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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
Take2 生存法則
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Take2―25 糞害

【薄汚い森】


「……空気が淀んでいやがるぜ。死臭と腐った血肉の混ざった臭い。まさに俺にとっての天国じゃねえか」


 悠々と森の中を歩きながらミガテは周囲を見渡す。

 そこはミガテの言う通り正に『死の森』。

 

 トリニコやホミーが現在地とする2つの森は得体の知れない異様さや、曖昧模糊とした奇怪さがあった。

 だが、この森は違う。

 正体ははっきりとしている。


 死体の散乱した森。

 死に満たされた森。


「……これ、片っ端から喰らってもいいんかなぁ」


 数えてみれば10数匹はあるだろう。

 あちらの木の陰に、こちらの草むらに。

 死体を喰らうことを能力の鍵とするミガテにとっては絶好の狩場である。


「……だがよ、それをするには現状把握ってのが大事だよな。何が起こっているのか。どいつがこいつらを殺したのか。どうやって殺したのか……喰らっている最中に俺が狙われちゃぁ一大事だ」


 ミガテの濁った瞳が死体を舐めるように見る。

 それは、餌を前にしたハイエナのソレではなく、肉食動物を前にして如何に餌を奪い取るか研鑽するハイエナの目であった。


「ん~、まずは死体の損傷具合だが……何だこりゃ。どれも干からびているじゃねえか。まるで生気を奪われちまったみたいに。それに……いや、ただの偶然にしちゃぁ揃いすぎているのか……?」


 転がる死体のどれもが小さな擦過傷はあれども致命傷となり得るような傷が見当たらず、代わりに血液でも抜かれたのではないかと思えるほどに乾ききっていた。


 そして、偶然か必然か。ミガテには判断出来ないことがもう一つ。

 

「雌臭くてかないやしねえ……まあ肉が柔らかくて旨そうなのも確かだが」


 死体は全てが雌であった。

 何も外見で判断しているわけではない。


 死体はどれも衣服が剥がされており、裸体を晒していた。

 みすぼらしいものから豊満なものまで。


 死体を喰う者(カニバリズム)であれども、死体に欲情する者(ネクロフィリア)ではないミガテとしてはその光景に何も思わない。

 ただ、布は喰うのに邪魔なんだよなと思うだけ。


「私の母体に何か用か?」


 と、死体を検分していたミガテに声がかかる。


「……ようやく敵のお出ましか。母体? この死体の創作者って意味か?」


 そこに居たのは痩せこけた女であった。

 転がる死体と見間違う程の血色の悪さ。


「創作者とは相異なる。そこに転がるは文字通り我が母体。尤も、私が生まれる際に力尽きたようだがな……くくく」


 ミガテは女と死体を見比べる。

 なるほど、確かに面影はあるようだ。


 死体は、生前は清廉で清楚な女であったことが辛うじて伺える。

 干乾びてはいるため何となくこんな感じだったのだろう程度の推測にはなってしまう。

 脱がされ散乱した衣服が修道女らしきものであることも、死体がそのような動物だったのだろうという予想を擁護する。


「ふうん……。この闘いで娘が生まれたってことか。まさか妊娠していた動物が闘わされるとは、そりゃ確かに1週目で死ぬはずだ」


 女の言っている意味の大半は分からないが、それでも『母体』、『生まれる』という言葉が示す意味はそう多くはない。むしろそれくらいしか無いだろうと推測したミガテはしかし思い直す。


 この世界にいる動物は1週目で死んでいる。

 その前提から成り立っているのだ。

 良くも悪くも死んだ肉体がどうしたわけかこうして夢の世界と馬鹿馬鹿しい世界観で生き返っている。……肉体はともかくとして精神の上では蘇生させられている。


 だからこそ、その精神だけとなっている動物達が生きていた世界から胎児を持ち込むことなど出来るのだろうか。


「否、否! 私が生を授かったのは貴様らが元居た世界ではない。この世界で着床し、生まれてきたのだ!」


「……おいおい。時間軸がガバガバし過ぎじゃねえか? この世界なんてまだ数日くらいしか経っていないだろうに。時間を早める能力でも使えたのか? お前の母体とやらは」


「いいや違う。私の母体の能力はまた別にある。そう、『(ピジョン’ズ)(ハート)』というものがな」


 鳩か、とミガテは安堵する。

 ミガテの知識からしてもそう恐れるような動物ではない。

 ましてや1週目で死んだ動物の、それも娘。

 如何ほどにも強さを感じない。


「平和を象徴とする鳩からは想像も付かないような唾棄すべき能力、と母体は生前言っていたようだ。……おっと、破棄だったかな。唾棄という言葉を口にするほど母体は口の悪い母体では無かった」


「へっ……なんだ? 能力をコントロール出来ていないってことか?」


「どうだかな。母体の真意は知らぬよ。私は娘であって母体本人では無いのだからな。だから遠慮なく能力を使えるのさ! 恐れよ我が能力、『(ピジョン’ズ)(ハート)』」


 女が――鳩の娘が能力を発動する。


 音も光も臭いも無く。

 発動した感触も無く。

 静寂と無がミガテを混乱させた。


「……? 何も起きねえじゃねえか。あれか? 俺に分からねえだけでお前の力でも強化されたってわけか?」


 ウッホのような身体強化系の能力だろうか。

 それであれば搦め手を存分に使い倒せるなとミガテは焦ることなく考える。


「強化……その程度の能力なわけが無いだろう。いいか? 鳩はな、平和の象徴という側面がありながら食害や糞害でも知られている鳥なのだぞ。私の能力は糞害操作。糞を出すことは無く、ただ周囲に細菌やカビを撒き散らす能力だ」


 公園で鳩に餌を与えてはいけない理由。

 尊いはずの鳩が邪険にされる理由。

 その一つがこの糞害。

 

 人間にアレルギー反応を起こさせ、気管支や肺にダメージを与える糞害の被害は大きい。


「じわじわとだ。まずはくしゃみや咳で始まるだろう。苦しみは小さい。だが、すぐに大きくなるぞ。時間はそう長くはない。一瞬で死ねぬが永劫もかからぬ。母体は悪しき能力と決めつけ生涯一度も使わなかったこの能力。お前の死で私の人生を踏み出すとしよう」


「そうかい。細菌やカビ……目に見えねえほど小さな生物が俺を襲ってくるねえ」


「逃れられると思うなよ。すでに一帯に、お前の体にさえも撒き散らし終えているのだ。1つ残さず殺せるはずが無い」


 動物の手で……いや、人間の手であっても細菌やカビを殺すことなど出来ない。

 そもそもで目に見えないものの生死を確かめる術すら無いのに。


「すぐに俺を殺すような直接的な攻撃じゃねえのなら手は有り過ぎる程有り余っているんだよ! 『鬣犬(ハイエナ’ズ)(ハート)』」


 細菌やカビを一つ一つ殺す手段はゼロに等しい。

 だが、纏めて一掃する手段はあった。


「火で炙るなり水責めにするなりよ、いくらでも手段はあるんだよ……時にはガスを使ったりな」


 メイメイ達との接触から逃走する際に使ったガスの能力。

 臭気だけではない。例えば、消臭やただ毒性を強めること、そして殺虫スプレーと成分を合致させるガスとて生成が可能である。


 細菌とカビを殺すことに特化したガス。

 それがミガテの全身から放たれるとミガテの体に纏わりついたものだけでなく周囲に散布していたものまでもが死滅していく。


「なっ……!?」


「ついでにこの能力も試しておくか……『鬣犬(ハイエナ’ズ)(ハート)』。うわ、使いづらっ!」


 ぽん太の針を喰らったことで得た針生成の能力。

 残念ながら体力を消耗する割に一度に1本しか生成出来ないものとなってしまったが、殺傷性は十分だ。


 ミガテは女の懐に潜り込むと針を心臓部へと突き刺した。


「じゃあな。便利そうだしその能力は俺が貰っていくぜ」


 喰らえば喰らう程能力が増えていくミガテ。

 使えば使う程使いこなしていく知能を持つ彼はこうして森の中での一戦目を圧勝して終えて見せたのである。


 ……そう、これはあくまでも一戦目なのであった。


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