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悪役令嬢は運命の轍を踏む~死亡フラグが回避できない~  作者: アストロ
第四章 死亡フラグが回避できない
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王子兄弟の捜査

平成が終わる前は絶望的だけど、取り敢えずGW中は頑張って更新します。


おにゃのこが尋問されてるなんて胸糞悪い話は早く終わらせるに限る。

その後、弟の主導でアレクサンドラの茶会に出席していたという何人かの娘に話を聞いた。


だいたいあの女が毒を飲んだ状況がわかってきた。

あの女が口にしたのは、スコーンやタルトにケーキ、それに茶。

茶は、最終的にはそれぞれ飲み比べたらしいが、最初は招待客のドレスの色に合わせてそれぞれ別のものが用意されたらしい。


菓子類はスタンドに載っていたので誰が口をつけるかわからない。

あの女に確実に毒をもろうとするなら茶以外無いだろう。


ところが女共は、あの女が倒れたと言うと、「持病をお持ちですか?」「彼女のお母様も短命でしたものね」と全く見当違いの発言をする者もいた。


その中で侯爵令嬢だとか言う女だけは違った。


「そうですか。やはりあのお茶は何か入っていたのですね」


癖なのか、細い指がくるくると艶やかな黒髪を弄ぶ。


「入っているとして、どうしてお茶だと?」


茶以外無いだろうにわざわざ弟は尋ねる。


「彼女は私は右隣に座っていました。

一口飲んだ後、他の出席者の気を逸らせて、彼女がカップの中身を地面に捨てたのに気づきました。

私が彼女と同じお茶を飲みたいとカマをかけてみたら、プリシラは動揺していました。

それで、何か変わったお茶だったのだと思いました」


毒に気づいたかは知らぬが、そのお茶には苦味があったはずだ。

ゲンセニウム・エレガンスは毒性が非常に強い。一杯飲み干していたら、幾ら弟の護符とは言え効果は無かっただろう。


「その時黙っていたのは何故だ?」


この娘もわからんが、あの女もわからん。

私だったらその場で抗議する。手も出すし魔法も出す。酷い侮辱を受けたと、正式な謝罪を受けるまで交流を絶つだろう。


「彼女は事を荒立てたく無かったから誰にも気づかれないように茶を捨てようとしたのです。

彼女は犯罪者の娘、弱い立場なのです。一方でプリシラの母親は社交界で発言力を持っています。

しかも、周りにいる人間は彼女と面識がなく、プリシラと付き合いがある人間たちばかりでした。

正面からやり合って勝てないと判断し、受け流そうとしたのでしょう。

私は彼女の意を汲むことにしたのです」


そう言うものなのか。

理解できないのは、国内に私より立場が上の人間がいないせいだろうか。


「そう言うあなたはリズベスに随分同情的ですね」


弟の質問は変わらず嫌らしい。


「以前、プリシラの誕生日に私の親戚が呼ばれました。

容姿も可愛らしい子で、一人だけ白いドレスを着て行ったので目立ったのでしょう。

以後、その子は辺境伯の催しものに呼ばれず、陰口を叩かれ、公の場では陰湿な嫌がらせを受けたようです。


プリシラはその子と私が親しくしていることを知りませんので、私とも普通の付き合いがありました。

しかし私はプリシラに良い感情を持っていません。

私はその子に彼女を重ね合わせていたのかもしれません」


表面上は仲良くお茶を飲んでいても、笑顔の裏には色々あるようだ。

女とは恐ろしいものだな。


「質問を変えます。

リズベスが今回の茶会に招待されているのは知っていましたか?」

「ええ。前々回の茶会で伺っていました。一月ほど前だったかしら」

「母が許可を出したのは数日前なのに?」

「王妃殿下の反対を受けていることも、アレクサンドラ様から聞いていました。どうしても彼女の話を聞きたいのだと。

……その日、ホスト役の当番があたる予定だったプリシラは当然不機嫌になっていましたが」


予定とは言え、一月も前から知っていたなら毒を準備する時間は十分あったのだろう。

……主催のアレクサンドラ以外にも。


「そう言えば、あなたをどこかで拝見したような気がしていたのですが。

今ようやく思い出しました。以前母が持ってきた僕の新しい婚約者候補の中にあなたの肖像画がありました」


白々しい。恐らく弟の婚約者の座を狙っているのか探りを入れるつもりだろう。


「私が殿下の婚約者なんて恐れ多いことでございます」

「一瞬で振られてしまいました」


苦笑いする弟に、侯爵令嬢は恐縮して頭を下げる。


「お許しください。殿下は大変魅力的でいらっしゃいます。

王太子様に似てお美しく、将来も楽しみで、御年より大人びていらっしゃいますし」


いい気味だとは思うが、弟は性格に難があるものの、傍から見て即答されるほど魅力が無いとは思えぬ。

少なくとも、王族である弟より条件の良い婚約者がいるだろうか?


「でもあなたの婚約者には及ばないようだ。年下ですしね」


その口ぶりでは既にこの女の婚約者のことも調べているだろう。


「私は魔力が少ない身で御座います。

そのせいで長らく婚約者が決まりませんでした。

私の魅力は侯爵家を手に入れられると言うだけです」


貴族にも魔力の無い人間が生まれるので絶対とは言わないが、魔力の量や属性は遺伝する確率が高い。

魔力の有無は容姿や血筋等と同じように結婚を決める重要な要素だ。子を孕む女ならば余計に。


「そんなことないでしょう。母もあなたの美しい黒髪を褒めていましたよ。

今日お話しして弱者を思いやれる、なかなか機知に富んだ方だとわかりましたし」

「過分なお言葉をいただき、身に余ります。

しかし、殿下は私の立場にそれ程、魅力を感じませんでしょう?

私の婚約者は爵位を持っていません。

入り婿ですので私を粗略に扱えないでしょう。私はうちで大きい顔ができます」


恋や愛で結ばれる者もいれば、利害関係で夫婦になる者もいる。

まだうら若い娘なのにと思わないでもないが、この女のような打算的な考え方は珍しくない。


「あなたはご自分に自信が無いようだがあなたは十分魅力的だ。

あなたと出会ったのがあなたの婚約者が決まった後で残念です。

あなたとなら上手くやれたかもしれない」

「御冗談を。それはこちらの台詞です。

たかだか貴族の子女のいざこざに王族が二人も出向かれることなど滅多にありません」


侯爵令嬢は微笑む。唇に僅かな羨望を滲ませて。


「殿下は彼女がそれ程大切なのですね」



         ‡   ‡   ‡



「首尾はどうだ?」


夕食後、弟に聞けば良いのに父が呼び止めたのは私だった。


「順調と言えるでしょう。明日、あの女に毒をもったとおぼしき令嬢の家を訪ねるつもりでいます」


令嬢は王宮からの呼び出しにも応じず、屋敷にこもっていると言う。こちらの意図を勘づかれたのだろう。派手に動き回ったつけだ。


明日などと言わず、すぐにでも踏み込め、そんな悠長にしていたら証拠を隠滅されるのではないか、と言ったら、既に見張りをつけて監視済みだと言う。


ーープレッシャーをかけたら、尻尾を出すかもしれませんしね


うっそりと嗤う弟に心底震えた。


「何故お止めにならないのです?」


犯人探しなど、王子がすることではない。

父がそんなくだらぬことはするなと一喝すれば……それでも弟は動くだろうが、少なくとも私が付き合わされることは無かったはずだ。


「そちの勉強になると思ったのだ」

「私の?」

「大軍を動かし国を守るのも王の仕事ならば、貴族同士の諍いを収めるのも王の仕事だ。

正直、くだらぬしつまらんが」

「それなら止めればよろしいのに」


王の仕事は多忙だ。些事で煩わされぬよう、こちらで仕事を選別するくらいの権力はあるはず。


「馬車が国、御者が王なら、馬は貴族共だ。放って置けばてんでばらばらな方向に行きかねん。奴等を仲裁し秩序を保つことで、自分の行きたい方を向かせることができる。恩や信頼と言う利害関係はその手綱になる」

「それが私に足りない部分と言うことですね」


父は昨日、アレクサンドラが足りない部分を補うと言っていた。

確かに私は何とか男爵がああだとか、どこどこの夫人がどうだとか言う話題に破片も興味が湧かない。

しかし。


「貴族間の関係を改善しようとしているのはわかりますが、正直効果があるとは思えません。

努力は認めますが」


あの女と辺境伯の娘の仲を取り持とうとした結果がこの毒殺騒ぎ。失敗する内にいずれその力を身につけるやもしれぬが、まだ経験不足のような気がする。


「そちがエルガーの娘にどのような評価をしておるか知らぬが、努力もせぬそちよりはマシであろう」


正論にぐうの音も出なかった。

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