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また、ともに  作者: 藤林ミドリノフ
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心の瘡蓋

 教室の戸を開けた。

「お、帰ってきたか」

 明かりのついた部屋の中には、友人が机に足を投げ出しながらスマホを弄っていた。

「どうだったよ」

 前田が聞いた。俺は適当な椅子に腰掛け、どこから話そうと言葉に詰まった。

「……片桐に好きな人がいるって知ってたか?」

 口から出てきたのはそれだった。前田は驚いたように両の目を丸くした。

「いや、知らなかったな。そうなのか」

 俺は黙って頷いた。前田はそれ以上何も聞かなかった。

「吉川は知ってるかもな」

「ああ、かもな」

「まぁ、だからと言ってどうにもならんが」

「ああ」

 こちらも吉川に内緒にしていたのだ。何かを言えたような口は無かった。大体にして、吉川が片桐の好きな人について知っているという確証もなかった。

「なぁ、辻本」

「ん?」

「……すまなかったな」

「お前は何も悪くないよ」

 前田は少なからず責任を感じているらしい。

「ああ、そうか」

「ん?」

「振られたのか、俺ぇ」

 独り言めいた言葉を拾ってほしくて前田にそう呟いた。

「辻本、俺とお前は友人だぞ」

 安心させるように前田は言ってくれた。

「ああ、片桐も、吉川もな」

 俺は泣き声で、最後の意地で、そう格好をつけた。

「当たり前だ」

 と、前田は答えた。



 告白から数日がたった。変わり映えしない毎日が続いていた。

 前田も吉川も変わらず遊びに誘ってくれるし、その場には片桐の姿もあった。俺は安心した。片桐とも、少しぎこちない部分もあったかもしれないけど上手くやっていた。

 ただ、俺の内面はすっかり変わってしまったような気がした。この愛しい日常を保つために、上部だけの平静を保つのに必死だった。

 そのためだろうか、ふと気がつくと疲労感が溜まってきたように思えた。それに気づいた頃、俺達は三年生になり、片桐も学年が上がり二年生になった。三年生は委員会活動や部活動を引退する時期になり、受験期を迎えた。

 そのため、徐々に仲間内で集まることも減ってくる。俺は軽く失恋の思いが吹っ切れたのか真面目に勉学に励んでいた。特に大それた事もなく、心に負った傷も、抱え込んだ疲労感も癒えてきていた。




「そういえば先輩、合格おめでとうございます」

「おお、知ってたのか。ありがとう」

 そして、俺はこの学校を去るときが来た。そこそこの大学に合格したのだ。最近は新生活の準備とやらも続けている。

 そして、一人暮らしのため自分はこの街を離れることになる。

「片桐も来年受験だろ?頑張ってな」

 自然と、そう返した。大丈夫だ。このままの関係を続けていこう。何もなかったようにと。そのまま、帰り道を二人で歩いた。

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