女のいじめはえげつない
しんどい場面とか重い話とかって、書く速度も遅くなるよね。
何が言いたいかって、もう11月だって言う。
妹よ、土下座の準備はできている。
収穫祭までの日々を、私は忙しなく過ごしていた。
魔法陣製品の製品検査・販売促進と新規製品の会議。
いつも通りの孤児院への訪問や結婚祝い金の受け渡し。
出店やら劇やらで収穫祭を運営するスタッフと打ち合わせ。
麗しい顔なのにレッスンだと鬼になる団長やグレアムとの稽古。
辞退したはずなのに、他に適任がいないといつの間にか押し切られていた。
出番は後半だけで、確かに少ないが、妖精と言う役どころだけあって台詞の代わりに踊りや歌が多い。
「何、また練習? 乗り気じゃないんだろ。テキトーにやっときゃいいんだよ」
「でもやるからには成功させたいし」
「真面目だなー」
リーパーは次の日から何事もなかったかのように付きまとい、あれこれ口を出し、あれこれつまみ食いした。
そんな日々だが今日の忙しさは格別だ。
扉の前で深呼吸。
向こう側、サンルームに似た広い窓の部屋には、私と同年代の貴族令嬢たちがいる。
この世界で、女性の力とは魔法や知識量と言った個人の能力ではなく(あるには越したことないが)、社交の力である。
成人するまで猶予はあるし、社交界デビューはまだ先だと思っていたら、他の貴族の子女はとっくに交流しているものらしい。
普通は身内の女性、多くは母親の紹介で親戚の集まりや親同士の交流に顔を出し、プレ・デビューを果たす。
母親がいない場合は親戚が世話をやいてくれるものだが、好き者と評判の父の屋敷に女の親戚は寄り付かなかった。
しかし最近になってやっと、大叔母といった遠縁の親戚から招待状が届くようになった。
父の評判は、最近は領内の若い女性をつまみ食いしてないこともあり、王都の娼館で目撃されたことを差し引いても若干上がったらしい。
また、身内を処断したことで恐れられ、逆にご機嫌伺いや恩を売っておこうという思惑もあるのではないだろうか。
正直、話をするなら使用人や学校の子どもたちの方が気楽だが、嫌だからといって避けてばかりいられない。
私の年齢を、王子の婚約者と言う立場を考えると遅すぎるくらいだ。
そうして参加した集まりで言われた。
「レアード家はお茶会を開きませんの?」
女主人が長く不在で持て成しができないと断ったが、まさか侯爵家に不足があるはずがない、レアード家に行ったことがない、王都から近いし楽しみだとごり押しされ、茶会を開くことになってしまった。
特に親しくもなく、どちらかと言うと余所余所しい態度の彼女たちが家に来たがる魂胆はわかっている。難癖をつけて馬鹿にするつもりだ。
ただの侯爵令嬢である私が面識の無い子たちからここまで敵視される理由。
それは第二王子の婚約者だから。
だいたい、妬まれない方がおかしい。
殿下にはもちろん高貴な血筋がばっちり流れているし、人当たりも良く、優秀であることがわかっている。
おまけに外国へ留学し太いパイプを建設中。
魔法陣製品は売れているが、本人は金に執着せず無欲。
開発者と言う名誉も自分の功績も謙遜し、いつも婚約者の私を立ててくれている。
申し訳ないので利益の何割かをと提案したら王家の人間なのではした金は要らない、それより領のために役立ててほしいとまで言われた。
領を富ませることが確実な将来性に、親は婿に来てほしいと願い。
優しく気遣いもできて自慢できる美形に、娘は結婚相手にと憧れ。
しかも現婚約者は侯爵家であるが、父親は宮中で要職についておらず、吹けば飛ぶような立場。
人品に問題ありと蹴落とせば、上手くいけば自分が成り代われるかもしれない。
サンドバックにでもなった気分だ。
それでも王子の横に立とうと願うなら。
伴侶でなくても友人としてこれからも傍にいたいと望むなら。
この程度のこと乗り越えなければ。
「庭園の花かしら。貧乏くさい」
扉の向こうから聞こえてきた悪口。
それは使用人のみんなが飾ってくれた花だ。
バラの刺で指を傷つけてしまった子もいるのに、綺麗に咲いたものだけを選んで摘んでくれた。
善意だから感謝されるわけでも無し、努力が全て報われるわけでもない。
でも、私のためにしてくれた優しい心を踏みにじるのだけは我慢ならない。
「本当にお金に困ってらっしゃるのね」
「ご自分で卑しい商売していると言う話もあるし」
「挨拶も定文通りでつまんない」
「先日初めてお会いしたけど、髪型もドレスもアクセサリーも普通で冴えないわね」
「あれがロイ殿下の婚約者なんて!」
くすくすと嫌な笑い声が聞こえる。
すくむ背を、回れ右したくなる足を、歯を食いしばって堪える。
負けるな!
悪意あるものの声に
自分を貶める者の声に。
どんな凄い選手でも、素敵なアイドルでも、全ての人に好かれているわけじゃない。嫌いだと言う人がいる。
それなのに、取るに足らない自分が誰からも好かれるわけがない。
そんな自分のこと嫌いな人間とも付き合っていかなきゃならない。
私は殿下の力になりたいんだ。
嫌なことから逃げてばかりいるような奴が、誰かの力になれるものか。
殿下は王位継承者、政治の世界とは無縁ではいられないだろう。
この国の政治は、殆ど貴族と言う狭い社会の中で決められている。
実力以上に縁戚やコネ、人間関係と切っても切り離せない。
人間は社会的生物である。古代の人の言葉だ。
その通りだと思う。
人は一人では生きていけない。人は人と関わってしかいくしかない。
逃げたって始まらない。
ドアマンが気遣わし気に私を見つめている。
大丈夫。私のことを助けてくれる人たちがいる。支えてくれる人たちがいる。好きだと言ってくれる人たちがいる。
背筋を伸ばして、顎を上げる。
顔に笑みを張り付け、戦地に向かって足を踏み出した。
「ようこそ、皆さま。お越しくださって嬉しいわ」
「お招きくださりありがとう」
扇で口元を隠しながら返事をしたのは、シナモンのような淡くカールした髪、錆色の気の強そうな瞳の令嬢。
侯爵と実質的には同等の地位。辺境伯の令嬢、プリシラ。
領地は南の海に面して、波が穏やかな港も有り交易も盛んで実りも豊か。
本人と母親は領地に行かず実質王都で生活しているらしい。
言うに及ばず、殿下の有力な婚約者候補の一人だった。
私になったのは末の息子を王都から離すのを嫌がった王妃がごねたからだと噂がある。
噂はともかく、領主は年に何回か領地へ行かなくてはならない。
隣国への留学も反対していたらしいし、真実には近いだろう。
理由は、それだけではない。
第二の王位継承権を持つ彼が、王宮からの目が届かない、裕福でまた、屈強な軍を持つ辺境伯となっては、国が乱れる元になる。
本人はそれを知ってか知らずか、何かと突っかかってくる。
この中で一番身分も高いし、イジメのリーダーと目して良いだろう。
「初めて来たけど、素敵なお屋敷ね。室内を植物で飾るなんて変わった趣ですわね。なんと言うか……」
「まあ、お目が高い!」
言葉を遮って声を上げる。
「それは、マリス伯爵夫人の発案ですわ。さすがはプリシラ様、流行をよくご存じなのね」
マリス伯爵夫人とは、センスが良く王妃の相談役で王宮の催し物も手掛けるアイデアマン、じゃなかったアイデアウーマン。
この前図書館に行ったついでに相談させてもらったのは事実だし、流行を作る貴婦人の催し物。これで貶し辛くなったはずだ。
簡単に挨拶を終え、茶菓子を持ってくるよう合図を出す。
文句をつけようと待ち構えているであろう彼女たちから不思議と声が上がらない。給仕に目を奪われたからだ。
美しいと言うのはそれだけで人を黙らせる効果ある。
グレアムは役者だけあって顔の造詣が整ってるし、身のこなしが綺麗だ。
本人は貴族の令嬢も、自分の顔を利用されるのも嫌らしい。
それを、役作りにもなる、どうか私を助けてほしい、と拝み込んで引き受けてもらった。
「どうぞ、お嬢様方」
恭しく皿を差し出す美貌の給仕を、お嬢様方は頬を染めて眺めている。
皿には蜂蜜とチョコレートのかかったワッフル。そしてアイスクリームがのせられている。
「何かしら、これ」
「氷を使った菓子です。早く食べたほうが良いですよ。溶けてしまいますから」
恐る恐るナイフでワッフルを切り分け、アイスをのせて口に運ぶ。
「美味しい!」
思わずと言った様で声を上げた令嬢の一人が慌てて周囲を見回す。しかしどの令嬢も似たり寄ったりの反応だ。
そうだろうそうだろう。ふわっふわの暖かワッフルに冷たいアイスクリーム。女の子は甘いものが好きだし、このコンビに間違いはない。
「奇怪な食べ物ね。初めて見たわ」
プリシラが悔しさを滲ませて呟く。
「近所のケーキ屋の新商品ですわ。王都に本店がある。店の名前は……」
ウェーバーの勤める店の名前を告げると、ややふくよかな令嬢が驚きの声を上げた。
「あの人気店の新商品ですって!」
「ええ、伝手があって。特別に今日のお茶会に腕を振るってもらいました」
ワッフル、ソースのために店のパティシエを借りた。アイスクリームのレシピと引き替えだ。高くついた。
家のシェフでも作れないことはないが、こう言うのは看板が大事なのだ。
「特別な伝手ねえ。さすがご自分でも商売している人は違うわね」
「そんなにお金に困ってるの? 相談にのるわよ」
「貴族がお金儲けだなんて卑しい」
「とても真似できないわねぇ」
やっぱりここ、攻撃してくると思った。
貴族とは、地代などの先祖の遺産で働かずとも食べていける人のこと。
貴婦人と言うのは、対価をもらうような仕事はせず、家事は使用人任せ、指示だけして社交や娯楽に興じる人たちなのだ。
私は笑顔のまま方向を変える。
「ハリエット様は慈善活動に熱心だと伺いました」
「ふぇ! ええ、まあ、そうですが」
突然の飛び火に大人しそうな令嬢が怖じ怖じと返事をする。
「商売なんて仰られますけど、私の活動も慈善活動の一環です。だって収益は殆ど領民の学校の運営や結婚祝金に充てておりますもの」
金銭の対価をもらうのが卑しいのであって、働くのが卑しいわけではない。
政治や慈善活動を無償で行う、それは貴族の義務の範疇だ。
「ハリエット様の活動を貶すおつもり?」
どうしたらそうとれるんだ、と内心辟易する。
「いいえ、そんなつもりはありません。
ハリエット様のやり方も一つの方法。
孤児院に寄付したり、炊き出しも手伝っていらっしゃるとか。
私は学校を運営する支援をしておりますが、今、目の前でお腹を空かしている人の腹を満たすのは、知識でなくて炊き出しでしょう。
しかし、将来自分でパンを買うお金を得ようと思ったら知識が大切になるでしょう。
現在の支援と未来の支援。どちらも必要なことなのです」
「だからと言って、魔法陣製品の商会まで立ち上げるのはやり過ぎなのではない? 下々の者の仕事を奪うことになるわ」
ぼそぼそする反論の声のほうに視線を向ける。
「会社ができれば仕事ができます。仕事ができれば、人を雇い、賃金を支払うことになります。
それは領民たちを富ませることになる。
それに商会は将来軌道に乗れば経営権を手放すつもりです。いずれ彼らの手で全てやっていくでしょう」
「さすが、ご立派なお考え! 私たちと違うのね」
ぱちぱちとプリシラが手を叩く。
「リズベス様は政治学や経営学の教師をつけていらっしゃるとか。女らしくない学問ね」
この世界の女子教育は礼儀作法、読み書き計算、刺繍や芸術、たしなみ程度の魔法といった、要するに男の気を引くための貴婦人になるための学問と言う感じ。
男と肩を並べて社会進出、と言った学問は女が学ぶものではない。
「カナン国民ならヒルデガード殿下をご存知でしょう?」
二百年も前、王の留守中に敵国の軍から城を守り、カナンを救ったとされる王妃だ。
この国で女は確かに下等とみなされているけど、夫の死後や留守中には法的な力を振るう権利がある。
「王の妃はいざと言う時は王に代わって政を行わなければならない。
アレクサンドラ様がいらっしゃるから私の出番はないでしょうが、もしもと言うこともありますもの。
この国のためにも、学んでおいて損はないでしょう?」
国のため、とまで言われ、つっかかって来た女の子たちは鼻白んだらしい。
「忠告しておいてあげるわ。あまり賢しい女は嫌われるそうよ」
「そうそう、王子殿下も愛想を尽かして、サルバラードの元王女様と親しくなさっているようだし」
爆弾を投下したのは、父親が外交官だと言う令嬢だ。
「美男美女でお似合いよねぇ! 我が国にとっても喜ばしいわ」
黙ってしまった私を見て、プリシラも愉しそうに唇を釣り上げる。
殿下が隣国の王女と結婚なんてしたら自分たちのダメージにもなるだろうに、目の前の女が傷つく方が良いらしい。
「あらごめんなさい、ご存知だったかしら」
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先日、両国の友好を記念する舞踏会がありました。
そこでアリアのエスコートを任されました。
サルバラードが王国のままなら王女になっていた子です。
僕より年下なんだけど、ませていて、とっくに女の子って感じです。
革命の後に生まれたから苦労していると思うけど、帝王学に通じていて話が弾みました。
リズベスとも気が合うかもしれません。
―――――――――――――――――――――――――――
「ええ。殿下からお手紙で」
いただいた手紙を思い出す。
気なんか合うものか。
私は女らしくもない。みんなに助けてもらってばかりでそれほど苦労してない。
婚約者だから気を使ってくれているけど。殿下は学の無い私と話していて楽しいのだろうか。
「お手紙では他に何か仰っていたの? 例えば婚約のことなんか」
「さあ、わかりませんわ。この婚姻は王家の意向によるもの。破棄されることになっても私に拒やはありませんわ」
悲しいが私に選択権はない。
だから攻撃の矛先を向けてもらっても困る。文句があるなら王家に言ってほしい……と思うが、無理だから立場の弱い私を槍玉に上げるのだろうな。
「私は私なりのベストを尽くすだけです。それに、婚約がどうなるにせよ、侯爵の娘である私が侯爵領のために尽くすことには変わりませんもの」
私の未来がどうなろうと、やってきたことは無駄にはならないはず。
「そんなに頑張っていらっしゃるのに報われないなんて気の毒ね」
「努力は必ずしも報われるものでもないですわ。
母が亡くなった時もそうでした。
看病もしましたし、手を尽くしたつもりですが、どうしようもなかった。
元気の良い日はこの部屋でよくお茶をしていました。
ほら、このお部屋、日当たりも良いし外の景色が良く見えるでしょう?
母はちょうどこのあたりに座って、私は庭のあの木のあたりで手を振って……」
お可哀そう、と誰かが言ったので、悲し気に微笑んで見せる。
母の思い出話をするのはまだ辛いけれど。
同情も憐れみも武器にできるなら。
「プリシラ様のお母様は社交界の華と言われているんですってね」
「ええ、それが何か?」
謙遜もせず警戒を露わにするプリシラに微笑んでみせる。
「ご健在というだけでも羨ましいけど、さらにご自慢のできるお母様なんて!
王都に一緒に住んでいていらして仲も良いと伺いました。
私は母を早くに亡くして、女主人が何たるか学ばずに来てしまったの。
素敵なお母様に育ててもらったプリシラ様ならご存知でしょう?
力になってくれると嬉しいわ」
羨ましい婚約者を持つ令嬢にいちゃもんつける浅慮さより、今話題の、しかも身内を亡くしていて可哀そうな令嬢の味方になる器の大きさの方が自分の株を上げると思い込んでほしい。
その後もプリシラをほめ殺し、特別扱いして花を持たせた。
集団の敵は分断して各個撃破が基本。
先ほどは言い負かしてしまったが、相手に恥をかかせても敵をつくるだけ。
いじめのリーダーらしい彼女を味方にできるんならその方が良い。
嫌いな人間に好きになってもらおうなんて無理。でもせめて、上手く付き合っていくことはできるはず。
彼女を懐柔できたか疑問だが、帰るときは機嫌は悪くなかったと思う。
‡ ‡ ‡
一大イベントを終えた私は自室に籠ってシーツを被っていた。
「も、やーだ、やーだ。
もう疲れた。もう何もしたくない。暫くお茶会行きたくない。人間に会いたくない。この部屋から出たくない」
引きこもりの人間みたいなこと言ってる。
丸まった私の背を、とんとんと叩く者がいる。
「できることをやるんじゃなかったのか?」
「明日から本気出す」
ますますダメ人間のセリフだ。今日は頑張ったから見逃してほしい。
悪意を向けられて平気な人間はそうそういないと思う。
見極めると言った暗殺者は、今は私を底知れぬ瞳で眺めている。
「そんなに嫌なら、逃げてやろうか? お前を連れて」
「え。やだ。暗殺者と逃避行って絶対ろくでもなさそう」
「お前ね」
小突かれた。結構痛い。
「正直心惹かれるけど」
リズベス=レアードである限り、殿下の婚約者である限り、今日のような戦いは避けられない。
全て投げ出せたら楽だろう。
「でもダメ。やることがある」
父の暴力に怯える使用人たち。
魔力の制御ができない子供たち。
領主に脅かされる花嫁たち。
私の商売に関わる人たち。
何より、他国で頑張っている優しい殿下。
領民の暮らしもようやく上向いてきた。投げ出すには大事過ぎる。
「他に女を作ってる王子のためにか?」
エスコートを任されたと言うことは、関係を築きたい両国の思惑があると言うこと。
弱体化したサルバラード王家は隣国の力が必要だろうし。
カナンも隣国へ口を出す、時には兵を出す理由が得られる。
それがわからない殿下じゃないだろうに。
アリア王女、どんな人なんだろう。
私より美しくって、賢くって、殿下とも気が合って……。
「おい待て、泣くことはないだろ?」
曇った視界にリーパーがぎょっとしている。
「泣いてないもん。平気だもん。
殿下の婚約者じゃなくって友人になるって決めたもん。
愛されたいんじゃない。支えたいんだって」
私はあの子を王にするんだ。
殿下がヒロインを愛そうが、他の女に掻っ攫われようが、関係ない。
「だから何ともない。平気。全然平気。全然平気なんだから」
はあ、と大きく息をつく音。
「馬鹿だな。こんだけ尽くしてやってんだから言えば良いんだよ、愛してほしいって」
その方が可愛いと言う男は私より年上だ。アドバイスを聞き入れればいいのだろうけど。
「殿下の重荷になりたくない……」
「理屈ばっかこねて損な女。意地張ってないで素直になった方が良いぞ」
よしよしと頭を撫でてくれる。
暗殺者のくせに手つきが優しい。
「ねぇ、もし二進も三進も行かなくなったら」
殿下に愛想をつかされて追放や処刑が決まったら。
「その時は一緒に逃げてくれる?」
婚約破棄後も良い関係を続けていきたいが、可能性が無いとは言えない。
「はぁ? さっきこっぴどく断っといて」
逃げ道を確保しておこうだなんてずるいやり方だと思いつつ、シーツの隙間からじーっと見つめる。
リーパーは困ったように頭をがしがし掻いた。
「仕方ねぇな」




