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31 ふゆの月22日、聖夜祭の誘い

 マキオが婿候補なのかどうかを確かめる。


 そんな目的を掲げたイーヴィンだが、実際はマキオが彼ーー長野ながの祐輔ゆうすけと違う人間なのだと確かめたかっただけだった。否、同じだったらどうしようという気持ちの方が大きかったかもしれない。


(どうしよう、なんて。同じだったとしたら、なんだっていうの?)


 ダメだったら、女神の姉に新しい婿候補を出してもらうまでだ。

 約束のお願い事一回は、まだ保留したままである。


 そうして予防線を張りながら、イーヴィンはせっせとマキオの元へ通い続けた。

 気になって仕方がないのは、実らなかった初恋相手だからではなく、彼が婿候補かもしれないからだと言い訳をして。

 ゲームとしてプレイしていた、婿候補との恋愛フラグを立てていたあの時のように、毎日毎日通ったのである。


 手っ取り早く女神に聞けばいいものを、地味に会い続けていたのは、ただ会いたかっただけなのかもしれない。

 ふゆの月十四日の恋愛イベント『バレンタインデー』ではしっかりと、手作りプリンを渡している。


 どうしてなのかは分からないが、魔女の庵へ行くと、マキオはいつだってイーヴィンの来訪に気付いてボロ小屋から出て来た。

 彼が尊敬する人ではあるが、苦手意識はなかなか変わるものでもない。魔女に会わずに済むおかげで、イーヴィンは気兼ねなくマキオを訪ねることが出来た。


 何度も会って思うのは、マキオの顔は祐輔とそっくりだということだ。

 顔以外は、何もかも違う。

 体格も性格も考え方もあまりに違うから、顔が似ているというのも、もしかしたら気のせいなんじゃないかとイーヴィンは疑い始めた。


 前世の記憶である。

 全てを正確に思い出しているかなんて、本人であるイーヴィンにだって分からないのだ。


 今日も今日とて魔女の庵がある、女神の泉へイーヴィンはやって来た。

 毎日のように来ているが、女神を呼び出して真相を知る勇気は、まだ持てない。


 魔女の実験に必要だという薬草の採取に出掛けるマキオの後について、妖精の森の入り口付近を歩く。

 あれは何という薬草でこんな効果があると、マキオは数歩歩いては細かく説明してきた。

 いつも影のある雰囲気がある彼だが、こういう時は活き活きと楽しげにしているから、薬草に興味がないイーヴィンも楽しかった。

 毎回この調子なものだから、短期間だというのに、イーヴィンはすっかり薬草に詳しくなってしまった。


「この薬草に、ある楽器の音色を聴かせてやると、花が咲くんだ」


 そう言って膝をついたマキオの足元に、風船のような蕾を持つ植物が生えている。

 ツリガネソウという花に似ているなと思いながら、イーヴィンは彼と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


 見た目はほぼツリガネソウだが、その蕾は淡い黄色をしている。

 黄色の蕾がふっくらとしている様は、ほんのりと灯りがともるランプのようで、なんとも可愛らしい。


「ある楽器?」

「伝説級のお宝だ。女神を呼び出すことが出来るベル。聞いたことはないか?」


 聞くも何も、イーヴィンの自室にポンと無造作に置いてあるーーなんて軽々しく言える雰囲気ではなく、彼女は口を噤んだ。

 女神を呼び出せる楽器なんて珍しいに決まっているが、伝説級のお宝と聞いたらますます持っているなんて言えなくなる。


「そ、そんな楽器があるんだ?へぇ〜」


 白々しいと思いながらも、イーヴィンはそう答えるしかない。

 明らかに動揺している様子の彼女に、マキオは訝しそうにしていたが、特に問うことはしなかった。


「あぁ。今、魔女様が研究している薬には、この花が必要なんだ。蕾では意味がなくてな。私は毎日女神に捧げ物をして貸してもらえないか打診しているんだが、なかなかな……」


 悔しそうに眉根を寄せて険しい顔をするマキオに、イーヴィンの良心が痛む。

 友人と言って良いくらいには仲良くなってきた彼に、黙っているのは辛いものがある。


(で、でも……)


 女神は気安くベルを渡してくれたが、とんでもないお宝らしい。

 異様なほど気に入られているイーヴィンだからこそ、女神は渡してくれたのだろう。

 だから、おいそれと貸してはいけないものに違いない。


「こんな弱気ではいけないな。二十四日の聖夜祭までには女神を説き伏せて花を手に入れたいところだが……あと数日でどうにかなるとは思えないな」

「二十四日じゃないといけないの?」

「この花に蕾がついてだいぶ経つ。おそらく、保つのは二十四日までだろう」


 ふぅと悩ましげにため息を吐くマキオは、祐輔がほのかには決して見せなかった、弱々しい表情を見せた。

 それを見て、イーヴィンはなんだかむず痒いような気分になる。


 彼はマキオであって祐輔ではない。

 そう断言出来るのに、顔が同じだとついつい祐輔と錯覚しそうになるのだ。


(あの祐輔さんが、私に弱い所を見せている。そんな錯覚をしてしまうのよね……)


「そうだ。イーヴィン、私がベルを手に入れられたら、一緒に聖夜祭を過ごさないか?この花が咲く所を一緒に眺めたいんだ」

「え……?」


 マキオの申し出に、イーヴィンは固まった。


(待って、待って、待って⁈え、ちょっと、待って?今、聖夜祭に誘われた?え、聞き間違いじゃなくて?)


 聖夜祭は、特別な夜だ。

 友達同士で盛り上がることもあるだろう。

 だが、ほとんどの場合、独身の男女が共に過ごすことは、特別な意味しか持たない。


「ベルが手に入らなかったらダメなの?」

「それは……察しろよ」


 ブツブツと言い淀むマキオに、イーヴィンは顔を赤らめた。


「でも、いいの?聖夜祭は家族と……魔女と過ごしたいんじゃない?」

「魔女様は師匠であって、家族じゃない。それに……聖夜祭の意味くらい、私も理解している」


 プイッとそっぽを向くマキオが、可愛く見える。

 イーヴィンは思わず昔の悪い癖ーー興奮して抱きつきそうになったが、グッと堪えた。


「それで……どうなんだ?」


 そっぽを向いているので表情はよく分からないが、きっと恥ずかしそうにしているのだろう。

 ぶっきらぼうに聞いてくるマキオにイーヴィンは「いいよ」と答えようとしたが、ふとシルキーのことを思い出した。


「喜んで、と言いたいけれど……」

「何か問題でも?」


 イーヴィンがいない聖夜祭を、シルキーはどう過ごすのだろう。

 彼女がいなければ食べる人がいないから、ご馳走なんて作らないだろう。当然、ケーキもなしだ。


 それでもなぜか、ご馳走の並んだ食卓の前でシルキーが寂しげに佇んでいる姿を想像して、イーヴィンはたまらなくなった。


「ごめんなさい。聖夜祭は、家族と過ごす予定で……」

「そうか。それは残念だ」


 気落ちするように肩を落とすマキオに、イーヴィンの心が痛む。

 だけど、シルキーも大切なのだ。放っておけない。


(そう、ケーキ!シルキーのケーキは絶品なんだもの。聖夜祭の特別なケーキを逃すなんて、勿体無いわ。そうだよ、きっとそう!だからこれは、仕方がないことなの!だって私は、甘いものが大好きなんだもの)


 特別な夜を過ごす相手を、マキオではなくシルキーにした本当の理由に蓋をして、イーヴィンは言い訳を並べ立てる。


 ここにモアがいたら、呆れ返っていたに違いない。


『いい加減、観念しちゃいなさいよ』


 そう、言ったかもしれない。

読んで頂き、ありがとうございます。

次話は明日、7月16日更新予定です。

次回のキーワードは『彼の過去』。

よろしくお願い致します。

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