Take2―33 白煙
ある種の不死身さを持ち得ているからだろうか。
グレートファザー率いる娘達は森の中を二人一組となって歩き回っている。
警戒はしているのだろうが、どこか迂闊さを感じる。
「……やっぱ、野生じゃないんだよなぁ。いくら強くても、致命的だ」
本能の奥底に恐怖があるからこそ、攻撃に警戒する。
自分も死ぬのだと、警戒せずにはいられないのだと考えるよりも体が、心が周囲に気を払えと警鐘を鳴らす。
だが、ミガテが見る限り、どの娘達も周囲を見渡しているだけで、その意味を理解していない。
敵が潜んでいる危険性を考えておらず、目に見えるところにいないから問題は無いと次に進む。
「『鬣犬の心』」
まずは一匹。
背を向けた瞬間に脊髄へと針を叩きこむ。
「あっ……」
「っ!? お前は……」
「遅え。すぐに攻撃するんだよこういう時は」
驚き一歩退いたペアの娘には皮膚から侵食する毒の唾を浴びせ殺す。
攻防で僅か10秒もかかっていない。
「……よし、次」
喰らっている暇はない。
だが、蘇生の暇も与えない。
ミガテはアナグマの能力で娘の死体を地中に埋めると歩を進める。
「数の利を生かしたつもりだろうが、悪手もいいとこだ。あのブタは将に向いてねえな」
軍団で挑まれた方がミガテにとってはよっぽど不利だ。
まとめて相手するなら光なり音なり臭いなりで攪乱しなければならない。
そして、それらは全てミガテ自身にも効果があるため動きが鈍くなってしまう。
敵のどれか一匹でも対応してしまったが最後、ミガテの命の方が尽きてしまいかねない。
「あと一組か」
もう4組は倒しただろうか。
さすがにミガテにも疲労は見えているし、敵も苛つきが見えている。
ミガテ一匹にここまでいいようにされており、グレートファザーも参謀らしきクラゲの娘も守りを固め始めたようだ。
「遅いんだよなぁ……実に遅い行動だ」
ミガテにしてみたら今更の行動としか思えない。
数が減った今、グレートファザーに出来ることは逃げることだ。
娘達を囮にして逃げ、戦力を新たに確保してからまた陣地を囲むべきである。
ミガテはすぐにグレートファザーらを発見した。
というよりも、最初から発見はしていたが後回しにしておいたのだ。
グレートファザーを狙えば他の娘達も寄ってくる。だが娘達を狙えばグレートファザーを始めとした他の娘達は動かない。
結果、グレートファザーの周辺にいた娘達以外は壊滅状態となってしまった。
「残りはあの婆さんにクマ、そして身代わりの奴か……」
最も強敵であった未来予知の能力を使う娘を早々に倒せたのは幸運であった。
一度目は娘達を盾にして殺した。
二度目はそれすら通用しない性格となっていたため、回避不能のヤドクガエルの毒の雨を降らして殺した。
「もうこの闘いも終いだ。そろそろ飽きて来たぜ」
一息に駆けてグレートファザーの目の前に飛び出す。
強襲をかけてきたミガテに対し驚きながらも4匹は防御の構えを取る。
「『鬣犬の心』」
手に持った針をグレートファザーへと投擲する。
その針先は真っすぐ喉元へと向かっていた。
「『黒猩々の心』」
しかしこの場に残っているのはグレートファザーを守る近衛隊である。
特に防御に特化した能力を持つ娘が2匹。
小さな針如き受け止めるのは造作もない。
「同じ攻撃はあっしには効かんとです。そもそもで先ほども防がれましたが」
チンパンジーの娘がその身で以て針を受け止める。
手元で小石が罅割れた。
「威力も変わらんと、無駄な攻撃をしましたな。先制を取れたならもっとマシなもの……を?」
視界が揺れた。
チンパンジーの娘がそう感じた時には地面へと倒れていた。
「あ……なに、を……?」
全身に力を入れようとしても入らない。
まるで毒を喰らったかのような感覚がチンパンジーの娘にはあった。
「まさか……」
「注射針ってよ、役目はただ穴を空けるだけじゃねえよな。ちゃんと中身を入れることもしなくちゃならねえ。空洞と小さな穴付きの針を生成。その中にヤドクガエルの毒を入れておいたぜ」
ハリネズミのぽん太がミガテのピンクの汗を針に含ませ撒き散らした時と同様。
ちゃんと闘いから学んでいた。
「体内に入った毒は永遠だ。てめえが解毒しない限りはてめえを殺し続ける」
「あっしは……あっしは……」
チンパンジーの娘は必死に残った力を振り絞り手を動かす。
何か身代わりに出来そうなものを掴むために。
「身代わりの弱点は殺し続けることだ。そろそろけじめを付けとけや」
爪を一閃。
すでに手持ちの小石全てが砕けていたチンパンジーの娘を殺した。
「お、オデの娘がぁぁ」
グレートファザーは泣いているのかただ叫んでいるだけなのか、分かりづらい声をあげる。
「よぐも、やってぐれたなぁぁ」
グレートファザーの叫びとともにクマの娘が飛び出す。
その手は水に包まれている。
「すいんぐすいんぐー」
「クラゲの娘は液体操作。俺の汗は水で流せば無効化される。相性悪いことだぜ……ったく」
ミガテはこれまでに二度、クマの娘に対してカバの汗の能力を使用している。
一度目は効果あり、二度目は効果無しであった。
二度目はクラゲの娘の能力により無効化されていたため、仕損じてしまった。
「種が分かればそれまでだ。結局は汗以外で攻撃すればいいだけじゃねえか」
すでに針は使っている。
汗の能力は使えない。
ならば……
「『熊の心』」
巨大化されたクマの娘の手が迫る中、ミガテは静かに能力を唱えた。
「『鬣犬の心』」
「アハハ! アハハハハハ! 大きな手があなたを包んでぐしゃっと潰すの!」
無邪気に笑うクマの娘は汚れを知らないままに殺戮を楽しむ。
それが歪んだ笑みなのか、はたまた野生の世界では当たり前なのか。
ミガテはどうでもいいとばかりに、
「その自慢の手も何度壊されりゃ止まるんだ?」
クマの娘の巨大な手に巨大な風穴を空けた。
真円が水に包まれたクマの娘の手に刻まれていた。
「意志を手に入れた。強い意志だ。何物をも貫き通す絶対の意志。分かるぜ、これは途轍もない武器になると」
ミガテの右手はドリルに変形していた。
金属製の、回転する掘削機。
ルビーから渡された物、それはモグラであるボトルズの死体の一部であった。
「完全じゃないからよ。別に一つを貫き通すことが出来ないみたいだぜ?」
ミガテはクマの娘の顔面にドリルを突き立てるとそのまま穴を空け、脳を破壊したのであった。
元の能力である一つの物質しか同時には貫けないという特徴は消え去り、クラゲの娘の水ごとクマの娘を貫いたのであった。
「ク、クマの娘が……ヒイィィ」
クラゲの娘が背を向け逃げ出そうとするも、
「逃がすわけないだろ。てめえも死ねや」
俊足を生かし先回りしたミガテによって胴に穴を空けられた。
「最後はてめえだブタ。雑兵共は死に絶えたぜ? 潔く俺の栄養分になれや」
「オ……」
「オ?」
グレートファザーは震えている。
「オデの娘がぁ! よぐも殺してくれたなぁ!」
巨体に見合わないスピードでミガテに迫ると腕を振るった。
「ぐぅ……こいつ、普通に強いぞ!?」
ドリルを正確に避け、ミガテの生身の部分を狙った攻撃である。
何とか後方に跳ぶことで衝撃を緩和するも、完全にとは言えない。
「当たりまえだ。娘を産ませる母体を最初に殺すのは誰だ? オデが殺さなきゃ娘は生まれねえ」
考えてみればその通りだ。
グレートファザー自体が母体よりも強くなければ能力の発動そのものが難しい。
それに、娘の数がある程度揃わなければ数の利は生まれない。
「お前を殺してまた一から娘を産ませる!」
グレートファザーの太い腕がミガテの腹に振り回される。
「『鬣犬の心』……は使うまでもねえな」
しかし速度はそれでもミガテが勝っていた。
腕を避け、グレートファザーの懐へ潜り込むと爪を数撃、分厚い脂肪に包まれる腹を裂く。
呻くグレートファザーの首元に噛みつくと、
「だけど結局てめえは娘を引き連れていた方が強かったな」
「っ!?」
頸動脈を引きちぎったのであった。
グレートファザーが死んだかどうか、確認するのは簡単であった。
娘達が消えていく。まるで最初から存在しなかったかのように煙となっていく。
「ヒ、ヒィィ。死にたくない……儂の寿命はまだあるのにぃぃ」
死んだふりをしていたのだろうか。
クラゲの娘が地面を這いずり回り、そして消えていった。
「……あーあ。結局死体はこれぽっちだけでやんの」
後に残ったのはグレートファザーの死体だけであった。
他の母体の死体も娘達に喰らわれてしまったのだろう。
こんなことなら倒した娘達も地面に埋めずに齧っておけば良かったと後悔する。
「いや……ヤドクガエルの能力とかはまだ俺の中か」
そこにミガテの能力も干渉したからであろうか。
喰らい得た能力だけはまだ使える感覚がある。
「……しゃーねえ、これを土産に決戦に臨むとするか」
まずはそのために仲間と呼称する動物の安否を確認しなければ。
長き、そして数多くの動物との闘いを終えたミガテは疲労し傷ついた身体を引きずりながら移動を開始するのであった。




