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ポンコツ魔王の征服奇譚  作者: メレンゲ太郎
第一章 魔王戴冠
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第三話 曲者

最近ラランド好きですね。

「なるほど、事情は分かりました。全く、面倒なことをしてくれますね。」


「あれ、普通に信じるんですね。生物の召喚なんて現実的じゃないのに。」


「貴方ならそのくらいのことしそうですから。」




3m四方の巨大なベッドの脇。


正座をしているルークは仁王立ちのメイド服の少女を怯えたように見上げる。




「さて、では殺しましょうか。」


「待て待て待て待てフレイア!!!!逸るな!!頼むから!!」



話を聞き終えたメイド服の少女────フレイア・チェンバレンは何の感情も抱いていないような顔のままどこからか取り出したナイフをルークの隣で涙目のまま正座する少女に向ける。


そんなフレイアをルークは羽交い締めで止めた。



「しかしルーク様。来週には魔王戴冠の儀も控えております。貴方は正式に魔界の王となるのです。ただでさえ貴方は各氏族長達や魔界の民に舐められているのですから、そんな時に人間を拾ったなんて悪評でも広がれば反乱とか起きても仕方ありませんよ?」


「洒落にならんから勘弁してくれ……。」



元々本気で殺すつもりもなかったのかフレイアはあっさりとナイフをしまい、姿勢を正す。



「というか、フレイアは何をしに来たんだ?戴冠式の話?」


「お気付きではないようですがもう朝食のお時間です。さっさと準備してください。」


「え、もうそんな時間か……。思ったよりも召喚に手間取ってたんだな……。」




最果てへの接続機構(ワールドエンドコンテンツ)は超高難度魔法。


発動までの準備、そして発動してから召喚されるまでには多大なる時間と労力がかかる。


どれほどの好条件が揃っていたとて成功させることの出来る者など魔界には数える程しかいない。


部屋はカーテンで閉ざされているため外の光も入って来ず、集中したルークが時の流れに気付かないことも仕方ないことであった。



フレイアに急かされルークはパジャマを脱いでTシャツを被る。


白ベースにでかでかと『西葛西』と書かれたTシャツは以前ルークが召喚した物だ。

ルーク的には意味こそ分からないがハイセンスだと思っており、やはり異世界出身の者がいるので異世界らしい格好をすべきだと考えた結果の服装である。


ちなみにフレイアも少女も目が死んでいた。


下はそのままパジャマで行くようだ。




「よし、じゃあ行こうか。飯。」


「ふぇっ、えっ、えっ、わ、私もですか!!?」


「……ルーク様、流石に人間を連れて行くわけにはいきません。私はともかく他の大幹部の方々にどう説明するおつもりですか。」



少女に向かってルークは言うが、少女はまさかそこで振られるとは思っていなかったらしく、数度キョロキョロとしてから怯えたように言う。


フレイアも呆れていた。



「任せろ、考えはある。問題ない。……んで?え〜っと、、、君の名前は?」



自信たっぷりに胸を張るルークにフレイアはため息をつく。

ルークに振り回されるのはいつものことなので今更文句もない。


そういえば、というようにルークが少女の名前を聞く。


先程まで結婚しようなどと言っていた男と、平然とナイフを突き付けてきた女2人への信頼など欠片もなかった少女だったが、もはやなるようになれの心境であった。






「楓、です……。()()()……。」

















♦♦♦








「え?ホントに?ワン○ースってもう100巻近く出てんの?」


「はい、50巻とかだともう10年くらい前の物です。」


「マジでか……そんな遅れてんのか……。どうりで俺が手を伸ばそうとしてもいつまで経っても伸びないわけだ。」


「?、、、あ、でもNARUT○は全巻揃ってるって言ってましたよね?あれの最後多分10年も経ってないので一概に10年遅れてるってわけじゃないと思いますけど。」


「そうなんだ。え、てか今気付いたけどそう考えたら俺今影分身出来るじゃん!!ちょっと俺行って来る!!」


「どこへですか何をしてるんですか座っておいてくださいお願いしますから。」






ここは大食堂と呼ばれる第九階層でも五指に入る巨大な部屋。


数十mはあろうかというほどの長机が5つ並べられ、そこには代わる代わる魔王城で働く者達が朝食をとっている。


それゆえ常にガヤガヤと騒がしい。


巨人と見紛うほど巨大な者も多数存在するので扉も天井も10mではきかないほど大きい。


天井にはこれまた巨大なシャンデリアと魔王軍のシンボルである黄金の鷹を描いた(フラッグ)が等間隔で吊り下げられている。


食事はビュッフェ形式で、長机の前後に様々な種類の料理が並べられている。



この大食堂は魔王城で働く者達の中で最下層の階級の者達が使用する食堂である。


下級の兵士や城の掃除などを担当するメイド、その日当番ではない料理番などが主に使用する食堂だ。


ルークはここを割りと気にいって頻繁に使用していた。


ここにいる者達は魔王を初めとした幹部級以上の者に謁見することはまずない者達である。


メイドやフットマンなどの下働きをする者達も、幹部級以上の世話をする者はより上級職の者となり、そういう者はそれぞれ別の場所にいる。


それゆえに先代魔王の息子とはいえあまり公の場に出ることがなかったルークの顔を知らない者は多いし、知っていてもまさかこんな場所にいるわけはないと思ってくれるので都合が良かった。


まぁ多くの民草の前に出る戴冠式が終わればそんなことは出来なくなるが。




ルークはここならばわざわざ絡んで来る者もいないので人間がいるとバレないと考えたのだ。


そんなわけでルーク、フレイア、楓の3人はここで朝食をとっていた。




「あの…今度は私から聞きたいんですけど…。」




朝食も終わり一息つき始めた時楓が小さく手を上げる。



「私は元の世界に戻れるんでしょうか?」



楓にとって何よりもまず聞きたいのはそこであった。


トラックに引かれたと思ったら気付いたら異世界転生。


小説などではありがちな話であるが、元の世界に戻る方法など知らない。


だが、楓を召喚したのは話の通じない神などではなく目の前の悪魔だ。


悪魔ではあるが、楓はそれほど悪い人達ではないとこの小一時間ほどで判断していた。


ならば思っているよりも簡単に戻してくれるかもしれない。



だがルークの答えは簡潔である。




「いや、無理。」


「え、あの、ちょっと、もうちょっと考えて頂けたら……。」


「いやいや無理だよ。異世界から人間を召喚したなんて記録は一切ないし、もちろん送ったなんて記録もない。そもそも送るったって誰が何のために送るんだって話だし。」



手を頭の後ろで組み、足を机の上に乗せた状態でルークは面倒くさげに返す。


そんなルークの足を行儀が悪いと机から叩き落とした後、フレイアは表情を変えないまま言う。



「魔界にはそんな魔法はありませんが精霊界に行けば可能性はあるのでは?」



ルークににべもなく返され、若干ヘコむ楓だったが、その言葉に表情を明るくする。



「応用が得意な人間であれば例の魔法を応用して異世界に送る魔法の開発が出来るかもしれませんし、精霊の中でも魔法が得意なエルフの最新魔法技術なら案外サクッと帰せるかもしれませんよ。」


「嫌だよめんどくさい!そんなことするならわざわざ精霊界に行かないといけないじゃないか!」


「……普段であれば精霊界に行く口実が出来れば意地でも行こうとするのに今回は“ めんどくさい”んですね?そんなこと言ってただこの娘が欲しいだけなんでしょう?」



ぐっ、、っと押し黙ってしまうルーク。


明らかに図星だった。


フレイアの言う通りだ。

結婚云々は勢いのまま言ってしまったものとはいえ、ルークは楓が欲しかった。


単純にルークにとって人間、しかも異世界の人間は彼のコレクター魂をこれ以上ないほどくすぐるものだった。



色違いのポケ○ンを別に育てるわけではないけれどとりあえず集めたい衝動に近い。


そう近くもないかもしれないが。



とにかくルークは楓を手元に置いておきたかった。



ルークの反撃。




「人間は欲を出して異世界と繋がる技術を独占しようとか言い出しかねないし、エルフはそもそも協力なんてしないだろうし無理なんです!!」



早口でまくし立てるとグラスに半分ほど残っていたウォルタージュース────オレンジに近い魔界産のウォルターの実の生搾りジュース────を飲み干す。



「とりあえず!今日は魔王城の案内するから!住む部屋とかも決めるから!」


「いえ、今日は魔王戴冠の儀に先立って獣氏族の老猿大公が拝謁を申し出てきています。その後フロスト様から呼び出しがかかっておりますので1度そちらに出向いて頂きます。ご案内したいのであればその後どうぞ。」


「アッハイ。」














♦♦♦







「久しいな老猿大公。獣国の領土から中々出て来ない貴様がわざわざ重い腰を上げてまで来るとは何の用だ。」


「そう意地の悪いことを仰らないで頂きたい。儂ももう千に近い身、先代とヤンチャしていた頃とは違うのですよ。」




第九階層、〖玉座〗と呼ばれる魔王城最重要部。


先代魔王の叡智の結晶である魔王城の中でも、最も神聖なる場所。



天井には照明などはなく、無限に光を発し続ける魔法を付与され、幻想的な輝きを放っている。


魔法によって一切の汚れが生まれないようになっている白い壁は天井の輝きを反射し、部屋全体が神々しさを出していた。


城の他の部屋や廊下と違い、装飾などは一切ない。


それは先代魔王が、この玉座では煌びやかな装飾などではなく、自らの威厳で王の威光を示すべきだ、という考えを持っていたからである。


とはいえそれでも最重要部を雑に作るわけにもいかない。


結果としてこの部屋の雰囲気は圧倒的なまでの静謐さと荘厳さを持ってその威光を示していた。


数百人は入ろうかという広さの部屋でありながら今ここにいるのはわずか3人。


部屋の最奥、

十数段の低い階段の頂きに佇む黄金の王座。


その高い背もたれの後ろの壁には真紅の旗王旗(フラッグ)

魔王軍のシンボルたる黄金の鷹がかけられている。


その王座に座す男、ルーク。

その隣に控える美しいメイド、フレイア。


そして階段の下に跪く翁、老猿大公である。


猿の獣人種である老猿大公は言うなれば体型が人に近い猿という風貌だ。


地球でいうと漢服のような服装を纏う猿というのは中々に滑稽な見た目であった。


漢服に不釣り合いな黄金の王冠は大き過ぎるのか首輪のように首まで落ちていた。


歯の部分が異常に長い下駄のおかげで、150cmほどの身長は30cmほど誤魔化されている。


赤色で柔和な表情を浮かべる顔は、好々爺と呼べるだろう。



「大公よ、千に近いとは言っても俺には未だ現役にしか見えんよ。少しでも油断すればこの首簡単に喰いちぎられてしまいそうで俺はおちおち隙も見せれぬ。」


「ご冗談を。儂にそんな野望など今更ございませんとも。して、今日お目通りをお願いした理由なのですが、、、。」



卑屈っぽく笑う老猿大公。


しかし、ルークは知っている。

この好々爺の目は笑っていないことを。


ただでさえルークは魔界の民から舐められている。


それは目の前の老猿大公も同じである。


老猿大公は元々獣人種の氏族の氏族長だ。


獣国と呼ばれた彼らの国────当時は国という概念はなく、後にそう定義された────を傘下に加えるため出兵した魔王軍と三日三晩殺し合った。


結果、獣国は敗北。

そして獣氏族は何より力を重んじる獣人らしく先代魔王に忠誠を誓っていた。


だが忠誠を誓っているのはあくまで先代だ。


自分達が舐め切っているルークが魔王としてふんぞり返るのは我慢ならない。


必ず獣人共はそう考える。

そうルークは思っていた。


最悪の場合、いや、かなりの確率で反乱が起きる。

そうなれば面倒事が増えるのでルークとしては是非とも避けたい展開であった。


故に老猿大公に隙を見せないように喋り方まで気を付けているのだ。


実力がないと思われていてもある程度不遜な態度をとっていれば意外と何とかなるものだ。


表面上では玉座で頬杖をつき、足を組み、

存分にハッタリを効かせて余裕を持った表情を作っているが、内心ではガンガン冷や汗をかいていた。




大公の話は来週に迫る戴冠の儀の祝福と当日来れないことへの謝辞だった。


王の務めとはいえ、こういったやる意味あるのか?というようなものも受け取る必要があるというのはルークにとって面倒で仕方ない。


大公からしても何故コイツにわざわざ謝辞を述べに来ないといけないのだと思っているのだからお互い様である。




「それでは儂は失礼致します。」



立ち上がり深々と一礼をする大公にルークは軽く手を上げることで答える。


形式上やっておかないといけない、というだけの会談だけあって経過したのはわずか数分間である。


しかしルークはどっと疲れ、早く帰って欲しかった。



背を向け、玉座の出口へと向かう大公を眺めていると、

そうそう、と言って大公が振り返る。


一瞬、めんどくさそうな表情をしていることに気付かれたかと思い焦るルークだが、バレてはいないようだ。


大公は目を細め、大変遺憾であるとでも言いたげな表情を作って言う。




「ここ最近ウチの領土の荒くれ者達が逸っておりましてなぁ、新たな魔王は魔界を統べる者として相応しくない、と。もちろん儂らはそういう連中を駆逐してはいますがなにぶん色々忙しゅうて徹底は出来ておりませぬ。」



好々爺らしく、いかにも心配だと言うように、



「戴冠の儀を前にそんな連中が暴走しないとも限りません。儂はそんなことにならぬように祈っておりますよ。」



最後に優しい笑みを浮かべ、下駄をカランコロンと鳴らしながら今度こそ巨大なアーチを潜り、帰って行く。


ルークは大きくため息をつく。



「荒くれ者達ねぇ、、まぁ十中八九、」


「獣氏族の手の者でしょうね。しかしルーク様のことは嫌っているとはいえ基本的には民を愛す老猿大公様が下手に軍を動かして民に被害を与えるとは思いませんが……。」


「やっぱ俺は嫌われてんのね。」



若干ヘコむルークは背もたれにもたれかかり、そのままずり落ちるように足を伸ばす。












「やっぱり魔王になんかなりたくねぇなぁ、、部屋に帰って漫画読みたい……。」


「この後はフロスト様に呼び出されておりますのでこのまま第六階層〖溶岩湖〗に転移しますよ。」


「反乱よりもお前のが怖いし大公よりもアイツの方が会いたくないな……。」








♦♦♦









魔王城はその城壁を取り囲むように城下町が広がる。


魔素が満ちる魔界といえど民草は人と変わらない。

その風景は穏やかな物だ。


姿形が様々な悪魔達が買い物を楽しむ商店街を抜け、街の端の細い小川に掛かる橋を渡る好々爺、老猿大公。


高さ3mを超える大きさの水車が川の流れで回っている。


魔王城を出て小一時間ほど歩き続けた大公の目にようやく魔王領を取り囲む結界が見える。


限界まで近付かなければ見えないほど薄く張られた膜のようなそれを一切の躊躇いなく越え、大公は魔法を唱える。



伝達(メッセージ)



即座に返ってきた返事の大きさに大公は顔をしかめるが、すぐに獰猛なものへ変える。



「やはり彼奴は七光りよ。魔王様の偉大さの億分の一も受け継いでおらぬ。」



大公は振り返る。


不可視の結界に包まれた魔王領は草原に変わっており、城はおろか城下町すら目に写すことは出来ない。


しかし大公の目には確かにあの愚かな男を浮かべることが出来た。



「儂の仕掛けにも気付いた様子などなかった。むしろ恐ろしいのは側に控えるメイドの方よ。儂が何かしようとしているのを察して殺気を飛ばして来おった。何をしたかまでは流石に気付いておらんようじゃったがな。」



作戦を実行するように命じ魔法を切る。



「楽しみじゃな、ルーク・エクリプス。この程度を切り抜けられぬようならばお主に王たる器はなし。切り抜けることが出来れば儂の首ひとつで魔界の平安が保証される。こちらにとっては得しかないはな。」





ようやく好々爺らしい快活な笑みを浮かべ、再び大公はカランコロンと音を鳴らし始めた。

ちょっと前に30日間で腹筋を割るっていうアプリを入れたんですよ。

けど10何日かやってみて面倒になっちゃって放置してたら「もう○○日腹筋してません。」って通知が来るようになって恐怖を感じています。


ラッスンゴレライ。

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