お菓子の家 12
生中継ならぬ生投稿
「うをぉ」
いつも礼儀正しさを心掛けているウェーバーが野太い声を上げたのも無理からぬことである。
仕事を終え従業員の出入り口から出たところ、それは存在した。最初は粗大ゴミかと思った。しかし、なんとそれは動いた。
「ウェーバーさぁーん」
「ジェシー君?!」
路上に蹲っていたのはお世話になっているお嬢様に仕える執事見習いだった。それなりの容姿の為、女に待ち伏せされたことはあるが、男に待ち伏せされたのは人生初めてである。
「一体、どうしたのですか?」
「俺、俺……」
ジェシーはくずくず言うばかりで話し出そうとしない。明らかに頬を殴られた跡がある泣き出しそうな少年と自分に通行人が胡乱気な眼差しを向ける。しかもこのままここにいれば、他の従業員に目撃される恐れがある。
「取り合えず、場所を変えましょうか」
少年がなかなか解放してくれなかったで、時間の迫っていたウェーバーはそのままアサミの元へ向かった。見張りの男は明らかにわけありの少年とウェーバーをすんなり通した。かかわり合いになりたくなかったのだろう。有難いが、仕事して欲しい気持ちもあり、ウェーバーは複雑だった。
うじうじしていたジェシーだが、部屋に閉じ込められ鎖で繋がれた少女を見て涙が引っ込んだらしい。
「ウェーバーさん、まさかそう言う趣味?」
「違います」
即答したが、ジェシーは完全に勘違いしたらしい。
「いやー、レアード侯爵も大概だと思ったけど、ウェーバーさんもすげーっすね」
レアード侯爵とは、既に処刑されたが、領内の全ての娘に手を付けたと言われている性豪である。切実に同列に扱われたくない。
余談だが、そんな親から生まれたのは、婚約者のことを言われただけで恥じらう初心過ぎる娘である。親子の神秘である。
「これはウェーバーの趣味やなか」
アサミは助け船を出してくれた。
「オーナーの趣味たい」
「あー、オーナーさんの」
その説明では誤解があると思ったが、要らぬ疑いの晴れたウェーバーは黙っていた。
「で、あんだ何なん?」
「彼はジェシー君です。レアード……じゃなかった、チェンバレン伯爵家で働いてます」
「こげん子が? 子どもを働かせるなんて最低な貴族やな」
「何も知らないくせに、お嬢のことを悪く言うな!」
ジェシーは捲し立てた。
魔法を持って生まれたせいで、父親にも捨てられ、住んでいた村の人間に爪弾きにされたこと。
そんな自分をお嬢が必要だと言ってくれたこと。
苦労して冷却符を開発し、そのお金で学校を作ったこと。
そこで魔法が使える同じ境遇の子供たちを集め、就職の世話までしてくれたこと。
そして……処刑される時に自分たちに害が及ばないように配慮してくれたこと。
「子供を働かせることを残酷だと言う人もいますけどね。働かざる者食うべからずです。私もこの時分は働いてました。貴族の家で働くジェシー君の境遇は良いほうですよ」
一応ウェーバーもフォローをした。
孤児院育ちのせいか、アサミの常識はズレている部分が多い。店のために不利益を被っている自分の立場もあり、余計に気に障ったのかもしれない。




