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ポンコツ魔王の征服奇譚  作者: メレンゲ太郎
第一章 魔王戴冠
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第一話 異世界召喚

ぼかァ銀髪メイドが好きなんだ、、、、、

東京の街並みは常に雑踏と共にある。






夜も10時を回っているのに人通りは減っているように見えない。


こんな時間帯でも暗いと感じないのは煌々と照らすコンビニや居酒屋の明かりのせいだ。


立ち並ぶビル群の多さたるや、まさにコンクリートジャングルといった様相を呈している。


すれ違う人達は皆一様に頬を赤く染め、次はどの店に入ろうか、なんて話している。


そんな雑踏の中を一人歩く少女。


歩く者の多くがスーツを着ている場所故にセーラー服を着た少女の姿は目立ったが、わざわざ視線を止めるほどでもないのか注目を集めてはいなかった。


ふと、少女は足を止める。


その視線の先にいた女子高生2人に無理矢理絡む男3人。


それは、明るい大通りと月明かりに頼った裏通りのちょうど境目辺りにいた。


金髪で色黒、絵に描いたような軟派な男達は調子に乗って少女達と肩を組んだりしている。


逃がさない目的もあるのだろう。

事実少女達はどうすることも出来ず、泣きそうな表情をしていた。


それを見ていた少女はため息をつく。


母親との2人の空間に耐えきれず家を出て来た自分はともかく、こんな時間に高校生が何をしているのか、と。


少女は肩にかけていた通学カバンを下ろした。



「おい……。」



男の1人が肩に手を置かれ完全に油断して振り返ってしまう。

1秒後に殴り飛ばされるとも知らず。


少女の右ストレートが綺麗に顎に入った男は店のシャッターに思い切りぶつかり、轟音を立てる。


その音に周囲にいた者達は注目を集めるが、すぐに巻き込まれまいとそそくさとそこをあとにした。


男達は激昴した。


そこにいたのは男達が絡んでいた女子高生達と同じ制服を着た少女だったのだ。


黒髪でポニーテール。化粧は薄くほぼすっぴんに見えるが元が良いのかその容姿は端麗だった。

髪を染めていたり化粧もバッチリしている先程まで囲んでいた少女達よりも幼く見えた。

身長は170cm近く、同年代の女子と比べると高身長だ。


そんな少女に油断をしていたとはいえ仲間の1人が伸されてしまった。


これは残りの男達のプライドに触れた。


2人がかりで掴みかかる。


伸された男は完全に油断したからこそやられてしまったと思っている男達に負けるつもりなど欠片もない。


むしろ同じ制服、同じ学校なのだからこの娘も一緒に連れて行ってしまおうとすら考えていた。


しかしそれはすぐに間違いであったと思い知らされる。


少女は若干先に自分のところまで来た男の手を掴み、払い腰を決める。


本格的に投げ技で来るとは思っていなかった男は受け身を取ることも出来ずに頭を打ちつけて気絶してしまった。


投げ技をしたことで少女の背後を取ったもう1人の男はそのまま掴みかかろうとするが、下から顎に掌底を入れられ、またも簡単に気絶してしまった。


少女はスカートから砂を払い落とすようにパンパンと叩くが、その必要があるとは思えないほど鮮やかに男達を潰してしまった。



「大丈夫?」



呆然とする少女2人に声をかける。


恐怖をこらえるように2人手を握り合う2人を安心させるために行った行動だった。


しかし、2人の目から怯えは消えない。

それどころかその目は助けてくれたはずの少女に向かっていた。



(またか……。)



少女は急速に自分の中の何かが冷めていくのを感じた。


心の中で舌打ちをし、それ以上は何も言わずに少女はその場から去る。


男達に手を出す前に放っておいたカバンも忘れずに拾って。




後ろから声が聞こえる。



アレが鬼塚さんだ……。

男3人を簡単に倒すなんて……。

ちょっと怖い……。





(聞こえてるぞ…。)





鬼塚愛は更に苛立ちを募らせるのだった。







♦♦♦







翌日、愛は学校に来ていた。とはいえ授業になど出ない。


高校2年生になってはや2ヶ月が経つが、その間授業に出たのは片手で足るほどしかない。


とはいえ連日学校には来ていた。


いつものように学校に来ては、意味もなく屋上に入り浸り、放課後になれば帰って行く。それがここ最近の愛の日常だった。


しかし今日に関しては若干違う。


昨日のことが学校にバレていて呼び出しを受けたのだ。


場合によっては暴行事件として警察が動きかねない。

学校としても呼び出せざるを得なかった。


十中八九昨日助けた少女達が言いつけたのだろうが、助けてくれた恩人を売るとはどういう了見なのかと愛は憤慨する。


愛にやられてしまった男達も女子高生を半ば無理矢理連れて行こうとしていた事実に変わりはないため被害届などは出るはずはないので注意で終わったものの、愛の苛立ちは強くなる一方だ。


それにビビった教師が思いの外早く解放してくれたのは僥倖といえば僥倖だが。



購買で購入したあんパンで早めの昼食を済ませ、スマホを開く。


アナログ時計を模したロック画面に表示された時計は11時も半分過ぎたことを示している。


さて、ここから何をするか、、


そう考える愛は後ろから声をかけられた。



「づかちゃーん!!」



愛のことを変なあだ名で呼ぶのは……いや、この学校で愛のことをわざわざ呼ぶ人間など教師も含め1人しかいない。


姫廻楓は太陽のような笑顔でこちらに来ていた。


身長は愛よりもやや小さく、肩よりも少し伸びた黒髪は丁寧に手入れされているのがよくわかるほど美しい。

大きな瞳は彼女の表情を幼く見せた。

高校生にしては主張の強いプロポーションは、楓の男子人気の圧倒的高さの理由の1つだ。


生徒会のメンバーであったりスピーチコンテストの全国大会優勝経験を持っていたりと、優等生でありながら小動物のような愛嬌も持つ楓。


それに対して他者との間に積極的に壁を作り、必要以上の馴れ合いを嫌う愛は真逆と言っていいほどタイプが違った。



「おはよう、楓。楓がサボるなんて珍しいね。」


「うん、さっきづかちゃんが歩いてるの見えたから。」



満面の笑みを浮かべる楓の姿にこれでもかと振り回される尻尾を幻視する。


それを見て愛は苦笑する。


楓と愛は1年生の時から同じクラスだ。


中学生の頃から喧嘩に明け暮れ、そのせいで高校に入学してからはボッチと化していた愛に唯一話しかけてくるのが楓だった。


クラスメイトからは恐れられ、唯一の肉親である母親にすら疎まれる愛にとって、


クラスでも人気者で、両親や兄達からも愛を注がれる楓は嫉妬の対象であり憧れでもあった。


そしてそんな楓を愛は唯一の親友だと定義していた。




どうせもうサボっているのだからこのまま遊びに行こうか、と愛は言う。


いいよ、と楓は笑顔で返した。








それから2人はゲームセンターに行った。

ぬいぐるみが取れないと拗ねる楓のせいで愛はクレーンゲームで2000円を溶かした。

2人で変顔でプリクラを撮った。



タピオカを飲みに行った。

甘い物が苦手な愛は普通のコーヒーを注文し、楓からブーイングを受けた。

楓が注文した新作は美味しくなかったらしく、微妙な顔が愛にはツボだった。



楓の提案で本屋によった。

真剣な表情で参考書とにらめっこする楓に愛は苦笑した。

楓の好きな漫画の新刊を見つけたので教えてあげたらお金が足らなかったらしく、楓は悩んだ結果漫画を買っていた。







帰る頃にはもう18時を回っていた。



「楽しかったね。」


「そうだな。」


「明日はもうサボらないから授業に来てね。」


「どうしようかな。」



からかわれるように言われて殴りかかろうとする楓を片手で止めながら愛は考えていた。


そろそろ授業に出てみてもいいかな、と。


愛が授業に出ないのはめんどくさいから、というわけではない。


正直その気持ちも4割くらいあるが、、、



愛が授業に出ないのはクラスメイトの怯えた目が怖いからだ。


自分を恐怖の対象であると決めつけ勝手に怯えるクラスメイト。


その目を見るのが怖くて愛は授業に出ることを躊躇っていた。



しかし、それでも。



それでも楓さえいれば大丈夫な気がした。


楓さえ分かってくれていればそれで十分な気がした。




学校では楓は人気者だ。



彼女に好意を寄せる男共は沢山いるし、

小動物や赤子に近い彼女に母性を感じる女子も沢山いる。



しかし楓は人気者であると同時に人を疑うことの出来ない極度のお人好しなのだ。


楓を守ることが出来る者も必要だろう。



愛は楓の近くにいたいという気持ちに気恥しさを感じ、その気持ちを正当化しようとしていた。








「アレ……?」



ふと、何かに気付いたように楓が漏らす。


その視線に引っ張られるように愛は視線を動かした。


その先にいたのは横断歩道の真ん中辺りで転んでしまった小学校低学年くらいの少年だった。


どうやら転んだ時に膝を擦りむいたらしく、膝を押さえて泣いている。



「あのガキンチョ危ないな……。楓、ハンカチか何か持ってる──────」



楓が走り出す。


突然の行動にその意図が読めず、愛は反応に遅れてしまう。


そしてそのせいで気付くのにも遅れてしまった。







すぐそこまでトラックが迫っていたことに。



楓は少年のところまで辿り着いた瞬間少年を愛に向かって放り投げた。


それは楓の細腕からは信じられないことであった。


致命的な遅れを後悔しながら楓を追って来ていた愛は咄嗟に飛んで来た少年を受け止める。



楓が走って助けに入れるくらいだ。


少年とて回避することは出来た。

しかし幼い少年には膝の傷でいっぱいいっぱいだった。


トラックとて止まることは出来た。

しかし運転手は連日の過労で少しウトウトしていた。



もはや逃れられない運命であった。




クラクションが盛大に鳴る。




運転手がブレーキを踏む。


──────間に合わない。




愛が手を伸ばす。


──────間に合わない。




涙を浮かべる愛の目には、



いつもと変わらない笑顔を浮かべる楓の姿が写った。






「かえ────────」




































♦♦♦








コツコツと、足音が響く。


静謐な空間に広がるそれはメトロノームのように一定のリズムを刻んでいた。



豪奢かつ絢爛、まさしく白亜の城といった空間。


巨人が通ることを想定しているかのような高い天井には、精巧な模様が描かれている。


等間隔で吊り下げられたシャンデリアは、まるで空に浮かぶ星々を飾りつけたような美しさでその場を照らしている。


広い通路は全面大理石のような輝きを持つ鉱石で埋められ、埃1つない床は掃除番の仕事へのプライドすら感じられる。


壁に飾られる絵画や装飾は1つ1つが超一級の物であり、さながら美術館の様相であった。



そんな廊下の真ん中を1人歩く少女。


美しい銀色の髪は白銀の雪景色を思わせる美しさで天井からの光を反射し、輝いている。

金色の瞳はまるで晴夜を照らす満月のような怪しい魅力を内包し、同時に少女自身の意志の強さも象徴しているように思えた。

これらの特徴から明らかに日本人ではないが、顔立ちはやや日本人に近い美少女だ。


纏うのはいわゆるメイド服。

スカート部分が長いタイプのオーソドックスな物だ。

身長は160cmほどで標準よりもやや高め、恐ろしく小さな顔とスラッと伸びた肢体、服の下からでも確かに主張する双丘はモデル体型と言っていいだろう。



少女は一切の表情をその端正な顔に浮かべることなく歩を進める。


その姿に苛立ちや怒りなどの感情は見受けられないが、若干BPMの速いメトロノームはその感情の表れであったのかもしれない。




ここは魔王城。


魔界を統べる魔王の居城である。



全十階層からなるその最深階の1つ手前。


第九階層、魔王やそれの世話をする者達の居住スペースが多くの割合を占める階層である。


少女が向かっていたのはその第九階層の最奥部、魔王の部屋である。


いや、正確には()()()()()()()と言った方が正しい。


次期とはいえ魔界、悪魔という種族全ての上に君臨する王の部屋に向かい、立ち入ることが許される者など限られている。


少女はその内の1人だ。


歩いているうちに1つの扉の前に辿りつく。


いや、3mを超えるそれは扉というよりは門といった方が近い物であった。


両開きの扉の右側には槍を持つ隻眼の老人が、左側には燃える剣を掲げた炎の巨人が描かれていた。


重厚にして堅牢な雰囲気を醸し出す扉は少女の細腕で開閉出来るような代物には見えないが、少女が軽く手で触れただけで意外なほど簡単に開いていく。


そして少女はノックもなければ挨拶もないまま部屋に入って行った。



部屋の中はまさしく別世界であった。


先程までの空間も絢爛なものであったが、この魔王の部屋は────部屋と呼ぶのがはばかられるほどに────美しく、精巧な作りをしていた。



1人が過ごすには広すぎる部屋。

白を基調とした壁は一切の汚れなく、煌びやかな装飾で飾られている。



だが、別世界と称したのは部屋の外よりも単純に美しいからではない。


確かにこの部屋の装飾も細工も全て外の物よりも精巧な物であったのだが、別世界と称するには少々大袈裟に過ぎる。


そして別世界と称した理由はその床にあった。



積み重なった書物。

装飾品は煌びやかな物からガラクタのような物まで区別なく放られている。

脱ぎ散らかした衣類、鎧。



まさしく別世界(汚部屋)であった。




そんな部屋の中をいつも通りであるかのように平然と歩く少女。


少女の歩く道だけは────動線のつもりなのだろう────一応床が見えている。



そして広い部屋の奥、寝室の扉の前に立つ。


流石に寝室の扉まで重厚な作りで繊細な絵が描かれてということはない。





魔王の寝室に許可なく立ち入るなど重罪である。


そもそも魔王の部屋に許可なく立ち入ることも普通に重罪なのだが、寝室ともなればその比ではない。


不敬罪で即刻首を刎ねられても文句など言えない。


これが妾の類いならばまだマシだったかもしれないが、少なくとも少女はそんな存在ではなかった。


だが少女は一切の躊躇いなく両開きの扉に手をかける。


そして大きな音を立てて扉を開いた。




「失礼します。」




開いた後である。


どうぞの一言を待つことなどしていないのだから事後承諾ですらない。



薄暗い部屋。




少女の目に最初に入ってきたのは大きな魔法陣であった。


未だなんらかの効果を発揮しているように薄ぼんやりと光るそれを一瞥し、すぐに興味を失う。


少女にとってその光景は珍しくもなんともない。


しかし目線を少し左に動かし、硬直する。



そこにあったのは3m四方の大きなベッド。


夜の空を引っ張って来たかのような暗い天蓋。


そしてそのベッドの上で寝そべる見知らぬ少女。


そしてその少女を押し倒す主の姿であった。



2人は突然の訪問者に驚き、目を丸くしてこちらを凝視している。


だがその視線を一心に集める少女の表情は動かない。





そして一言。











「今すぐ正座してください。」




不敬ここに極まれりである。

次回予告→

やめて!メンタル男子高校生が、可愛い女の子に逃げられたら、意外と傷付きやすいルークの精神まで燃え尽きちゃう!


お願い、死なないでルーク!あんたが今ここで倒れたら、舞さんや遊戯との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、マリクに勝てるんだから!


次回、「ルーク死す」。デュエルスタンバイ!

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