表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想いは届くよ、どこまでも。  作者: 紙野七
第一章 想う人
6/39

1-6

「あら、おかえり。案外早かったわね」

 シルヴィアさんと別れて家に帰ると、洗い物をしているアリサが顔を出して出迎えてくれた。

「ただいま」

 何となくそのまま部屋に戻る気になれず、僕はリタで少し休憩させてもらうことにした。セレンも一緒にと思ったが、彼は遅めの昼寝がしたいと一人で上がっていってしまった。

「無事終わったの?」

「うん、おかげさまで」

 僕はアリサにホットミルクを注文する。今はあのべたつくほど甘すぎる味が恋しくて、砂糖多めで、と言うと、彼女は子どもっぽいとおかしそうに笑った。

「ねえ、アリサ」

 厨房の方へ去っていく彼女の背中に向かって、呼び止めるように声をかける。

「なに?」

 そう言って振り返る彼女に、僕は一体何を言おうとしたのだろう。少し考えたあと、僕は何となく思いついた言葉を口にした。

「ありがとう」

 唐突すぎる僕の言葉に、彼女は不思議そうに首を捻る。しかし僕は初めて抱いた今のこの気持ちを上手く伝えることができない気がして、それ以上言葉が続かなかった。そんな風に口ごもる僕を見て、彼女はまたあどけない笑みを見せる。

「なんか、ちゃんと言っておかなくちゃいけない気がして……」

 何とか精一杯振り絞って、それだけ言うことができた。たぶんまだ何を言っているのかよくわからなかったと思うけれど、彼女は何かを察したように頷いてくれた。

「どういたしまして」

 彼女は満足げに僕を見て、くるりと身を翻してホットミルクを作りに奥へと戻っていった。

「……あとでセレンにも言わなくちゃな」

 この言葉に意味があるのかはわからないけれど、たとえ意味なんてなくても、きちんと伝えておきたい。伝えればよかったと後悔する頃にはもう遅いから。

 けれど、彼は結構ドライだから、こんな漠然とした言葉ではかえって怒られてしまうかもしれないな。そうしたらいつかまた、ちゃんと伝えられるようになるときまで、待ってもらうことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ