって。」


ぽっと頬を染めるアルメディーナ。


わざと躓く。


「きゃっ。石がっ…」


よろけて、レクトスにしがみついた。


レクトスは真っ赤になって、


「大丈夫かい?アルメディーナ。」


抱き締めてくれる。エメラルド色の瞳でアルメディーナはレクトスを見上げた。


「お慕いしております。レクトス様。」


「アルメディーナ。私も…君の事が好きだ。」


アルメディーナはレクトスを熱い眼差しで見つめた後、瞼を瞑る。


さぁ、わたくしの唇にキスをするのよ。レクトス様。さぁ…


プルプルに唇を手入れして、美しく見せるように紅も塗ったのだ。

全てはレクトスとの熱い口づけの為。さぁ…


レクトスの顔が近づいて来た時、声がした。


「こいつがお前の婚約者か?アルメディーナ。」


「バルト王太子殿下。」


凄い不機嫌にアルメディーナとレクトスを睨みつけているバルト王太子。


アルメディーナは平然とバルト王太子を睨みつけて、


「勝手に庭に入って来ないで下さいませ。わたくしの婚約者と何をしようとよろしいではありませんか。わたくしは貴方様との婚約を受け入れる気はありませんわ。」


レクトスが驚いたように、アルメディーナに向かって、


「王太子殿下から婚約の申し込みを受けているのか?アルメディーナ。」


「ええ。でもお断りしようと思っておりますのよ。」


「王家の命は絶対だ。」


「我が父も同じことを言っておりましたわ。勿論、わたくしも王家の命は絶対だと存じ上げております。でも、曲げてお願い致します。わたくしは王妃にふさわしい女性ではありません。」


「王妃は教養も必要だが、何よりも体力だ。その点、お前は素晴らしい体力を持っている。」


レクトスが慌てたように、


「すぐに貧血を起こすアルメディーナに何をおっしゃっているのです。」


バルト王太子はアルメディーナを睨みつけながら、


「一晩中、ダンスを踊る令嬢が貧血だと?笑わせる。」


アルメディーナは焦った。自分に対するイメージを壊したくない。

愛しいレクトスにとって、か弱い女性でいたいのだ。


「必死だったのですわ。愛しいレクトス様と結ばれる為に、必死でダンスを踊ったのです。

あの後、無理がたたってわたくしは数日寝込みましたわ。」


「学園で翌日見かけたが…俺でさえ、筋肉痛が酷くて辛かったのに、平然と歩いている姿に驚いたものだ。」


「み、見間違いですわっーーー。」


レクトスは片膝を立てて、バルト王太子の間に跪いて頭を下げ、騎士の礼を取り、


「私は騎士として王家の命に従おうと思います。我が伯爵家も異存はないでしょう。セレスティア公爵家の申し出を受けて、婚約を解消したいと思います。」


「レクトス…。」


「アルメディーナ、私は王家に仕える騎士だ。君を未来の王妃にと王家は望んでいる。

それならば、それを拒否する事は騎士として許されない事だ。正式にセレスティア公爵家

の申し出を受けて婚約を解消したいと思う。」


「嫌よ。わたくしは貴方の事を愛しているわ。」


「王太子殿下は君の事を望んでいるんだ。君は私の妻でおさまる女性ではない。そういう事だ。」


アルメディーナはバルト王太子に宣言する。


「決闘の法律はまだ、生きているのかしら?」


「何だ?勿論生きてはいるが。理不尽な婚約をしたくはない人間が、決闘にて決着をつけるという法律だろう?」


「勿論、王家にも適用されますわね。それならば。」


メルディアーナはメイドに命じて、手袋を持ってこさせる。


バルト王太子に向かって、手袋を投げつけた。


「決闘を申し込むわ。普通、男性が決闘を申し込むのでしょうけれども、貴方の相手はこのわたくしよ。バルト王太子殿下。わたくしの未来はわたくしが決める。

わたくしの夫はレクスト様しかいないのよ。」


レクストが慌てて、


「決闘って剣の決闘だろう?駄目だ。」


「貴方はわたくしの為に戦ってはくれないでしょう?王家に仕える騎士なのだから。だから、わたくしが戦うのよ。」


「君には無理だ。それに私は先程言った通り、君との婚約解消を受け入れようと思う。

私は騎士なんだ。どうか解って欲しい。」


アルメディーナは叫んだ。


「騎士が何よ。いくじなしっ。」


思いっきりレクストを殴りつける。

そして、ぎろりとバルト王太子を睨みつけて。


「決闘。受けて下さるわよね。バルト王太子殿下。」


「ふん。女に負ける俺ではない。」


「わたくしも、貴方様に負ける訳には参りません。勿論、勝った暁にはわたくしの事を諦めてくれますわね。」


「ああ、決闘の法律に乗っ取って、約束しよう。」



バルト王太子殿下が決闘を受けると言う。

アルメディーナは、勝たなくてはと闘志を燃やした。


でも…レクトスには失望した。


わたくしの事が好きではないの?

いかに騎士だとはいえ、わたくしとの結婚を諦めていいの?


解らない。解らないわ。お願いだから忠義よりわたくしの愛を取ってよ。

ねぇ、お願いだから…


叫びたかった。レクトスに向かって叫びたかった。


だが公爵令嬢としてのプライドか…言葉にならない。

その背に何も言えなかった。



二日後、王宮の庭で、国王陛下や王妃、そしてセレスティア公爵夫妻と、アルメディーナの兄と姉、騎士団の騎士達や、政務官達数人も立ち合い、決闘が行われた。


銀の髪を一本に縛り、動きやすいズボンにブーツ姿でアルメディーナは現れる。


バルト王太子は、アルメディーナの方を睨みながら、


「手加減等せぬ。一瞬で勝負はつくだろう。」


「わたくしも手加減致しませんわ。さぁ、始めましょう。」


バルト王太子が踏み込んで剣の鋭い突きを繰り出してくる。

それを剣で軽々受け止めるアルメディーナ。


バルト王太子は感心したように、


「俺の突きを受け止めるとは。」


「まだまだ、これが本気ではないのでしょう。さぁもっと本気を出してほしいですわ。」


「ちっ。」


互いに熱くなり、激しく剣を交える二人。


アルメディーナは思った。


なんて楽しい。なんて気持ちのいい。


勝たなければならない。


でないと、バルト王太子と結婚する事になるのだ。


でも…ずっと剣を交えていたい。



この方とずっと…


しかし、あまりにも長引くと、こちらが不利になる。


体力に自信はあるが相手は男だ。


アルメディーナは渾身の突きを繰り出して、バルト王太子の剣を跳ね飛ばした。


立会人の政務官が、


「勝負あり。アルメディーナ・セレスティア公爵令嬢の勝ちとする。」


「やったわ。これで、わたくしはレクスト様と婚約を続行出来るのね。」


バルト王太子は悔し気に、


「ああ、こんなに剣技に優れた令嬢だったとは、余計にお前と結婚したくなった。」


「決闘の法律に乗っ取って、わたくしはお断りさせて頂きますわ。」



背を向けて、王宮を出て走ってレクトスの住む騎士団寮へ急ぐ。


わたくしは勝ったのよ。


レクトス…ああ、貴方にすぐに会いたい。




騎士団寮へ向かい寮の受付に頼んで、レクトスを呼び出して貰う。


ソファに座って待っていると、ふと裏庭の方から声が聞こえて来た。

レクトスだ。誰かと話をしているようである。


同僚であろうか?


「レクトス。よかったじゃないか?公爵令嬢と婚約を解消されるんだろう?」


「ああ。父上母上はがっかりするだろうけれど、公爵令嬢は気を遣う。どれだけ私が気を遣

かってきたか。本当に安堵しているよ。」


レクトスが…安堵している?


わたくしの事を愛しているのではなくて?


安堵している?


「今度、婚約するときは同等の家柄の娘にしたいな。そうすれば、少しは気が楽だろう。」


「ハハハ。確かにな。」


声をかけられなかった。


あれ程、愛したレクトスが…



悲しみを抱えながら、セレスティア公爵家に戻るアルメディーナであった。



バルト王太子殿下の婚約申し込みは無かった事になり、しかし、セレスティア公爵家は

レクトス・ミルフレッド伯爵令息と婚約を解消した。


レクトスが慌てて、セレスティア公爵家を訪ねて来た。


公爵家の客間でアルメディーナは応対する。


レクトスが叫ぶ。


「君が決闘に勝ったと。驚いた。王太子殿下と婚約はしないのだろう?何故?

私との婚約を解消したのだ?」


「わたくし、貴方との愛が冷めましたの。貴方はわたくしの為に戦ってくれなかった。

貴方はわたくしとの結婚を堅苦しく思っていたのだわ。同等の家柄の娘と結婚すればいいわ。そうすれば、貴方は気を使わすに済むのでしょう?」


「聞いていたのか?あの会話を…」


「ええ。貴方を自由にして差し上げますから、どうかわたくしの前から去って頂戴。」


レクトスは肩をがっくりと落として、


「確かに君と一緒に居るのは気を使う。でも…君と共にいた時間は楽しかったよ。それだけは信じてくれ。」


「さようなら。レクトス。わたくしも楽しかったわ。」



一つの恋が終わり、アルメディーナは涙を流した。


初めて彼を剣技の大会で見かけた時、とても綺麗な剣を扱う人だなと思ったの…


わたくしは彼と結婚したかった。


でも…彼はわたくしを愛していなかったんだわ。




アルメディーナはしばらく屋敷に籠っていた。


学園に行く気もしない。


すると、見舞いにバルト王太子が訪れた。


応対しない訳にはいかない。




テラスでバルト王太子を出迎えた。


赤の薔薇の花束をバルト王太子はアルメディーナに手渡して。


「俺はまだ諦めてはいない。俺の元へ来い。アルメディーナ。

共にダンスを踊ろう。」


「わたくしは決闘に勝ったの。王家の命を断る事が出来るのよ。貴方の婚約申し込みに対してだけだけど。」


「ああ、解っている。決闘の法律は絶対だ。だから、これは命令ではない。俺自身の心だ。


「貴方自身の心?」


「そうだ。アルメディーナが首を縦に振るまで、俺は何度でも通おう。アリメディーナ。

共にダンスを踊ろう。この王国で。生涯私と共に生きて欲しい。」


アルメディーナは嬉しかった。


何故かとても嬉しかったのだ。


「ええ…貴方様の誠意を見せて下さいませ。それによってわたくし、婚約の申し込みを受けるかもしれませんわ。」


愛し気に薔薇の花束を抱き締める。


バルト王太子は嬉しそうに微笑んで、


「希望はあるという訳だな。まずは俺の事から…知って貰おう。」



春の風が吹く中、二人はテラスで何時間も話し込んだ。


過去の恋は春風と共に去り、新しい恋が運ばれてきた。


アルメディーナの心は幸せに包まれて、新たなる恋を堪能するのであった。













これで良かったんだ…これで…

愛しいアルメディーナ。

君がか弱いふりをしている令嬢だって知っていたよ。

私の事をとても愛してくれていたね。

でも…私はただの騎士団員。バルト王太子殿下に望まれたら君は行く行く王妃だ。


わざと君を貶める会話をした。

わざと公爵家に乗り込んで見苦しい男を演じた。

わざと…わざと…


どうか、よい王妃になっておくれ。

私は、騎士として一生王家に仕えていくよ。

君の幸せを祈っている。愛しいアルメディーナ…愛しているよ…










レクトスのお話を書きました。読んでいただけると嬉しいです(⌒-⌒; )

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に切なかったです、でも、面白かったです。
[一言] レクトスが報われなさすぎて辛い…
[一言] レクトスがあまりに切なくて 涙がでました
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