"人"
深夜のアホテンションでつい書いてしまった…。
人はいつだって自分本意だ。
それはきっと、どんな人だって変わらない。
僕だって、同じだ。
だから…
「ふう…これで今日の依頼は全部かな…。」
pcの電源を切り、一息ついた。
部屋には、一定のリズムで無機質な機械音が鳴り響く。
「そろそろご飯の時間かなあ。」
時計を見ながらポツリと呟くと、扉が開く音がした。
「お食事をお持ちしましたよ。」
夕食の乗ったワゴンを押して、女性がやってきた。
そして、その夕食を僕の前に置いた。
「今日も僕の苦手なものばかりだなぁ」
「好き嫌いは良くないですよ。今日もちゃんと食べてください?」
「相変わらず手厳しいですね。」
そんな会話をし、箸を手に取る。
「いただきます。」
…やはり、今日の夕食も味気ないなあ。
「お仕事、順調ですか?」
「ええ、今日も沢山の方に満足していただけました。」
「流石ですねえ。今度、私も依頼してみていいですか?」
「構いませんよ。あ、勿論お代は頂きますが。」
「あら。このお夕食でチャラにはなりませんか?」
「こればかりは流石に無理ですね。」
「釣れないですね。じゃあ、キチンとお代を出した上で依頼させていただきますね。」
「そういうことなら是非。いつでもお待ちしていますよ。」
「ええ。では、失礼します。」
そういって、女性は部屋を出た。
僕の職業は、カウンセラーだ。
様々な人の悩みや相談を聞く仕事。
それを、インターネット専門でやっている。
通話や文面などでのやり取りを通して、お客様の求める救いを与える仕事。
きっかけは、周りの人の意見だった。
「お前、話聞くの上手いよなあ。」
「カウンセラーの素質あるんじゃない?」
そんな周りの声が、僕をこの道に引きずり込んだ。
そうして資格を取って、今の職に就いた。
やりがいはある。
顔を見なくても伝わってくる、嬉しそうな声。
それを実感することが出来るだけで、やっていてよかったと思える。
でも。
でもなぜだろう。
どんなに嬉しそうなお客様の声を聞いても。
どんなに感謝されて、笑顔を作ってあげられたとしても。
心の何処かには、ぽっかりと穴が開いていて。
その穴から、幸せな気持ちも、頑張る気力も。
全部流れていくんだ。
だから、嬉しそうな顔を見ると、少し胸が痛くなる。
皆幸せそうだ。
僕がそのお手伝いをしてあげられた。
じゃあ、僕は?
僕は誰にすがればいい?
答えなんて返ってこない。
当然だよな。
助けが来るのは、助けてほしいと言えた人だけ。
僕には、それすらも出来やしないんだから。
気がつけば、あのさして旨くもない夕飯も食べきっていた。
お客様が予定の時間から大分遅れて電話をかけてきたりすることがある。
遅れた理由は人によってまちまちだが、そんなお客様に僕は一貫して言うんだ。
「仕方がないですよね。大丈夫ですよ。」
と。
でも、僕だってロボットじゃない。
ましてや救いの神様なんかでもない。
予定に遅れられたら、僕だってそれなりの感情を抱く。
でも、そんなことを話していい相手ではない。
相手は救いを求めて、藁にもすがる気持ちでやってきている。
そんな相手に、「時間通りに来ないなんて」なんて、言えるわけがない。
話を聞けば、皆スッキリした声色ないしは文面を見せてくれる。
じゃあ、僕はどうすれば満たされるんだろう。
この思いを、誰にぶつければいいというのか。
無論、答えなんて返ってこない。
ああ。もう、疲れた。
自問自答するのも。頑張るのも。
そんな彼のいるその部屋には、どこからか鼻をつんざくような甘い腐臭が漂っていた。
翌日。
その部屋には誰もいなかった。
あの無機質な音も。あの味気ない食事も。鼻をつんざくようなあの匂いも。
全てなくなった。
fin...
カウンセラーの職に就いた人ってほんとにすごい人なんだと思う。