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また、ともに  作者: 藤林ミドリノフ
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久しぶりのお遊び

 俺と片桐は様々な店舗が並び立つ、大きい通りに出た。この辺りは仲間内で集まることも多く、学校への通り道として良く来るので見慣れている。行く当てもない時、ぶらつくためのスポットであった。

「どこ行くよ」

 見たところ人通りもまばらであり、何処でも空いていそうな様子であった。片桐は考えるような素振りを見せた。

「んー……ゲームセンターとか?」

「じゃあ、そこにするか」

 この久し振りの自由な足取りを懐かしく思いつつ、俺達はゲームセンターに向かった。



 ゲームセンターは周りから異様に目立つほどに赤い建物で、入り口には客寄せ用の着ぐるみが立っていた。それを横目で眺めつつ、ロビーに入ろうとした。

「これ、今サービス中です。よろしければどうぞ!!」

 どうやら中身は男性らしい着ぐるみから、片桐が何かを受け取った。ペラペラとした細長い紙切れのようだ。

「なにそれ」

「クレーンゲームのタダ券ですね」

 それは二人で二枚分の無料券であった。一筐体に一回分をタダにできるという。

「お、いいねぇ。来た甲斐がある」

「先輩はいくらあっても足りませんよ」

「失礼だなお前」

 自動ドアを開けて店内に入る。

「ははは」

 片桐が笑った。ゲームの喧騒に包まれてよく聞こえなかったが、彼女が笑うのを俺は久々に聞いたような気がした。



 一階は格闘ゲームが並ぶエリア、プリクラが並ぶエリアと別れていた。格闘ゲームは良く前田とやっていたが、片桐や吉川がいるときは避けていた。プリクラは一回皆で撮ったきりである。

「ちょっと内装変わってますね」

「こうやって来るのいつ以来だっけか」

「私が二年の春が最後のような……」

 朧気な記憶を辿りつつ、エスカレーターに足をかけた。ゲームセンターは三階建てであり、目的のクレーンゲームのコーナーは二階にある。

「さて、どれやるかな」

 良い景品がないか見渡して物色する。周囲にはカップルや暇そうな青年やらが冷やかしに眺めているばかりで実際に遊んでいる人は少ない。今なら景品を選び放題であると思った。

「やっぱりこれだよな!!」

 俺が指を指したのは巨大なぬいぐるみの入った筐体。これを取ってどうするかと言われれば困るが、取った喜びは一入であろう。

「先輩……」

 俺の後ろで片桐は呆れた様な表情を浮かべている。目の前の筐体に無料券を使おうと店員を探したところで、片桐に引き止められた。

「実は、私なりに考えたクレーンゲームのコツあるんですよ」

「マジ?教えてくれよ」

 了解しました、と彼女は俺の目当てとする筐体を離れた。俺はとりあえず片桐の後ろをゆっくりと付いて歩いた。片桐は筐体の間を縫うように歩き、とにかく筐体を見て回った。いくつかの筐体は中の景品も眺めているようだった。

「さてと」

「全部見て回ったのか?」

「そうですね、ではこの筐体で良いですか?」

 片桐は時間をかけて一つの筐体に決めた。中の景品も動物のキーホルダーで、かわいらしい物であった。

「俺がやっても良いのか?」

「ええ、そのために選んだんですから。私の券も使っていいですよ」

 と言うと片桐は手の空いていそうな店員に声をかけ、二回分の無料券で機械に設定をして貰った。

「あとは、プレイして貰えば」

「ホント?これでいけるのか?」

 実際にボタンを操作する。俺の狙いはウサギさんが伸びきって直立したかのようなキーホルダー。ボタンを操作して、まずは横にクレーンをスライドさせる。うむ、一先ずは良い位置だ。そして、二回目。クレーンを奥側に移動させるボタンに指をかけた。

「先輩、ちょっと長めに押してください」

「ん?お、おう」

 片桐の言うとおりにボタンを操作する。程よく引っ掛かり、ウサギさんが持ち上がった。

「お、おう!!見ろ!!上手くいったぞ!!」

 と、喜んだところで景品が落下した。

「……」

「あと一回ありますよ。さっきみたいにやれば取れますって」

 そう言われ、もう一度プレイすると見事景品が取り出し口に収まった。

「お、おお。マジだ。結構簡単に取れた……」

「私のコツは無理をしないことです。取れる台の中から欲しいものを選ぶんです」

 なるほど、片桐はひとしきり筐体を見定めて取れる台を見つけてたのか。

「ところで、なんでこの筐体のクセみたいなのを知ってるんだ?」

 片桐の言うコツだけでは、二回目のボタンの長く押し込むという行為の説明はつかない。何故彼女はこの筐体の特徴を知っているのか。

「ああ、それは先輩が昔この筐体にお金たくさん突っ込んで景品取れずに終わったの後ろで見てたんで」

「……良く覚えてるな」

 恥ずかしい思い出をほじくり返されてしまったと少し悲しくなった。

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