男の友情、宣言
「それはな、恋ってやつだぞ」
「……マジで?やっぱり?」
なんか知らないが、肯定されたせいか少し安心した。
つい先日、モヤモヤとした思いが俺の中に生まれた。この事を誰かに相談したくなり、俺はクラスメイトであり、数少ない友人の前田にその話を振った。前田に話そうと思った経緯は、彼は何度か吉川や片桐達とも遊んだことがあり、話が早いと考えたから。そして、俺は彼を誰よりも信頼しているので話をしたのだ。
話に来た俺の様子を見ると得意気そうに、『場所を移すか、外の空気が吸いたい』と言い校舎の屋上に俺を連れてきた。よくもこのような場所を知っているものだと感心した。
恥ずかしくなりながらも話を進めると、そのような反応が返ってきた。
「なんだお前、好きな娘が出来たのか?」
「……うるせぇな」
「ハハハ、可愛いやつめ」
晴天に笑い声が響く。休み時間に見上げる空の色は何となく今と違うような気がした。秋の空はこんな色をしていたのだろうか。
「というか、お前のこと見たらわかるよ。何となく落ち着きがないってかさ」
「……そんなのわかんのかよ」
「お前、いつから俺達がダチやってるか覚えてるのかよ」
かなり長い間。どれぐらいコイツと一緒にいたか、思い出そうとする。
しかし、何かを考えようとしても片桐の顔が思考をちらつく。
「しょうがねぇなぁ」
前田が背伸びをした。
「なんだよ」
「お前は告った方がいい」
急な友人の言葉に俺は変に心がざわついた。告白。それがなんとも恐ろしいものに思えたのだ。
「……マジで言ってる?」
「マジだよ」
冗談っぽく聞いてみたが、前田は真剣な眼差しでこちらを見ていた。もう逃げることは出来ないだろうとなんとなしに察した。
「冷静に考えてもみろ。俺達には余り時間なんてものはない」
「時間?」
そうだ、と前田は言った。
「もう二年の秋も終わりだ。俺達は来年、受験シーズンに入る。まともに遊べるのは後は二年の冬くらいのものだ。今を逃したら、結局流れてなあなあで終わるんじゃないか?」
「確かに……」
そう言葉にはしたものの、納得はいまいち出来なかった。それを見透かしたように前田は言葉を続けた。
「辻本。このまま、何もなかったように仲良しを続けようという気持ちもわかる。お前は他人思いな奴だ。でも、本当にお前は今後、告白しなかった、思いを伝えきれなかったことを抱えて納得できそうなのか?」
「それは……」
このまま、関係が壊れないだろうか。告白して、上手くいかなかった時が怖い。そう思った。しかし、この鬱屈した思いを抱えて今後受験や学生生活をやっていけるだろうか。自信は正直なかった。
「俺は……」
「勝手なことを言って悪かったな。詫びと言ってはなんだが、いつでも友人として相談に乗ろう」
「こちらこそ、すまんな。あと……」
「吉川にも内緒な」
「なんでわかった?」
前田に言い当てられて驚く。
「面倒なことにしたくないんだろ?」
「……サンキューな」
「良いってことよ。昼休憩、もうそろ終わるぞ」
そう言ったのを合図に、俺と前田は教室に戻った。
冬を迎え、俺達は時間を惜しむように遊びの予定をたてるようになった。
当然、メンツには片桐もいたし、前田も吉川とも一緒に遊んだ。そう過ごす中で、俺はやはり片桐のことが好きなのだと改めて思った。
ある日、彼女らと遊んだ夜のこと。俺は決意した。片桐七世に告白すると。
そして、悲しい結果であったとしてもこの日常を続けようと。
俺はこの若干後ろ向きな決意を意思表示の意味も込めて、前田にメールで送ってみた。
『がんばれよ。悔いのないようにな』
親友からは、そう返信が返ってきた。