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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
Take2 生存法則
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Take2―27 地震

「母様の力は使うまでも無かったみたいね」


「全力全開で我が力の封印を解こうとしていたのにな……くっくっくっ」


「おやおや。そうしたらお茶を入れましょうかねぇ。お茶請けは何がいいかしら?」


「あまいもの! わたし、あまいものがいい!」

 

 地上では4人の女達が地を見下ろしていた。

 別に空を飛んでいるわけではない。

 地に沈んだアナグマの娘とそれに引きずり込まれた男の結末を見届けるために、どこかは分からぬとも見下し見下ろしていたのだ。


「アナグマの娘も愚かよのぉ。こう長く浮上してこないところを見ると殺されたようだが、どうせ相討ち上等とかでも思いながら死んだに違いない」


 その中で最も、心底軽蔑するかのような目をしている幼き少女。

 彼女はアナグマの娘が沈む地面を蹴りながら


「私はあいつが嫌いであった……他者の顔色を伺いながら傅きながらそれでも隙を探していたあいつがの……。だから、こんなところで死ぬなんて許せぬのよ」


 ふと寂しそうな顔をする少女に周囲の女達は何も言わない。


「地に潜る能力だったか……何も自分が土葬されるなど思いもしなかっただろうに。……くそっ、私も地中を潜れたならば、改めて殺し直してやれたが」


「歪んだ愛ねぇ……」


 続く言葉に呆れる者もいる。

 頭の中でアナグマの娘を殺す妄想でもしているのだろう。

 頬を染めながら少女は地面を見る。


「あぁ……血塗みれも良いのぉ。だが血を全て抜き取った真っ青な顔も捨てがたい」


「浮かれているところ悪いけど、何か来るわよ? 地中から浮き上がってくるみたい」


 長身の女が少女に忠告する。

 彼女だけは地を見ておらず、目を瞑っていた。


「『|鯰《キャットフィッシュ’ズ》の(ハート)』……か。便利なものだのう」


アナグマの娘が地中に対して自身の潜行性能を高める能力だとするならば、彼女の能力は地面への感知性能を高める能力。


「振動は一つ……這い上がろうとしているわけでは無く水中を泳ぐかのような移動。良かったわね、アナグマの娘が戻ってきたようよ」


「そ、そうか。ふん、悪運だけは強いのぉ。ならばその悪運もどこまで続くか私直々に見届けてやるとしようかの」


「いっしょにいたいっていみ?」


「そうよ。あれはもう放っておいてあげなさい。聞こえもしない相手に向かって言っているのだから私達は聞かなくてもいいわ」


「ふうん……あ、ならさっきつかまえたおとこたちはどうするの? おんなはおとうさまにってはなしだけど、おとこはごはんにしちゃうのかな?」


「父様にはないようだけど私達にはあるようだからね、食欲は」


「おとうさまはせいよくしかないー」


 アナグマの生死を心配していた少女……よりも更に幼い少女はストレートに父とやらの性欲の強さを語る。

 見た目ではまだ3,4歳といったところだろう。

 舌足らずな口から放たれる言葉はしかし決して微笑ましいものではない。

 むしろ聞く者によってはより恐怖を抱かせることだろう。


「あら、そんなこと誰が言っていたのかしら」


「みんないってるー。だからあんなのうりょくになったんだってー。でもわたしたちがうまれたのはそのおかげだからべつにいいってー」


「そう、そうよ。分かっているじゃない。私達は普通ではこの世に生まれてくるはずの存在では無かった。母様に歓迎されることなく、世に許されたわけでもなく、しかし父様がいたからこそ肯定されているのよ」


「んー、むずかしいはなしはいやー。それよりも、あのにひきをどうするかってはなし。たべていいのかなぁ」


 鋭く尖った口内の歯を見せるこの中で最も幼き少女は腹をさする。

 

「それは父様に許可を貰わないとね。今は新しい妹をつくっている最中なのだから邪魔しちゃ駄目よ」


「はぁい」


 アナグマの娘を心配する少女は


「ナマズの娘よ。アナグマの娘は後どれほどで浮上する?」


「もうすぐよ。かなり深く潜ったみたいね」


 ナマズの娘へと尋ね、その答えを聞いて顔を綻ばせる。


「どう出迎えてやろうかのう。まずは私をこんなにも心配させたのだ。足蹴にした後に……」


「やっぱり心配していたのね……」


 語るも落ちたというか、気づいていないうちに本音を言ってしまっている少女に苦笑するナマズの娘。

 だが、彼女とてアナグマの娘の生死を心配していたかと問われれば否と答えることは出来ない。

 生まれは違えど父は同じ。

 彼女らの共通点はそこにあり、異母姉妹であるのだから。


 そして地表へと1対の手が這い出る。


「ん? おお、ようやく戻ったか」


「ああ。戻ったぜぇ……早速お迎えがあるとは嬉しいじゃねえか」


 続いてニヤニヤと笑みを貼りつけた顔が出ると、固まる少女の足を掴み、地中へと引きずり込んだ。


「なっ!? ……離せっ」


「うおい、暴れんなよ」


 少女の下半身が沈んだところで、手が離される。


「……なんだよ。せっかく仲間のところへ連れて行ってやろうと思ったのによ。あ、仲間はここにいるんだったな。はっはっは」


 地中から出てきたのはアナグマの娘ではなく、当然ながらミガテであった。

 アナグマの娘を喰らったことで得た地中移動の能力を使い奇襲をかけたミガテは腹を叩きながら笑う。


「これで1匹は使い物にならなくなった。残りは3匹か? ……まだまだ数は多いからなぁ。一端隠れて頃合いを見計らって1匹ずつ仕留めさせてもらうぜ」


 と、『穴熊(バジャー’ズ)(ハート)』」を使おうとしたミガテであったが、


「させないわ。『|鯰《キャットフィッシュ’ズ》の(ハート)』」


 ミガテが地中へと再度潜もうとしたその瞬間、ナマズの娘が能力を発動した。

 




 ナマズは地震を予兆して暴れると言われている。

 『|鯰《キャットフィッシュ’ズ》の(ハート)』の能力の一つは地中の振動探知。

 たとえ音も無く地中を移動出来ようとも、地中で動いている限りは振動が起き、それを探知することが出来る。


「……真下に潜ったようね」


 そしてナマズの娘の能力はそれだけに留まらず。


 地の底には大鯰が棲んでいる。

 ソレが地震を起こすのだ。


 とある地方に伝わる迷信だ。

 実際には大鯰ではなく岩盤の変形や破壊によって引き起こされるのだが、そんなものは関係無しとばかりにナマズの娘は『|鯰《キャットフィッシュ’ズ》の(ハート)』の能力によってミガテのいるであろう深部まで地を揺らす。


「来た、来た。慌てて浮上してくるわね。そりゃぁ頭の中だけじゃなく全身を揺さぶられているんですもの。たまったものじゃないでしょう」


「おい、私をこの忌まわしき鎖から早く解放せよ。あの男……よりにもよってアナグマの娘の能力で私を殺そうとした。この屈辱を晴らさねばならぬ」


「はいはい」


 ナマズの娘は地に下半身を埋める少女の周囲の大地に亀裂を入れ、解放させる。

 

「その亀裂であの男をこちらへと誘導できぬのか?」


「潜る力には亀裂は意味無いのよね。すぐ無事な地中へと戻っちゃうし。それならいっそ、探知してそこを震源として揺らした方が効果的よ。それに……探知しているのだから誘導しなくたってこっちから行けばいいでしょう?」


「それもそうよな」


 ナマズの娘は歩き出す。

 それに連れ立って3匹の女達も後に続く。


 しばらく歩いた後に、


「ここの真下から浮上してくるわね。どうもアナグマの娘の能力を使っているようだけれど、その特性も弱点も一番知っているのは私達」


「そうだ。地中へ潜っているからこそ地上の様子が見えないという弱点。その弱点を私達は存分に叩こうぞ」


「たたくならわたしにまかせてー。とくいなのー」


「おやおや。産まれてすぐなのに元気だねぇ。この子は」


 4匹の女達はミガテの浮上を楽しみに待機していた。

 しかしその笑みはアナグマの娘の浮上を想定していた時とは違い、残虐性を秘めたものであった。





「(俺は地上の様子が見えないから浮上した時が仕留め時……だとか思っているんだろうなぁ)」


 地中を進むミガテは地上の4匹が自身の探知を行っていることを分かっていながらあえてその中心に向かっていた。


「(使ってみれば使いづらい能力だなこりゃ。アナグマの娘とやらは上下左右をどうやって見分けていたんだ……? 勘とか言い出しそうな気もするが、俺はそんなもんには頼らねえ。俺が頼るのは頼もしい能力だけだ……『鬣犬(ハイエナ’ズ)(ハート)』)」


 イグルーの視力強化により地上の様子を伺いながらミガテは泳ぐ。

 呼吸はスカンクのガス生成の能力でカバー。


 欠点は他の能力で補いながらミガテは本来の使用者よりもよほど上手く能力を使用していく。


「(とはいえ……欠点を欠点だと思っちまうのは俺の体が能力に合っていないからだろうな。悪臭を放てば俺もろとも、こうして地中を進めばそれ単体じゃ振り回されちまう。悪臭を感じない嗅覚や地中でも位置を感じ取れる空間把握能力が俺に備わっていないからこんなにも苦労しているんだろうぜ)」


 素のミガテの優れた点といえば多少は嗅覚が効くといったくらいだろう。

 力の強さよりも足の速さが勝っており、しかし真に速い動物は他に大勢いる。

 

 ミガテは能力を除けばそこらにいるようなあり触れた動物である。

 五感も強さも速さもそこまでではない。

 どこか突き抜けたものがあるわけでもない。


 だから、だからこそ『突き抜け出てしかいない能力』を奪うという能力になったのかもしれない。


「そんじゃぁまあ、ご対面したところでまた目くらましとしようかね。『鬣犬(ハイエナ’ズ)(ハート)』」


 地上に飛び出たミガテは今にも各々の能力や獲物をぶつけようとしていた4匹を尻目に全身を発行させ、爆発音を轟かせたのであった。

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