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虫取り網に捕まってしまう前に

ジェメロ

作者: 詩音

ある夏の乾いた夜の出来事。彼を遠ざけたのは光なのか、闇なのか。

なんてありふれた宣伝をする朝の情報番組のナレーションに鼻で笑うと喉の渇きに駆られて水道の蛇口を回しコップの向こう側が透けてみえる何かを注ぎ口に含みながら足早に仕事場に戻ろうとする自分の身体を眺めながら呟く。「句読点のない人間だな。自分の発想から成る書作物とは全く反対側の文字だ」と、心の中で呟いた。意図的な違和感を頭の中で作った場合、自分の心の中にいるもう1人の「何か」に悪ふざけをしていることになる。何かは思考を巡らしながら廊下に立ち尽くす自分を心配している。何かと自分は、同じ身体に暮らしているだけで思考や考え方は別物なのだ。同じマンションに住んでいるだけで相手の部屋の中など分かるわけないのと同じだと。そんなこと説明するまでもないのだが。

今の現代社会において、自分の中に2種類の意識が存在している人間はあまり見かけない。いや、2種類の意識が存在していることに気付かず、お互いが独立して身体の中で暮らしている可能性もあるから一概には言えないが、まあそんな人間も含め自分のような物は世間的には【変わっている】と捉えられる。

それは到底喜ばしいことではないが、この現象に気づく前の【変わっていると思われたかった】22の自分にはとても嬉しい言葉だったであろう。今まで自分に変化を感じたことは殆どなかったが、2種類の意識を発見し、共存して行くようになってからは考え方が良くも悪くもガラッと変わってしまった。変化を求めていた者が、変化に追いつけなかった例をいくつか見てきたが、自慢のようになるが自分ほど上手く何かに適応することが出来るのは他にいないだろう、そもそも何かが存在している人などこの世できっと自分1人だと思う。人外だと話は別だが。仕事場である程度原稿を仕上げリビングに戻る。いつ見てもテレビが大きい。昭和の人間なのであまりテレビは見てこなかったが、引越しをきっかけに模様替えをしようと家電量販店に立ち寄ってみると若く雰囲気の良い店員に上手く口車に乗せられてしまい、買う予定のなかったテレビまで買ってしまった。折角買ったのだからと見てみると多種多様な番組が揃っている。妙に説明口調な若者向けの小説家のインタビューを笑いながら見る時間は我ながら性悪だと思うがそれと同時に楽しい気分になる。今までは劣等感を感じてしまうので他人の本は読んでこなかったが、こんな奴が日本文学の頂点なんて呼ばれるなんて面白い話だ、俺なら小説の題材にするな。と独り言を呟く。しかしよく見るとそれは身に覚えのある身体だった。もう1人の意識と適応出来ていたように思っていたのだが、まさかここまで発想と表現が違っていたとは…

余談ですが僕は双子に生まれたかったです。

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