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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
Take2 生存法則
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Take2―20 憤怒

「何を言っているの……? 確かに私はライオンに負けた。でも私はライオンじゃない。あなたがライオンに勝てるのかもしれないけれど、実際に、今圧倒しているのは私の方」


 ウッホの言い切った言葉を受けてもイビルアイは動じない。

 淡々と事実を確認していく。


「相性? それとも気合? 油断かな? 一撃をあえてライオンに受けさせたら勝てるかもしれない。私だってそれなら勝てたかもしれない。体力も、防御も、速度も、攻撃も。総合的なもので殺し合うのであれば敗率は高い。だけど、上回っているものだけで争えば……勝てるかもね。あのライオンはそういう性格していたし」


 ウッホはライオンに会ったことは無い。

 噂にだって聞いたこともない。



 どれだけ強いのか。

 どのような能力なのか。

 性格も性質も性能も。

 生きているのか。

 死んでいるのか。


 全く知らない。


 動物としてのライオンは知っておれど、この戦場でのライオンは知らない。

 殺し合い初日に真っ先に――しかしウロコフネタマガイを始めとした、より早い動物もいるが――死んだウッホがライオンを知らぬのも無理は無かった。


「ああ、誤解させてしまったか。俺はライオンイーターを知っているかどうか尋ねただけで俺自身がそうであるわけではない。同時に、俺がライオンを倒せるかどうかは別の話だ」


「なら、今の話は無駄ということ?」


「無駄、かどうかはお前が自身で判断するのみだがな。ともかく俺が言いたいのは無敵なんてものは無いということだ。自然界にしろ人工的な力の下での戦闘にしろ……絶対的な勝負も力も成立はしない」


 そう、ウッホは胸を叩きながら言い切った。

 自信を持って。


「そう。だけど、私とあなたの力関係はすでに成立している。攻撃は互角。それ以外は須く私が上」


 どうだとばかりに笑うウッホとは真逆に、静かにイビルアイは答える。


「あなたの勝機はどこにあるの? あなたが勝てると思った確信はどこにあったの? そんなもの全て私が壊してみせる」


 イビルアイが跳躍した――と同時に真上の木の枝に指を引っかけて枝の上に降り立つ。

 指猿(アイアイ)|の名をそのまま表すかのように縦横無尽に木々を駆け巡る。

 ウッホを攪乱する、というよりもただその力を示しているようだ。

 彼我の戦力差を見せつけ、更に絶望し恐怖させるために。


「追い打ちになるかな? 『指猿(アイアイ’ズ)憤怒(ラース)』」


 イビルアイから放たれるオーラが過激さを増した。

 正面から相対するだけで気を失いかけない恐怖のオーラ。

 それがウッホに向けられる。


「くすくす。どう? これでも勝てるだなんて思える? 私のパンチ一つであなたの骨が何本折れたんだっけ? もう一回同じことをすれば今度こそあなたは死ぬのかな? それとも苦しみが増えるのかな」


 童子が新しい玩具を見つけた時のように楽し気な声が木々の合間から漏れ出て来る。

 木々がイビルアイの跳躍によって揺らぎ騒めき、声を反響させ不気味な声質へと変える。


「感情によって私の能力が上がっていく。それが『指猿(アイアイ’ズ)憤怒(ラース)』。つまりは私が怒ると悪魔的な力が強くなる」


 イビルアイの感情はさほど揺らいではいない。

 ただ、二つ目の能力を解放しただけ。

 まだ真価は発揮されていないというのに悪魔の力は増した。


「どこからか分からない攻撃に怯えてそのままショックで死なないでね。それじゃつまらないから」


 ウッホの死角からイビルアイは飛び出す。

 背後……それも首元を狙った一撃。

 イビルアイは腕全体ではなく指先に力を集中させる。

 指の力――ピンチ力とは違う。

 アイアイの歪に尖り鉤爪状となった指がウッホの頸部を切り裂こうと振るわれる。

 悪魔に似ていると言われてきた指が悪魔の如く力で振るわれようとしている。


「悪魔の力を持った悪魔と呼称された生物。それってもう悪魔ってことだよね。ねえ、ちゃんと恐怖してる? 私が撒き散らしているこのオーラに」


「……ああ、感じているさ。目で見なくともな」


 ウッホが地面へと拳を振り下ろす。

 イビルアイの存在を無視したかのように、標的をずらす。


 悪魔と同格の力を持つウッホの力。

 それは地面にクレーターを空け、そしてその分だけ土を空中へと浮かび上がらせた。


「なっ!?」


――まさかこれほどの力があるなんて


 驚愕したイビルアイは砂や土、地面に落ちていた枯れ葉が宙へと舞う中でウッホの姿を見失う。

 

――目くらまし……? 見失ったけどすぐに見つけられる。だけど、端から私の姿を追えていなかったあなたが私を見つけるなんてもっと無理……だよね


 ウッホの速度はイビルアイに比べれば……いや比べるまでもなく鈍重なものだ。

 まだ見失う前の地点と大して変わっていないだろう。


 そう判断したイビルアイはあえて舞い上がる土砂の中へと突っ切っていく。


 そして、ウッホの拳がイビルアイの腹部へと命中した。


「え……な、んで……!?」


 木々にいくつも穴を空けながらイビルアイは吹き飛ばされ、そして5、6本目に穴を空けたところでようやく止まった。


 イビルアイが驚愕した理由は二つ。


 一つはイビルアイでさえ見失った視界不良の土砂の中でウッホがイビルアイの位置を捉えられたこと。


 二つは……


「骨が折れている……それどころか内臓にダメージが」


 骨にヒビが入る程度では済まない。

 完全に断絶し、それを通り越して臓器にまでダメージが達していた。


 悪魔としての身体強化は骨や臓器にまで及んでいた。つまりは骨や臓器の強度も悪魔的であったというのに。


「さすがに硬いな……もう一段階上げたほうがいいか」


 イビルアイを殴った拳を開閉させながらウッホはもう片方の腕で自らの胸を叩く。


「……何をしたの? あなたの攻撃は私の防御を突破できる程じゃ……!?」


 その時イビルアイは気が付いた。……いや、思い出しと言うべきか。


 地面にクレーターを空けたウッホの力を想定以上だと思ったという事実に。


 互角なはずの力が何時の間にかウッホへと軍配を上げていた。


「そう……力を上げたんだ。私に勝てるように。悪魔を上回るために」


「そうだ。おかげでお前の放つ恐怖のオーラも克服出来た」


 力を上げる代償として知能を低下させる。

 それがウッホの、『大猩々(ゴリラ’ズ)(ハート)』の能力だ。


 知能の低下は本能をむき出しにさせる。

 相手が真に強い相手であればウッホは本能的な恐怖によって逃げ出していたかもしれないだろう。

 そもそも、力以外の速度やその他のステータス差を知ったその瞬間に知能だけは手放せないとウッホは悟ってしまっていた。

 これ以上相手と差を広げてはならないと。


 だが、ふと思ったのだ。

 果たしてそこまでこのイビルアイという少女は強いのだろうかと。

 悪魔的な力と言ってはいるが現に一度死んでいるではないかと。


 恐怖はウッホが勝手に感じているのではなくイビルアイが振りまいているものではないか。

 作り上げられた恐怖はウッホに生半可な理性があるからこそ効いてしまっているのではないか。



 ならば理性を捨てるのみ。

 本能のままに行動し、知性を基にして作り上げられた恐怖など捨ててしまおう。


「『大猩々(ゴリラ’ズ)(ハート)』。もうお前の恐怖など俺には効きやしない」


 恐怖を捨て、竦んでいた足が動けば相手の動きも良く見えてくる。


 土砂を巻き上げて視界を捨てても相手が勝手に放ってくれているオーラとやらで大体の位置は分かる。

 後は本能のままに拳を振るまでだ。


「ゴリラは別に悪魔じゃないが、怪物じみた強さは持っている。爪も牙も無いが力ならそこらの動物に負けてやれる義理はない」


「……力が少しばかり上回ったからって調子に乗らないで。まだ速度も防御も何もかもが私にはある。悪魔の力が消されたわけじゃない」


 恐怖のオーラによって位置を悟られているのだと分かったならばオーラを消せばいい。

 イビルアイはすぐさまオーラも、気配すらも消し去って木々の中から飛び出す。

 狙いは再びウッホの首筋だ。


「ここで私は勝って生き返るんだ! あの人と……悪魔だって堕落させるようなあのお方と一緒に私は再び生を勝ち取る」


 その叫び故か、ウッホは振り向きイビルアイを見つける。

 しかしすでに攻撃の行動に移っているのはイビルアイが先。


「間に合わない。私が早い。行動も、速度も。あなたと私じゃ違うもの」


「そうだな……こうして恐怖を取り払ってみればお前は案外と小さいままだったな」


 ウッホの腕とイビルアイの鉤爪が交差する。


 先に相手に届いたのは……ウッホであった。


「正体を探らせない。影の如き姿を揺らめかせていたのは恐怖のオーラによるものか? それを消したらお前の腕よりも俺の腕の方が長いのは明確だな」


 影のように漆黒のイビルアイの体格は悪魔へと化す前と変わらないままであった。

 

 小さい少女と大柄な筋肉質の男。

 リーチの差は歴然であった。


「ぐ……う……」


 悪魔の防御力があっても完全には防ぎきれない。

 イビルアイの腹部をウッホの拳は貫いていた。


「後出しでも勝てるくらいに俺はもう1つだけお前に勝っていたものがあったんだな。次なんてものがあったら体格は小悪魔的と言っておいた方がいいかもな」


 逃がさぬようにイビルアイを掴み片方の腕では力を込める。

 理性も知性も失いかけているウッホに正確な狙いは出来ない。しかし掴んでいれば外すことは無い。

 ただ本能のままに拳を再度イビルアイに向ける。


「あ――」


 死にたくない。そう刹那にイビルアイは感情を揺らがせるがそれは間違いであった。

 二つ目の能力である怒りの感情によって悪魔の力を強くさせる『指猿(アイアイ’ズ)憤怒(ラース)』。

 それを発動させ防御をより強化するべきであった。


 感情を抑えることが出来ても制御は出来ず。

 イビルアイに使いこなせるものでは無かったと言うべきか。

 あるいは一度死んだことによって危機的な状況で恐怖の感情を覚えてしまったためか。


 パン、と弾けるようにしてイビルアイが肉や骨の細切れとなって周囲へと散っていった。

 それは悪魔が煙となって消えるように、一瞬であった。


「……これだけのダメージを負っていて助かった」


 重傷を負っていたのはウッホも同様であった。

 限界を迎え、理性を失い暴れ出す前にウッホも地に倒れこむのであった。


さらっと錺さんから頂いた二つ目の能力を持つ動物が死にました

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