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月日は止まらない

アイリスNEOファンタジー大賞へ応募しました。

締め切りは1月19日です。


新たな期限を設定しました。

追い詰められないと書かないタイプなので。


(11月22日〆切のベリーズ文庫&マカロン文庫を選択しないあたり、自分への甘さが露呈してますが)


よろしければ応援お願いします。

彩りの豊かな花々も見応えがあるが緑も濃い初夏の庭園。隣に座り、一緒に景色を楽しんでいるのは白い顎髭のご老人だ。


王宮の図書館での作業を終えた私は、庭園を一望できるテラスでお茶をしていた。そこへ同席を求めて来たのは、知り合いのトルーマン教授。


冷蔵庫もどきは氷箱と呼ばれ、モニターには好評だったが、値段が高すぎて買えないと言われた。

何しろ金貨六枚。この国では金貨一枚あれば一か月くらい余裕で生活できるのだが、生活費の半年分。


だからって値段は下がらない。家具職人の手作業による魔法陣加工は言うに及ばず、中の金属も表面に使ってある樹も高価。


悩んだ結果、毎月保守点検(メンテナンス)料として銀貨二枚もらうことにした。


分割払いとはちょっと違う。

製品の保証期間である三年間は毎月、職員が点検と魔玉の交換に伺う。

だいたい三年で元が取れる金額に設定した。その後は半額で同様の保守契約を請け負うか、製品の交換を勧める。

前世でも本体価格は十万円くらいするスマホが、月々の通信料金に上乗せすることで購入できていたことを思い出す。


氷箱はまだ何年も使ってみたわけじゃないので、今後どうなるかわからない。

知らないところで粗悪品の魔玉使われて暴発しても困る。

監視の意味合いもあり、氷箱の転売や、魔玉の不正利用も防げる。


何より、雇用も生めて一石二鳥。学校を卒業した子も数人雇った。

辺境の村にメンテナンスに行くついでに手紙なんかを引き受けて小遣い稼ぎしているらしい。商魂たくましい。

私としても、この街道に盗賊がいるらしい、この村は不正に徴税をされている、等の情報もくれるので大変ありがたい。


と、話がずれた。


月々とか、数年単位で支払う、という売買契約が可能か、契約を相手に守らせるにはどうしたら良いか、この国の契約や法律に疎い私はわからなかった。


そこで相談に乗ってくれ知恵を貸してくれたのがこのおじいちゃんだ。


商家の家の出で、由緒ある学院の法律の専門家として教鞭をとっているスペシャリストだ。


紹介してくれた王子様の伝手半端ない。

留学を終えてから、身分の如何に関わらず良い提言には耳を傾けていると評判らしく、人がどんどん集まって来るようだ。


「リズベス様、先日仰っていた“選挙”で国の政治家を決めるやり方、大変興味深いと思います」


話のついでに前世の民主主義の仕組みを説明したら、本人が平民の出と言うこともあり、興味を持ったらしい。機会を見つけて声をかけてくれる。


「選ばれたものが民衆の意に沿わない(まつりごと)をすれば、次の選挙で選ばれない。

大変合理的だと思います。

しかし、それでは国民の過半数のためだけの政治になりませんか? 少数派の国民の意見は吸い上げられないのではありませんか?」


さすが専門家。その疑問は多数決の原理で動く民主主義が持つ宿命だ。


「彼らはどうやって拒否の意思を表明するのです?

政治が行われるという議会に押し入るのですか?

問題が起こる度に武力で解決しようとしては、軍事政権が誕生しかねません」

「軍事によるクーデターは有効だけど、あくまでも最終手段ね」


例えば、民主主義で選ばれたはずの独裁者が、勝手に仕組みを変えてずっと最高地位に就くこともある。そういう場合は平和的な解決は望めない。クーデターを起こして引きずり下ろす方が手っ取り早い。


「方法は色々あるけど、デモ……大人数でプラカードや団幕を持って行進したり、王宮を取り囲んだり、主要な交通機関に座り込んだり」

「武器を持たないのですか? 抵抗したりも?」

「うん。非暴力非服従」


インドの偉大なる教えを口にしたら、目を丸くされた。


「それは、悪いですが無視されるか、鎮圧されるだけでは?」

「ええ、今のままならね。

でも国民が文字を読めるようになったらどうかしら。

彼らの主張や、無抵抗な市民相手に武力で鎮圧したなんて伝える紙面が配られれば、憤る市民も増えるでしょう。

彼らも参加してもっと大きな動きになれば、国民の生活も脅かされ、不満もたまる。

次の選挙に影響するから政府としても早急に手を打たなければならない」


民主主義には国民の教育が必要だ。甘い言葉に騙されず、国を任せられる政治家を見抜ける国民でなければならない。

まあ、識字率百%の日本が良い政治家を選べてるとは口が裂けても言えないんだけど。


「そのためには国民への教育と、デモをできる権利を保障しておかなくちゃならないけどね」


団体団結権とか団体交渉権とか言うやつだ。いやそれは、労働基準法だったか。


「ほほう」


トルーマン教授は感心したように顎の髭を撫でる。


「リズベス様とお話していると刺激が多くて愉しいです」

「そう言ってもらえて嬉しい」


貴族の威光が廃れ、平民が力を持ちつつある今、いつまでも王政は続かない。

時間はかかるだろうけど、いつかはこの国も変わっていく。


イギリスみたいに王室を保ったまま近代化する例もある。

革命と言う暴力的な手段ではなく、平和的に。


この前世の知識が役に立つかわからないけど。

私の知っている人たちが誰も傷つかずに済めば良いな。


思いを巡らせていると、背後から椅子ごと抱きしめられた。


「婚約者ほっぽってこんなところで何しているの?」


殿下の息がうなじにかかり、固まった。顔が暑いので手加減して欲しい。

留学から帰ってから、スキンシップがやたら多くなった気がする。


「おやおや、私としたことが若いお二人の邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした」


教授が生温かい目で別れを告げる。

逃げないで助けてほしい。

嫌ではないんだけど、もだもだして衝動的に穴に埋まりたくなる。


「そう言えばリズベス、襟の高いドレスばかりだね。何で?」


二人っきりになると殿下はようやく手を緩め、隣に座ってくれた。しかし髪を弄る手は止めない。


「えっと、恥ずかしいと言うか何と言うか」


日本人的感覚と言うか。

カナンの人は胸がほとんど出てるドレスとか平気で着る。

胸より足を出すことがタブーのカナンの人からすれば『日本の女子高生は下着が出る短いスカートはいてるくせに』って言われるだろうけど。


「殿下こそ、どんなに暑くても長袖のままですね。何故です?」


悪いとは言わないけど。今日も袖口にまで刺繍が入ったキラキラしい素敵なお召し物だけど。王子様っぽくてカッコイイけど。


はっ、もしや世間の王子のイメージを損なわないため?


「あれ、言ってなかったっけ」


殿下は腕を捲ってみせた。何やら薄い輪のようなものが描いてある。


「誓約の輪だよ。誓約を破れば輪が締まって、そこから先が腐り落ちる」

「なななんてものを」


あっさり言われたけど、とんでもないものだ。誰だよ、一国の王子にこんな野蛮な術かけさせたの。


「昔は刑罰で使われたりしたんだ。例えば首に輪をつけ、もう二度と盗みはしませんって誓わせたり」


なるほど、受刑者が誓いを破ったら首から先が落ちるわけか。怖いわ。


「そんな効力抜群なものがあるなら、昔と言わず今も使ってるのではないですか?」

「効果がそれ程でもないんだよねぇ。この輪って付けてる人間の気持ち次第なところあるから。


例えば、食べ物を盗まなければ飢え死にするから止むを得ず、って時とか、たまたま自分の荷物と間違えて相手の荷物を盗っちゃった時とか。悪気はなかったんだから、手は尽くしたんだから仕方ないって開き直っちゃえば輪は締まらない。

良心の呵責と言うか罪悪感に応じて輪の効力は変わるみたい」


しかもこの術は、かかろうとする人が心から願ったり納得したりする誓約でないと失敗してしまうらしい。


そういうわけで、術の難しさに比べて効果が薄いこの術は次第に刑罰に使われなくなり、国同士の決め事や主君への忠誠の誓いと言った儀礼的なものから、恋人たちの愛の誓いなんてものにまで使われることもあるらしい。

傍迷惑な愛だけど、江戸時代に本気で指切りした遊女みたいな感覚だろう。


「一応国家元首のスペアだし、弱味になるでしょ。あんまり知られないように普段は隠してる」


誓約を逆手にとられて脅されることも考えられる。

腕一本と引き換えにこっちの要求を叶えろって言われたら大変だ。王子ならたいていのことは出来そうだし。


「殿下は何を誓約していらっしゃるんですか?」

「……なんか改めて言いづらいな」


殿下は目を逸らす。聞くの不味かったかなと迷っていたら、髪をやんわり引かれ、殿下に近づいた耳元に囁かれた。


「君を守りたいって」

「お気持ちは有難いけど、解いてください、今すぐ解いてください!」


突発的に運命の出会いを果たして、婚約破棄でもしたくなったらどうするんだ。

腕を案じて必死で言う私に、殿下は呆れ顔をする。


「解く方法はあるけど、そう簡単にはいかないよ」


死ぬとか、切り落とすとか、さらに強い誓約で術を上書きするとか、恐ろしい解呪方法を例示された。

刑罰に使われてたくらいだから、一生ものの術なのだろう。


「どうしてそんなもの」


父に無理強いされでもしたのか。それとも私がしらないだけで婚約にはそう言うしきたりや決まりがあるのだろうか。

形の良い口から語られたのは予想外の事実だった。


「君の御母上に亡くなる前に頼まれたんだ。娘を守ってくださいって」

「酷い。殿下になんてことを……」


自分の死期が近いのを良いことに、幼かった殿下に迫ったのか。

だとしたら私は、大好きだった母を軽蔑する。


「違うよ。僕が自発的にやったんだ。

君の御母上も僕がそこまでやるなんて思ってなかっただろう」

「どうしてそこまで……」


胸が苦しい。殿下は優しすぎる。もらってばかりで何も返せない。


「そんな顔しないで。僕は確かに浅慮だったけど、後悔はしてないよ」


頬にキスをされた。

誤魔化す意図があるのはわかっていても、自分で真っ赤になったのがわかる。


「だからリズベス、僕の腕を失いたくなかったら、自分の身を大切にしてね」


自分の身は自分で守れと言う言葉はあるが、こんな理不尽なものだっだろうか。最早脅しである。


絶対破るまい、と私は猛烈に頷いた。











しかしこの日のうちに、約束は破られることになる。

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