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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
Take2 生存法則
99/129

Take2―40 欠点

 なぜ生きることに固執しているのか疑問であった。

 生物であればそれは当然のことではある。生きて、子孫を残すことがルビーの種に限らず、自然の摂理であり、自ら自殺に向かうなど人間かレミングくらいだろう。尤も、レミングとて移動に伴って海や川へと入水し、結果として死んでしまっているだけに過ぎないのだが。


 しかし、今のルビーはただ本能のままに動く動物とは違う。

 人化に伴い、理性と知性を獲得している。


 誰かの為に命を賭して闘う。

 勝利を得るために危険な賭けに出る。

 敵を引きつけ、仲間の勝利に導く。


 それがルビーには理解できない。


 誰かに命を賭して闘ってもらう。

 勝利を得るために危険な賭けに出てもらう。

 敵を引き付けてもらい、自分の勝利に導いてもらう。


 貝のように待ち、受け身の姿勢で勝利を得る。

 そのスタイルでルビーは生き続け、死んでいった。


「……どこだろうここ」


 逃げ回るうちに現在地すら見失ってしまっていた。


 森の中。

 その支配者は大きく分けて3匹の動物である。

 

 【薄汚い森】で性欲のままに暴れるは数多の娘を従えるブタのグレートファザー。

 【闇より深き森】で哀しみを唱えるは漆黒の腕を操舵するカラスのシャルドレーダ。

 【ただ黒き森】で孤独を演じ敵だけを待つは視界を闇に沈めるコウモリのバッター。


 役者はすでに揃っている。

 どれもが並みの能力ではない。

 ルビーが何処にいたとしても苦戦は免れないであろう。

 だが……その前にルビーを追う敵がいる。

 全ての攻撃を受け止め全ての防御を打ち破るサイのアルミュール。

 森は森だ。

 木がただ生え揃っているだけ。

 敵が潜んでいる可能性を秘めているだけ。


「……駄目だ。引き離せなかった」


 敵はよほど鎧と槍の能力に自信があるのか、隠れることなく、忍ぶことなくルビーを追いかける。

 地面を打ち鳴らしながら疾駆し、唸り声を上げる。

 おかげでルビーからはアルミュールが何処にいるのか丸わかりだが、それがかえって恐怖心を煽る。

 敵がすぐ傍にいることを如実に表しているのだから。


「……駄目なんだよ。そもそも何で僕が闘わなきゃいけないんだよ……ウッホとかミガテとかがいるじゃないか」


 トリニコはまだ良い。能力が闘いに向いていないのだから。

 それに、失った腕を再び生え揃わせてもらった恩がある。功績がある。

 もし再び四肢を捥ぐようなことがあれば頼らざるを得ない。

 生きていてもらわなければ困る。


 ホミーはどうだろうか。

 その能力は戦闘では無く索敵に向いている。

 もし生きていれば敵のいない位置を教えてもらえるかもしれない。

 やはり生存を望む。


 他の2匹。

 能力が戦闘向きであるウッホとミガテ。

 この2匹は何処にいるのだろう。

 ……いや、ウッホの所在は明らかである。

 敵チームのリーダーの隣。

 人質よりも酷い能力によって魅了され敵側へと寝返っている。

 これは一度ルビーが自身で身を以て体験していることからその戦闘能力の高さは知れている。

 低いのではなく、高すぎることが分かっている。

 

「……やっぱりミガテだよ。ミガテがいればあんなサイだって倒してくれるはずだ」


 ミガテ、ミガテと探し回るルビー。

 3つの森のうち、自身がどの森の中にいるのかなんて知らない。

 そもそもで森が3つに分かれていることすら知らない。


 ただ広大な森の中で唯一頼れるであろうミガテを探す。


「……ミガテさえいれば倒せる当てがあるんだ」


 懐からとある動物の腕を取り出す。

 それは腕と呼ぶには機械的であり金属的であった。

 自然物では無く人工物の見た目をしており、しかし動物の能力によって変異した片腕。


「ああ、良かった。いざとなれば僕の能力のヒントにしようかと思って持ってきていたけれど、もう僕には必要ない。ボトルズの腕は、ボトルズの能力はミガテに食べさせてアルミュールの鎧を打ち破らせよう」


 その腕はドリルであった。

 螺旋を描く円錐状の物質。

 貫くことに特化したモグラであるボトルズの腕であった。


 それをミガテに食べさせて、ミガテに貫く力を与えてアルミュールの鎧さえ貫ければ勝機は見えてくる。

 穴さえ開けば液体金属で作りだした武器を鎧の内部に届かせることが出来る。


 ボトルズのドリルとアルミュールの鎧。

 どちらが能力として上か、それもミガテが喰らい得た弱体化した能力。

 試す価値はあるかもしれないが、絶対とは言い難い勝負になるだろう。


 それでも試さなくてはならない。


「ミガテの能力で駄目なら僕は死んじゃうかもしれない。それだけは避けなきゃいけないんだ」


 それは偶然か、あるいは諦めずに探した一念が引き起こした奇跡か。

 必然と呼ぶにはあまりにも状況に適しすぎていた。

 広大な森の中でばったりと出会うには確率は低すぎた。


 だが出会った。

 というよりも見つけることが出来た。


 一心不乱に走り、立ち止まったミガテの姿を。


「……見つけた」


 その瞬間にルビーは駆け出していた。

 すぐ背後から鎧のガチャガチャとした音が聞こえてきたことも含め全力で走った。


「ミ、ミガテ!? 良かった、ここにいたんだね。さあ、僕を助けてよ! ピンチな僕を颯爽と助けるチャンスだよ」


「……ルビーか」


 焦燥した姿を見てルビーは気が付いた。

 彼もまた交戦中であるのだと。

 その表情に敵を倒したという達成感は無く、周囲をひとしきり警戒する様は、ルビーと同じく敵から逃げ出したという最悪の展開を示していた。


「お前もピンチって……」


 どうやら互いに敵から逃げ出したことに気が付いたようで、ミガテも苦々しい表情を見せる。

 ルビーがアルミュールの能力の詳細を説明すると、彼はルビーへの助力は無理だと答える。

 

 聞けばミガテの相手もアルミュールに負けず劣らずの強力な力を有している。

 むしろ数の利を取られているその敵を放置すれば、ルビーまでもが巻き込まれかねない。


「あいつらはなんだ……」


 オマケにミガテは敵に恐怖している。

 その能力ではなく、有り方に。

 親を喰らう、その行為に恐れ戦いている。


 ああ、そうか……とルビーは気が付く。

 ミガテもまた頼ることの出来ない存在。

 頼るには心もとない存在。

 弱くてちっぽけで、そして生き汚い、ルビーとよく似た性格の動物である。

 だからこそ、何か心の置き所を見つければ、勝ち筋があればどこまでも強くなれる。

 どれだけ汚くても生きるために勝つことも負けることも出来るのだ。


 誰か誰かと、助けを求めていても助けてくれない。

 ルビー自身を最も助けてくれるのはルビー自身だ。

 

「これは……?」


 ルビーが差し出したボトルズの腕を見て、ミガテの表情は変わる。

 その腕が何なのか、喰らえばどのような能力を得られるのかはすでにルビーが語っている。


 仕方ない、自分の敵は自分で倒すしかないと、ルビーは諦め半ばにミガテへとボトルズの腕を託す。

 決してミガテの為でも無く、自分の為。

 ミガテがミガテの敵を倒すことで、そちらから自身へ攻撃が及ぶことを防ぐ。

 ルビーがアルミュールを倒すことは、そもそもで倒すしか無いことなのだから、それ以外に手立てがない。

 逃げ続けても追ってくる。

 止めようとしても止まらない。

 

「頼むよミガテ。お前が敵を倒してくれないと僕は死にかねないんだ。僕が生きるために、しっかりと倒してくれよ」


「……ほんと、自分勝手だな」


「そりゃそうだよ。だって、自分が一番なんだから」


 ミガテもまた同じ考えであろうことは、ミガテもまた思っていることだろう。

 互いに自身の命が一番で、仲間を助けることは自身が損をしないため。


「復讐戦だな」


「……だけど」


 だけど、ミガテは新たな武器を手に入れたが、ルビーは何も好転していない。

 体力を無駄に消耗しただけであり、考え得る限りの攻撃は防がれてきた。


 せめて槍だけであればボトルズのように鉄中毒に陥れられただろう。

 せめて鎧だけであればこちらも金属の壁で籠っていただろう。


 どちらも兼ねているからこそ、ボトルズのドリルに無敵の鎧を付け加えたような存在だからこそ、あの時の手立てが通用しなくなったのだ。


「……あれ?」


 と、そこで本当にそうだったかとルビーは考え直す。

 本当に、ボトルズのドリルとアルミュールの槍は同質のものだったか……と。


 元の能力が違う。

 種が違う。

 ならば、弱点も違う。


 そもそもで攻略法が違っていた。


「そっか……間違っていたんだ」


 何時の間にかミガテは消えていた。

 倒すべき敵を倒しに行ったようだ。


 だけどもう助力は必要ない。

 ルビー1匹で解決できる。

 この闘いはルビーで終わらせることが出来る。


「ボトルズに通用しなくてもアルミュールに通用する攻撃だってあったんだ」


 復讐戦、とミガテは言っていた。

 復讐……そう呼ぶほどアルミュールに恨みはない。

 

「生存を賭けた殺し合い……でも無いか。なら僕達の闘いは私利私欲に任せたエゴイズム戦だ」


 生き残りたいルビーとメイメイに尽くしたいアルミュール。

 液体金属を自在に武器へと変換するルビー。

 貫ける槍と貫けぬ鎧を纏うアルミュール。

 両者の決着は迫っていた。


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