スピンオフ~ヨルム様の見ていない世界~
この作品は「ヨルム様の独り言日記」のスピンオフです。
本編はこちら
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本編が殺伐としているので、この世界のヨルムと主人公であるアルファズルが見ていない世界をお楽しみください。
裏社会にも組織はある。
それは単純に1人では出来ない仕事だったり、明らかに人手が足りない時だ。だが、それ以外でも組織が組
まれる事がある。それは、より効率よく仕事を行う事だ。
俺の所属する組織は通称、狼と呼ばれる組織だ。お偉い聖導貴族様専用の表には出せない仕事を引き受ける
のが仕事だ。ようは汚れ仕事だ。殺しだったり、誰かを監禁したり、攫ったり…数えればキリがない。
この組織に所属する連中の理由は様々だ。
単に仕事がなかった奴、表では働けない奴、腕試しや金の為、なんてのはありきたりなくらいだ。
そして、この組織、狼には他の組織にはない福利厚生がある。
「ふう、これで何箱だ」
「6箱だ。数はこれで全部だろ」
「今回の仕事はこれで終わりだな。やれやれ、処分もできない、かと言って普通の書類と同じ場所では保管できない書類の移動なんて」
「まあ俺達は口を割らないし普通の連中がやれば必ず漏れるからな」
「今回は目撃者もいないし楽な仕事と言えば仕事だが」
「…おい、それより早く行こうぜ」
「なんだよ、もう我慢できないのか」
「だってよぉ、俺はこれが楽しみでこの組織に所属してるんだぜ」
「気持ちは分かる。なんたってこの組織じゃあなきゃ堪能できないからな」
「俺も同感だ。早く行こう」
作業しやすい為に脱いでいた組織独特の狼を模した被り物をつける。これがないとやってけないのが辛い所
だが、同時にこれがなきゃあのお楽しみに参加できない。
街から外れた小屋。その後ろには森が控えており、暗闇が覆っている。唯一、小屋に明かりが灯っており、
既に誰かがお楽しみ中らしい。
俺達は組織で決められたノックを三回、繰り返す。繰り返すのは人数を表している。程なくして中から鍵を
外す音が聞こえた。俺は再度、誰にも見られてないのを確認し、さっと扉を開け中に入る。
「3人だ」
「ああ、今日の予定はお前たちで最後だ。これでやっと俺も中で混ざれるぜ」
「待たせて悪かったな。さあ、楽しもうか」
「俺は早くちっちゃい子達をべろべろしてやりたいぜ」
「むしろべろべろされにきたんだろ」
「はやく、はやく」
小屋の廊下を進み、そこに辿りつく。そこは、
もふもふ天国だった。
そう、ここには野生の狼が集まっているのだった。普通、狼は群れで行動し、人間を襲う。賢ければ賢いほ
どに人間への警戒心が強くなり、決して相容れる事は出来ないのだが。
組織の実行部隊のボスの趣味で野生の狼を手名付けているのだ。彼らは小屋の後ろの森に棲む狼達だが、こ
うしてこの小屋にも近づいてきて俺達とスキンシップを取る事が出来るのだ。
他の組織の連中は既にくつろいでいるらしく、ひたすら撫でまわしたりしている者、両脇に狼を侍らせ並ん
で寝ている者、小さな子狼たちとじゃれて遊んでいる者等各々が好きなようにしている。
「おーちっちゃい子達元気だったかー」
さっそく子狼大好きな1人がその中に合流していった。
「おーよしよしみんなげんきですねーあーこないだきてからそんなたってないのにみんなげんきにおおきくなってるなー」
ここに来るとつい我を忘れて頭の中が緩くなる。
俺も最初は野生の狼と触れ合うなんてどうかしている、と思ったが、彼らはそこらの貴族が飼っている犬ど
もよりも賢く、かわいい。1度なついてもらえると、あとはそのもふもふの毛を撫で放題なのだ。彼らもボ
スに手名付けられているせいか他の連中の臭いを覚えるとすぐなついてくれる。そして何より大人の狼たち
は俺達とそう変わらない大きさなのだ。だからこの日はこうして、夜を過ごすのだ。
「はあーしあわせー」
「ほんとだよなー」
「あしたのあさまでいいんだよなー」
「ああ、かれらがきまぐれででていくまではいっしょにいていいんだー」
「このもふもふにかおをうずめるのがなによりのしあわせだー」
「ほんっとさいこうだぜー」
はあ、しあわせ。
裏社会に生きる者だって福利厚生は必要だ。特に癒しが絶対的にだ。
こうして、俺達は狼達と共に朝まで過ごすのだった。
読んでいただきありがとうございました。
この度、本編では回収できない部分ですね、世界観というか、本編では××でしまったキャラ達がいますので、彼らの活躍を書けたらな、と思います。
よければ本編もどうぞ。