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赤い糸は小指から薬指へ  作者: 森 祐
1/1

糸の色は最初は白い

初めて書いてみた作品です。至らないところありすぎると思いますが読んでくれるとうれしいです。

ちょっとありきたりな作品ですがよろしくお願いします。

プロローグ


運命の赤い糸。


それはいつか結ばれる男女の手の小指と小指に結び繋がっているという素敵なイメージがあるがそれは日本人が勝手に変えたものだ。

実際は赤い糸などではなく赤い縄がいつか男女の足首に結び繋がっていると言われている。


だが俺は最初から繋がっているのではなく色んな人達と足首に縄を結び繋げて確かめているのではないかと思う。

要は足の引っ張り合いだ。


最初から結ばれて繋がっているなら運命何て言葉はもっと価値を失い、恋愛はもっと簡単になりこの世で独身、浮気、離婚などはなくなるだろう。

だって手繰り寄せれば運命の相手の人が現れるのだから。

でも現実は運命というのは奇妙で希少で嬉しくもあり悲しくもあり、時には偶然と必然が混ざりに混ざって複雑に絡み合ったりもする。恋愛も付き合ったり別れたりイチャイチャしたり喧嘩したりと楽しさ悲しさも沢山ある。三角関係なんかややこしくてドロドロして、これまた複雑なものだってある。

独身、浮気、離婚なんてものも普通にそこら中で起こっている。


だから俺は運命の縄もとい糸は最初から結ばれているのではなく結び足を引っ張り合い確かめて本物の運命の赤い糸かどうかを確認しているのではないだろうか?迷惑を掛けて掛けられて耐えて支え合うそれが本物の運命の縄もとい運命の糸なのではないだろうか?と俺は思う。

そして赤色になるのはそれが迷惑を掛けて足を引っ張り合い足から血が出て赤く染まったのでそんな血が滲む思いをして関係を築くそれが本当の運命の赤い縄、赤い糸なのではないだろうか?とも俺は思う。


まぁ運命の赤い糸にこんなR‐16指定みたいな思考をするのは俺くらいだろうけどこれから語ることは足首ではなく運命の赤い糸では欠かせない小指を失った俺が運命の赤い糸を結んで絡んで解いて耐えて繋がっていくそんな話を語っていこうと思う。




1小節目 幸せは右手小指から逃げてゆく


幸せは右手の小指から入り、左手の小指から逃げてゆく。

幸せを手に入れたい人は右手の小指に幸せを逃がしたくない人は左手の小指にそれぞれ指輪をすると効果あるかも?などと曖昧というか自信なさげなキャッチコピーでピンキーリングの紹介しているファッション雑誌を眺めながら昼食を摂っている男。

如何にも勉強ができますよといった風に眼鏡をくいっと中指で持ち上げながら憎たらしいほど整った顔のイケメン堀内清四郎はファッション雑誌から目を離し、眠たげに窓の外を眺める向かい座る男に声をかけた。


「一之瀬、お前もう食べないのか?」

と向かいに座る、一之瀬奏の持つ食べかけのパンを見ながら呼ぶ

「…」

「おーい一之瀬」

「……」

「…おーい奏ちゃん」

ぐりんっと首の方向を窓から見える雲から腹立つイケメンに向ける。

「奏ちゃんっていうな」

ゴゴゴと後ろから出ていそうな雰囲気を醸し出しながら堀内の呼びかけに答える。

「そんな怖い顔で睨むなよ。目つき悪いから余計怖く見えるぞ」

「そのイケメン面不細工にするぞ」

「おーこわっ」と人のコンプレックスを晒しておきながら茶化してくる堀内

本当に憎たらしいほどのイケメン面


黒縁の眼鏡が優等生の雰囲気を出しクラスの女子からは断トツの人気

その上、本当に成績が良く運動神経も抜群で生徒会役員、教師陣からの信頼も熱い。まさに非の打ちどころのない人気者

だがそれは表だけで本性は根っからのドS。

堀内曰く「自分の本性を見せてもいいと思った奴にしか見せない」らしい。

一之瀬のコンプレックスを躊躇なく抉るのはその性格故だ。

「本当に憎たらしい」

「そりゃどうも」と小声で言ったにもかかわらず聞こえていたようで皮肉で返されてしまった。腹立つ。

「それでその食べかけのパン食べないのか?食べないと昼休み終わっちまうぞ」

「あぁわかってるよ」

と言い合っても勝てる気がしないので仕方がないので食べかけのから揚げパンを齧る。

モグモグ(美味い)

「今日はお前、放課後暇か?暇ならちょっと生徒会の手伝いしてほしいんだが?」と唐突に話題を振ってくる堀内。

堀内が生徒会に入ってから堀内の友達と言う事で何度か生徒会の仕事を手伝っていたりした(主に雑用)

が断った。

「悪い。今日は用事があるから手伝えん。」

「?…あぁなるほどな。分かった。」

一瞬、怪訝そうな顔をしたが何かが分かったのか察してくれたように了承してくれた。

「まぁ頼もうとしてたの雑用だしな。いつものとこだろ?」

と堂々と雑用させようとしていた明かし一之瀬の用事先を訪ねる。

「俺は雑用係じゃねぇぞ。ったく」

と呆れながら「そうだよ」と堀内の質問に返答する。

「そうか。じゃあお互い用済んだら飯でも食いに行こうぜ」

「あぁわかった。お前の奢りでな。」

「いいぞ。今日は俺が奢ってやる。」

と場の雰囲気を変える為か茶化してくる堀内に少し感謝をしながらその茶化しに乗る。

(ありがとな)

と気恥ずかしくて口では言わないが堀内に心の中で感謝をしていると


「なになになに?男二人でどっかデートでも行くの?」

と横から話に入ってくる騒がしいクラスメートがいた。

「「うるせぇ…」」

と二人揃えて口に出すとその騒がしいクラスメート、立花愛生がムッとしながら

「なんだ!うるさいとは!!それに二人して人をめんどくさいやつが来たみたいな顔するな!」

「「いや、普通にめんどくせぇ」」

「ハモっていうな!」

「「えー…」」

「うぅー!泣くぞ…」

と二人で立花をからかっているとそろそろ本気で泣きそうだったので止めて堀内がフォローに入った。

「悪かったよ。で?愛生、何の用?」

「うぅー…意地悪」

 上目遣いで睨んでくる立花を見て少し可愛いと思ってしまった。がそれを隠す為とりあえず謝罪をする一之瀬。

「悪かった。俺も謝る。」

二人で立花に謝罪をすると少し間を開け喋り出す。

「二人でなんか仲良さそうに放課後どっか行こうとしてる話聞こえたからさ…だから一緒に…ボソボソ」

からかった為かまだ少し涙目上目遣いで恨めしそうに睨みながら話す立花だが、恥ずかしさ怒りかそれとも恥ずかしいのかわからないが少し顔を赤くしている。

最後の方は声がボソボソ言っていて小さくてよく聞き取れなかったが

…まぁ大体は察することができた。

「立花お前も一緒に行くか?こいつの奢りで」

「え!?いいの?」

と恨めしそうな表情から一変してパッと花が咲いたように笑顔になる立花

(この無邪気な笑顔だけ見れば美少女なんだけどな。)

とこの騒がしいクラスメートを見ながら思う一之瀬


立花愛生。誰にでも気さくに話かけれ、天真爛漫で愛想のいい笑顔から男女共に人気がある。

運動神経がよく運動部から助っ人に呼ばれていたりする。男らしい一面もあり、高校に入学してすぐに通学の電車で痴漢に遭っている女子を助け痴漢をしていた男を警察へ突き出したという。一部ではファンクラブがあるとか…

そんな少し男っぽさを残したこの人気者美少女。

人気者だが立花にも弱点がある。

それは頭が悪いのと堀内清四郎。あと胸が小さいこと(禁句。言ったら即病院行き)

彼女は堀内と小学校からの幼馴染で中学の時同じ陸上をやっており運動神経抜群でスポーツなら何でもできる立花が唯一勝てなかった相手が堀内だったそうだ。

何度も勝負を挑んでいる内に対抗心から恋心に変わってしまったらしい。

ちなみに周りの人間は立花が堀内に恋心を抱いているのを知っている。最近では週一で手作り弁当を渡しているとか。

当の堀内はそのことを知っているのか知っていないのかは分からない。

本人にも聞いたことがない。

(というか聞いたら立花に殺される。)


その片思い中の立花愛生はこうしてたまに一之瀬と堀内の話に横から話に入ってくる。そしてどこかへ行くとなればついてきたがる。

「あぁ俺はいいよ。どうせ払うの堀内だし」

と笑いながら立花の参加を受け入れる。

堀内もそれに賛同し

「俺も構わないぞ。一之瀬のも愛生のも払ってやる。」

(なんて余裕な態度だ。しかもクールだし腹立つ)

「そりゃどうも」

「さとりか?」

「お前は分かりやすいんだよ」

「?何の話?」

話についていけてないのが若干一名いるがここでキーンコーンカーコーンと昼休みが終わる。

「おおっと席に戻らないと。放課後すぐ行くの?」

とチャイムが鳴って席に戻ろうと踵を返した立花がすぐに立ち止まり首だけをこちらに向け訪ねてくる。

「いや俺は生徒会、一之瀬は用事があるからそれが終わったらだな」

「オケー分かった。私もバスケ部行かないといけないから。」

「じゃあ一之瀬も愛生も終わったら俺に連絡くれ」

「ん」

「了解!」

と各々返事をし合い席に着く。

(5限は現国か…)

と黒板の時間割を確認してから窓の外の雲を眺める。

(……鍵開いてるよな)

と考えながら陽気に誘われ一之瀬は机に伏せる。


――放課後

ガラガラ

(やっぱり鍵開いてたな)

「不用心だな」

と呟くが語りかけた相手もいなければ聞いてくれる相手もいない。無人の教室に呟いた言葉は空しく響き消えていく。


無人の教室あるのは一台のピアノと五線譜が引かれている黒板

ここ私立白海高等学校は少し特殊な学校である。

何が特殊化と言えば普通高とは違い専門学科があるのだ。その専門学科とは音楽教科を専門とした学科である。ちなみに一之瀬も堀内も立花も普通科である。


その音楽学科と普通学科が存在するこの白海高等学校は本校舎と旧校舎があり、本校舎の東側の林を抜けた先に旧校舎が残っている。今は全ての生徒、教師は本校舎で授業、部活動、生活などをしているので旧校舎はほぼ使われていない。

学校長の意向で歴史ある旧校舎は壊さず残しておくという方針で今でも旧校舎は残されており倉庫や文化祭、部活動の備品置場に使われているのだ。

(まぁ古いっちゃ古いけど取り壊すにはまだボロくはないな)

そんな旧校舎は普段の授業中は鍵を閉められており入る事が出来ないのだが放課後になると部活動の生徒が使うこともあると言う事で閉校時間までは開いている。

(それにしても使われていない教室までも鍵を開けておくのはやはり不用心だとは思うが…)


そして今一之瀬がいる部屋は旧音楽室

今は部活動の生徒も教師も誰も使っておらずピアノが有る為、倉庫としても使われていないこの教室。

ピアノだけ出して移してしまってもいいのだろうけど音楽学科があるだけあって本校舎にはピアノは腐るほどある。

それにこのピアノは一之瀬が学校に頼み、捨てないで置いてもらっているものでもある。


一之瀬は鞄を窓際の近くにある机に置くとピアノと向き合い鍵盤蓋を開け鍵盤を露わにする。

鍵盤を適当に人差し指で押し端から端まで指を動かし音を確かめるように奏でていく。一通り全ての鍵盤を触り一息つく一之瀬

「ふぅ……」と息を吐き近くにあるピアノ椅子に座り天井を仰ぐ

少しの間、目を瞑った。

ふと目を開け右手に嵌めていた皮の手袋を脱ぎ制服の内ポケットへと手袋を押し込んだ。


もう一度息を吐き、鍵盤に指を乗せ、鍵盤を優しく押すと音が鳴り教室内に響く。

別の一音、また違う一音と鍵盤を押して響かせていく。

そして徐々に滑らかに指を動かし音を鳴らし奏でていく。いつしか指の動きは速くなり音が重なり一つの曲となる。

激しいようでそれでも優しい、聞いている者が笑顔になってしまいそうなメロディが教室中に響き渡り

先ほどまで空虚でなにもなかった教室がその明るく晴れやかな曲で色を帯びていくようだった。夕日の色も混ざり教室は幸せな音色とリズムで溢れると思った

その時


―――ぴたっと音が止まり先ほどと同じ空虚な教室に戻る。まるで時計の針が止まったように音と色で溢れた教室が嘘のように色で表すなら虹色が突然に灰色になったように止まってしまったのだ。


それはピアノを弾いていた一之瀬の指が止まったからである。

「……やっぱりだめか」

と腕から力を抜きもう一度、天井仰ぐ

そして右腕を上げ自分の指を見る。

「…こんな指じゃもう弾けないよな…」

と上げた腕を降ろし一之瀬は絶望を痛感する。

こうなってから何度も味わってきた絶望。それでも諦められず一之瀬は弾き続けるがやはり止まってしまいその度に味わう絶望と喪失感。

(もう弾けないことも、もう戻ってこないことも)

「……わかってんだけどな…」

「……こんな右手じゃ…」

もう一度、右腕を上げ右手の小指を見る。

見るがそこには小指は映らない。

そう、一之瀬奏には“右手の小指が無い”のである。


腕を下げ今度はそのまま下げた腕で両目を覆いため息をつく。

「ため息をつくと幸せが逃げるか…」

一之瀬は失笑しながもう一度ため息を吐く

空虚の教室にため息が消えていき、小指の無い少年の右小指があったであろう場所からは何故だか空気が抜けるように幸せという目には見えないものが逃げて消えていくようだった。

「……笑えねぇ…」


―――空虚で何もない教室には誰かが廊下を歩く音と呟いた言葉が響きそして静かに消えていった。











第二節 糸は突然結ばれることもある。


暗い部屋に3人の男女がいた。


怒鳴りながら刃物を持つ男

泣きながら男を止める女性

男に捕まり抵抗するも動けない少年


――っまえにこんなもの必要ない!!」

バン!!


(……嫌なもん思い出しちまったな…)

一之瀬は目を覆っていた腕を離し両手を脱力させた。

窓の外の夕焼けに視線を向け

(やっぱりこの手じゃもう無理なのか…)

「って簡単に捨てられたらもうやめてるよな」

一之瀬は呆れたように薄く笑い、弾くたびに思ってしまう悩みを払拭するように一息吐き脱力した腕を伸ばし鍵盤に指を掛ける。

そして再度、灰色のような何もない教室に様々な音色が広がり止まりまた広がる。

それはまるで壊れたカセットテープを再生されている様に繰り返された。


一之瀬奏は3年前までは天才少年ピアニストとして世間を賑わせた。

音楽界の期待の新人。若き天才現る。神の手など様々な呼び方をされた。

だが一之瀬が一三歳の時に右手の小指を失った。

それ以降、メディアは彼の指を失った理由を追及し勝手に語りつくし終いには話を盛に盛って捏造までし注目を集め、世間が飽きた頃には一之瀬奏というピアニストのあっさりと捨てた。

一之瀬自身あまりメディアというものが好きではなかった為、メディアが見捨てようと大して気にはならなかったが周りの人間はメディアの影響か一之瀬を同情する者もいれば、ざまぁみろと罵る者もいた。

その周りの反応は一之瀬からすると鬱陶しいという感情以外なかった。

メディアから見放され周りからの同情の視線。

全てが鬱陶しく感じ一之瀬は徐々に荒れていった。

そして中学を卒業する頃、父は失踪し母は心労が祟り入院した。


父も母もいなくなった一之瀬は母方の祖母が一之瀬を一時的に引き取り祖母のが住んでいる地域の高校へ進学しないかと勧められた

祖母の家は都心から離れた田舎でのどかな場所だった。

その田舎に唯一ある高校がこの白海高等学校、母の古い友人が理事長を務めていると言う事もあり一之瀬は白海高校を進学を決め、白海高校の専門学科である音楽科ではなく普通科を受けた。

音楽科がありながら普通科を受けたのは一之瀬がなるべく目立たないようにする為と音楽を諦めきれない一之瀬に音楽に触れれるようにと理事長が普通科を勧めくれた。

一之瀬は理事長の勧めに従い普通科に入学しクールでイケメンの堀内と元気と明るさの塊、立花と出会った。

堀内と立花に右手のことや音楽を諦められない事も話したが二人は「別にいいんじゃねぇの。」だったり「難しいことは良くわからないけどやりたいなら頑張れ!」と同情せずあっさりと受け入れた。

引かれたり、腫れ物に触るような反応されたらなどと悩みこの二人なら話しても大丈夫とだろうと腹を括り話した一之瀬は拍子抜けしたのを覚えている。

そして二人と何気ない日常を送りながら一年が経ち今に至る。



ピアノと黒板、長机が二席、それ以外何もない教室で一人一之瀬がピアノを弾いて止まっては弾いてを繰り返していると突然長机に置いてあったスマホがブーブーと震えた。一之瀬は机に置いてあるスマホに気づき、手を止めピアノから離れた。

机を小刻みに鳴らしながら震えるスマホを取り画面を見るとそこには立花愛生と表示されていた。立花から着信に応じる

「もしもし!いっちー!!まっ――」プツッ

元気の塊である立花からの着信をたった四秒で切った一之瀬。

(いきなり大声でしかも普段一之瀬と呼ぶのにいきなりあだ名で呼んできて色んな意味でうるさくてつい切ってしまった。まぁ仕方ない。うるさかったしな)

とそんなことを思っているとまたスマホが震えた。

また立花か?と考えて画面を見ると次は堀内清四郎と表示されていた。

堀内からの着信に応じる。

「もしもし?一之瀬?お前まだ終わんないのか?」

と開口一番に電話の向こうの堀内は一之瀬に尋ねた。

まだかと聞かれスマホを耳から外しスマホの時計を見るともう六時を過ぎていた。

夢中で弾いていたせいか時間の感覚を忘れていたみたいだ。

窓の外を見ると夕日は沈み月が顔を見せようとしていた。

「悪い。時間気にしてなかった。今片付けて行くわ」

と堀内に謝罪し今から向かうことを伝えた。

なにやら堀内の後ろからギャーギャーと騒がしい女の声がするが気にしないでおく。

「わかった。じゃあ校門前で待ってるな。」

「あぁ」

と短く返し着信を切る。

「もうこんな時間か…」

一之瀬は窓の外が暗くなっているのを見て呟く。

(こんな指でもやっぱり弾いていると時間忘れちまうな)

「ってそんなことより早く片付けないと門閉められちまう」

ここ白海高校の閉校時間は六時半までと決まっておりそれ以上残るには教師の承認が必要であり門を閉められ出れなくなると教師に頼んで門を開けないといけない。その上理由をちゃんと説明しないといけないのと少しばかりの説教を食らう。

それは避けたい一之瀬は急いで脱いでいた手袋を嵌め、荷物を持ち帰る準備をする。

最後にピアノを傷つけないように片付け鍵盤蓋を閉めた。


スマホの画面を確認すると18時10分と表示されていた。

(余裕だな。)

ここの旧校舎から校門までは歩いて10分程かかる距離にあるが走ってちょっとしたショートカットを使えば5分で辿り着ける。

鞄を肩に掛けなおし勢いよく教室から出ると

――ドンッ

と胸の辺りに衝撃を食らい勢いで後ずさる。

どうやら誰かとぶつかったようだった。

「すいません」

と反射的に謝ると足元から「いてて」と声がする。

声がする足元を見るとそこにはピンク色が見えた。

一瞬何か分からず目線を少し上げると腰くらいまで伸びた黒髪ロングの女子生徒が尻餅をついていた。

少し視線を下に下げると短めのスカートからピンク色の下着が露わになっていた。

女子生徒もそれに気づいたのか「ひゃっ」と高い声を上げスカートを抑え露わになったピンク色の下着を隠す。

そして一之瀬の顔を見上げ

「見ました?」

と尋ねる。

――どうしよう?見てないって答えても女子って大概見たでしょ!と決めつけて(実際見たけど)勝手に怒るからな…(ソースは立花)

と考え一之瀬は

「見たよ。綺麗なピンクだね。」

素直に少し爽やかに返答した。

「……手貸してくれませんか?」

と女子生徒は顔を俯かせながら一之瀬に要求してきた。

「あ、あぁ…はい。」

(これは怒ってない?やっぱり素直に言うもんだな)

と女子生徒が怒っていないと一之瀬は感じ左手を女子生徒に左手を差し伸べた。

すると


―――グイッ

と女子生徒に差し出した左手首を掴まれ思いっきり引っ張られた。


「へ?」


何とも間抜けな声を出しながら引っ張られた勢いで前に体勢を崩す一之瀬

女子生徒の顔に近づいてゆきこのままだと倒れて彼女を押し倒す形になる頭と頭がぶつかってしまうかもしれない。

それとも口づけをする形になるのかとも思った瞬間

現実はそんな甘く酸っぱくない。

顎から勢いよく衝撃が走った。


先ほどまで下を向いていたはずの一之瀬は気づけば天井を見ていた。そしてまた地面を見てまたも天井を仰ぎ今度は背中に衝撃が走った。

天地が二回もひっくり返った。

何が起きたか全く分からず少し体を起こし前を見ると

「はぁ…はぁ…」

と息を切らしている女子生徒が拳を天井に向けて掲げている姿があった。

そこで一之瀬は何をされたのか理解した。


一之瀬は女子生徒に腕を引っ張られた後そのまま下から見事なアッパーカット食らいバク宙が如く綺麗に宙を一回転し舞ったのだ。

プロボクサー並みの見事なアッパーカットをヒットさせた女子生徒を見ると顔を真っ赤に紅潮させており目に涙を溜めていた。

そして角度的にまたもスカートからピンク色の下着が見えていた。

「……ご、ご馳走様で、す」

お礼を言うと一之瀬の視界はぐらりと傾き暗転した。

(酸味が効きすぎ…)



――て

―――きて下さい

暗転した意識の中

声が聞こえる。聞き覚えのない声だ。まさか天使の声か?

体を揺さぶられる感覚もある。

これは夢なのか?現実なのか?

とりあえず何も見えないから目を開けていこう。


一之瀬は夢か現実かの区別がつかないまま意識を徐々に覚醒させていき目を開けていく。

光がいきなり視界に入り一瞬眉を顰め、また目を瞑る。もう一度ゆっくり目を開けて行くとぼんやりと視界が広がっていく。

ぼんやりとした視界で最初に長く黒いものが映った。


徐々に視界がはっきりしていくとそれが女性の髪の毛だと気づき、視界もほとんど戻ってきた頃には見覚えのない女性の顔が見えた。


凛々しくもあり少し幼さが残っている顔立ち

大きめな黒目に少し上がった目尻、長い睫、可愛らしくプクッとした涙袋。

鼻は控え目で小さく、唇はぷるっと柔らかそうで薄く塗られているリップが光っていた。

可愛いと言いうより綺麗と呼ばれる美少女の顔が目の前にあった。

そんな美少女は一之瀬の顔を覗き込むように見ており、一之瀬と目が合うと何故だか少し顔を赤らめ、目を逸らしながら口を開いた。

「やっと起きましたね」

「あ、あぁ…あれ何で俺、寝てたんだっけ?」

と頭を上げようとした時、後頭部に柔らかい感触があるのに気が付く。

(これは膝枕というやつか!?しかし何故こんな状況に…)

頭に手を当て、記憶を探りながら上体を起こすとふとある色が思い浮かんだ。

「……ピンク…」


―ガシッ

すると後ろから肩を強い力で掴まれた。

首だけを後ろに向けると美少女が黒いオーラを出しながら胸元で拳を握り締めていた。

「それ以上思い出すともう一度眠ることになりますよ?」

「は、はぃ」

彼女の周りから異様な圧力を感じこれ以上は思い出さないことにした。


代わりに

「膝枕ありがとうございました。重くなかったですか?」

「いえ、大丈夫ですよ。」

……それに私のせいでもあるし。ボソッ

「え?何か言いました?」

「いえ、何でもないですよ」

頭に?を浮かべた一之瀬だがこれ以上の追求は命の危険を感じるので止めた。


膝枕のお礼も済みポケットに入っているスマホを確認すると18時25分と表示された。

「ってこんなことしてる場合じゃねぇ!!!」

「え?」

キョトンと頭に?マークを浮かべる女子生徒

(もしかして下校時刻知らないのか?…って今はそんなこと聞いてる余裕も考えてる時間もない!)

「え?じゃない!いいから早く校門行かないと門閉められちまう!」

「え!?ええっ!?ま、待って!まだカバンが――」

「いいからいくぞ!」

「だ、だから鞄が――」

「そんなの明日取りに行けばいい!!」

「えぇー!!!」

と女子生徒の文句を聞かず手を取り大急ぎで校門へと走る一之瀬


旧校舎と本校舎を結ぶ道を使わず旧校舎と本校舎仕切っている林を斜め方向に抜けショートカットをする。

(迷う可能性があるからこのショートカットを使う他の生徒はいないけど慣れれば簡単に抜けられる!)

林を抜け校門が見えてきた。


だがそこには門を閉めようとするジャージを身に纏った女教師の姿が見えた。

「はぁ…はぁ…ちょっと待った!!」

「ん?」

息を切らしながら走る一之瀬と同じく息を切らせながら手を引かれ走る女子生徒の姿を見つけ女教師は口端を上げニヤニヤとしながら

「あと5秒で閉めるぞ」

とカウントダウンを宣言した。

「5」

「マジかよ!」

女教師がカウントダウンを始め、スピードを上げようとする一之瀬。

が思うようにスピードが上がらない。

視線を背後に向けると女子生徒がフラフラにへばりながら走っていた。

「おい!もう少し頑張れ!」

「はぁはぁ…もう、む、無理、はぁ…」

「4」

女子生徒は一之瀬に引かれるがまま千鳥足のようにフラフラになっていた。

「3」

そんなことはお構いなく無慈悲に女教師のカウントダウンは進む

「2」

「ちょっ、まtt」

「1」

――ガラガラガラッピシャッ

「0~ハイ残念~」

校門まであと1mも無いと言うところで門はジャージ姿の女教師によって閉められたのだった。

「ぜぇぜぇ…ゼロ…言う前に…はぁ…閉め…やがった」

「はぁ…はぁ…もう…動けない…」

校門が閉められジャージ姿の女教師の前で膝と両手を地面につき頭を垂れ、息を整えながら声を絞り出して文句を言う生徒二人


「そうしてるとお前ら私に土下座してるみたいだな」

とその光景を見下ろすように見ながら女教師は笑うが肺に酸素を取り込むことで精一杯の二人は返答することが出来ない。

「さあてお前ら二人へばってないでさっさと立て。職員室でゆっくり話を聞かせてもらうぞ。反省文を書いてもらいながらな」

女教師は生徒二人を見下ろすのを止め歩き出しながら職員室へと呼び出し罰を提示した。

「ちょ…待てって。今…まだ…立てない…から…」

一之瀬は息を整えながら抗議するが女教師は振り向き笑顔で

「さっさと来い♡しばくぞ♡」

「ひっっ」

「…こぇよ…」

疲れが吹き飛ぶくらいの可愛らしい声と素敵な笑顔で教師らしからぬ発言する女教師

(ほぼ脅迫だろ…一人怯えてるし。あんた本当に教師かよ…)

女教師の本性に恐怖を覚えた二人は黙って職員室へと連行された。



本校舎1階の玄関からすぐにある職員室へ到着する三人

一人の女教師がガラガラと勢いよく扉を開け中へ入っていく。

続けて生徒二人も足取り重く職員室へと入る。

「こっちだ」

と女教師に呼ばれ職員室の窓側隅にある机の隣へ案内される。

「本来は隣の指導室で説教するところだがまぁ面倒だから私の席でいいだろう。」

とめんどくさそうに言い深々と椅子に腰を掛け、生徒二人を正面に向かい合った。

「面倒って私情挟みまくりですね。恵ちゃん」

「恵ちゃんじゃなくて恵先生だろ。一之瀬」

と恵ちゃんと呼ばれた女教師は一之瀬の軽口を手元にあった教科書の角で頭部にチョップを食らわし嗜める。


白海 恵

白海学園の体育教師でこの学園の理事長、白海桜の妹である。

性格は教師とは思えないような乱暴で大雑把な性格

見た目は美人でスタイル抜群だが性格が残念過ぎて教師という雰囲気が無い。

その大雑把な性格上なのかいまだに独身、彼氏なしの34歳

もうすぐ35歳になりアラフォーの仲間入りすると悩み、その前に男を捕まえなければと日々奮闘している。

「いたっ…教科書の角は痛いよ。恵ちゃん」

「恵先生だ」

――ドッともう一度一之瀬の頭部に教科書の角でチョップを食らわした。

「のおおおおおおぉぉぉ!!!!」

と頭を抱え痛みで床を転げまわる一之瀬

「ったく何度言ったらわかるんだか…」

「あ、あの…」

と床を転げまわる生徒に嘆息する恵におずおずと声をかける女子生徒


それに気づき恵は呼んだ女子生徒に向き直る。

「あぁすまない。このバカは気にしなくていい。」

「あ、はい」

「おいっ!」

(はいってなんだよ!初対面の相手にバカって思われてるってことか?泣くぞ?っていうか今痛くて泣いてるけど!!)

転げまわる一之瀬を他所にして恵は女子生徒に話しかける。

「で?えっと…お前名前は確か…」

「2-Bの夜霧琴美です」

と恵が名前を思い出そうとする前に夜霧琴美と名乗る女子生徒は答えた。

「そうか。でどうした?夜霧」

「えっと…言われたまま職員室まで来たんですがこれから何をするんですか?白海先生」

夜霧は何故自分がここに呼び出されたのかが分かっていなかった。

ここの生徒ならこれから閉門時刻を過ぎると反省文と教師からの指導(説教)があると分かっているはずだが夜霧はなにをするのかされるのかを全く知らないという顔をしていた。

恵は夜霧に質問の回答をする前にあることを訂正させた。

「白海先生はやめてくれ。理事長の姉と間違われるから恵先生でいい。」

「あ、はい。わかりました。」

恵は姉である理事長白海明美と同じ白海と呼ばれるのを嫌がっている。

恵曰くどっちがどっちだかわからん。紛らわしい。とのことらしい。


と訂正を終え恵は夜霧に質問をしていく。

「あぁそういやお前転校してきたばかりだったな」

「はい」

(転校してきたばかりか…でも閉門時間くらい担任から教えてもらって知っていてもおかしくないと思うが?)

一之瀬が考え事をしていると次々と恵は夜霧に質問していく。

「質問の答えだがこれからお前と一之瀬に説教をするために呼んだんだ。」

恵の出した回答はシンプルなものだった。

それでも夜霧は何故と言いたげに首を傾げる。

が次に口を開いたのは恵だった。

「で私も質問なんだが、なんでこの時間までこんな男と一緒にいたんだ?」

「おい!こんな男ってなんだよ!あんた本当に教師か!」

ひどい扱いを受けた一之瀬は床に転がりながらも意見するが無視された。

「旧校舎でたまたま会ったんです。」

「旧校舎?なんだ?あんな人のいないところにいやらしいことでもしてたのか?」

「女子に何聞いてんの!あんた本当に教師か!?てか女か!?」

「うるさいっ」

「でぶっ!」

――ブンと教科書が投げられ一之瀬の額に教科書の角がヒットする。

「いえ。本当にたまたま旧校舎で会っただけの初対面です。そしたら校門閉まるからって手引かれて走らされただけです。」

「そうか。では何故閉門時間まで学校にいた?」

「閉門時間?」

キョトンとする夜霧

それを見て恵は首も傾け

「夜霧お前もしかして、閉門時間は知らなかったのか?」

「はい」

「担任からは聞かされていなかったのか?」

「なにも」

「そうか。わかった。はぁ~…」

恵は夜霧に淡々と質問し短い回答を数回受けると頭を抱え溜息を吐く。


(なるほど…それならあの時間になっても鞄を持たずフラフラしていたか)

と赤くなった額を押さえながらやっと額の痛みが引いてきた一之瀬はよろよろと立ち上がり夜霧が学校にいた訳に納得した。

だがまだ疑問が一つある。

「なんで旧校舎なんかにいたんだ?」

旧校舎は基本的に倉庫として使われていることぐらいしかない。特に見所がある場所でもない。

「あ、それは最初は旧校舎の場所を確認して帰ろうって思ってたんだけどピアノの音が聞こえたからちょっと気になって中に入ったの」

「え?ピアノ聴いてたの?」

「うん。そうだけど?」

「マジか…」

(あんな途中で止まってばかりのピアノを聴かれたのか…)

一之瀬は少し恥ずかしくなり頭を抱えた。


もう一方で頭を抱えていた恵は顔を上げ、夜霧と呼んだ。

「事情は分かった。ついでにこの馬鹿(一之瀬)の事情も大体は察しがついた。まぁ本来なら反省文とお説教をするところなんだが今回は教師陣側にも責任がある。お前のとこの担任には私からあとでちゃーんと言っておく。だから今日のところは帰っても良いぞ。」

と恵は夜霧に無罪放免を言い渡した。

「あ、ありがとうございます」

夜霧は恵に頭を下げる。が

「今後は下校時間は18時半だ。覚えておけよ。」

と恵は夜霧に釘を刺した。

「わかりました。」

「じゃあ帰っていいぞ。気をつけてな。」

「はい。ありがとうございました。」

もう一度夜霧は恵に頭を下げ職員室のドアへ向かう。


それに倣って一之瀬も恵に一礼し夜霧の後についていこうとする。

がしかし恵に首の襟をがっしりと掴まれてしまった。

「一之瀬お前はどこへ行く?」

「え?どこって俺も帰るんですよ~」

一之瀬は今日一番の笑みで恵に返答する。

「なぜ?」

恵も素敵な笑みを浮かべ一之瀬に理由を求める。

「え?だってあの夜霧って子が無罪なら一緒にいた俺も無罪じゃないですか?だから」

「だから?なんだ?」

「俺も一緒に帰ります。」

「……ニッコリ」

恵は一之瀬の言い訳を聞きそのまま笑みを浮かべていた。

恵みの後ろには黒々とした気が徐々に膨らんでいる。

一之瀬は頬を引き攣らせながら聞いてみた。

「だ、ダメですか?」

「だーめ♡」

「…ですよね…」

逆らったら血を見ることになりそうだったので一之瀬は早々に抵抗するのを諦めた。

――失礼しました―と小声ながらも夜霧の退出する音を耳にしながらもこの後一之瀬は1時間ほど恵の説教を食らった。

(……勘弁してくれ…)


更新は少し遅めです。

日本語って難しい泣

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