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アニマルコロシケーション  作者: そらからり
Take2 生存法則
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Take2―15 真紅

 ミガテの口から赤い汗が吹き出される。

 ぽん太の全身に生える攻防一体の針はそれらからぽん太を守ることは無く全身は赤く染まる。


「くっ……だが!」」


 針が防御に使えないのなら攻撃に転化するまで。

 全身の針をミガテ目掛けて発射させる。

 だが、その数は先ほどまでにミガテを追い詰めていた程ではなく、勢いすらも衰えている。

 ミガテは軽やかにそれら全てを避けると、


「ヒャハハ、勝利ってのは相手の息の根を止められることが確定したら確信するんだよ。今の俺のようにな、ヒャハハハハハハ!!」


 高らかに笑った。

 それもそのはず。この粘液は拭き取れば最後、そこから水分を奪われる。全身に粘液が掛かってしまったぽん太は全身から水分を失われて死ぬことは見えている。


「拭き取らなければ、な」


 だが、逆を返せば拭き取らなければすぐさま死ぬような能力ではない。

 粘液がぽん太の体から離れる前にミガテを殺せば粘液は何の効力もないただの赤い汗となる……可能性がある。


 最悪はミガテを殺したところで水分を奪う粘液という性質がそのまま残っているということだが、それならばどこか水場を探して流すだけだ。

 水分の豊富な場所で粘液を洗い落とせばすぐさま水分の補充が出来る。カラカラに乾く暇など与えない。


「このまま……倒させてもらう」


 全身が赤く染まろうともぽん太は2本の針を持ち、咥えてミガテに振りかざす。

 奇しくも、全身が赤く染まろうとも立ち上がったミガテの如く、立場は逆転しようとも同じ様に諦めずに日の道を探し出す。


「倒せればいいがなぁ……」


 だが、一歩踏み込んだぽん太の視界が傾いた。

 直後、ぽん太は理解した。右脚が消失していることに。

 痛みは無く、これも粘液によるものだと分かる。


 だが、


「俺は粘液を拭きとっていない! なぜ……!?」


 だが、左脚を見て気づく。粘液、というには些か地面へと滴り落ちていく速度が速いことに。

 水のようにとまではいかなくても、払いのければその勢いで体から離れていくほどには粘性は低い。


 左腕にあった粘液はもっと粘性の高いものであった。

 何かが混じらなければ……ここまでサラサラとしないだろう。


「そう、俺の血だ」


 混じった異物。血のように赤い汗に混じったものは赤い血であった。


「動けばそれで拭き取るよりも早く落ちていくぜ? ソロリソロリとネコのようにハイエナのように抜き足差し足しなければ移動することも叶わない」


「ぐっ……」


 ならばぽん太に残された手段は……1つしかない。


「お前に、この能力を解除してもらうしかない!」


 これが残された体力から考えても最後の針。

 限界まで体力を使い、大きな1本の針をぽん太は作り出す。


 そして、その針をミガテ目掛けて発射した。


「ハッ! どこに向かって投げてるんだ!」


 だが、それはミガテの頭上を越えていく。そのままミガテの後ろにいたトリニコすら外して真上を通過していく。

 木に刺さってようやく止まった針は、だがしかしその木を倒す。

 もし当たっていれば致命傷になっていただろう破壊力。

 だが、当たってはいない、とミガテは笑う。


 どれだけの力があろうとも、一撃必殺の技であろうとも当たらなければ意味が無い。

 それこそ腕を犠牲にしてぽん太へと必殺の粘膜を浴びさせることに成功したミガテである。

 大振りな攻撃や見え見えの攻撃になど当たる訳が無い。

 それは、死ぬ前の……ゾウのアヌーラとの闘いで学んだことだ。


「や、やべえよ!」


 悲鳴が上がる。

 その主は最後の力を振り絞って攻撃をしたぽん太……ではなく、ミガテの後方にいたトリニコのものであった。


「……どうした?」


 横目で見てみると、


「……チッ」


「さっきの針が……どうしようミガテ」


 トリニコの頭部が赤く染まっていた。


「どうした……何があったんだ」


「さっきの針がよう、ミガテのその液体を撒き散らしながらオイラの頭上を飛んでいったんだ。まさかそんな仕掛けになっているって気が付かなくって気づいたらこうなってしまったんだ」


 ミガテには一切降りかかっていない。

 針が空洞状になっておりその中に液体を含ませて発射したのだろう。ミガテにはかからないよう、時間差で中身が零れ落ちるようにというおまけ付きで。

 ぽん太は今、ミガテの能力である赤い液体を大量に持っている。その身で。乾いたり体から落ちない範囲でかき集めて針に入れたのだろう。

 なぜ、ミガテにはかからないようにしたのか。それはミガテ自身に効かない能力だと思ったからであろう。すでに全身をその液体で纏わせている。これ以上かかったところで意味がないのだと。


 トリニコに液体がかかった意味。

 それはぽん太よりもトリニコよりも、ミガテが一番痛感していた。

 ミガテとて決して傷は浅くない。トリニコの回復ありきの戦闘である。トリニコが死んでしまっては元も子もない。


「さあ、そいつを死なせたくなかったら早いとこ能力を解除するんだな。頭部の液体が無くなれば即死だ。俺は大量に液体がかかっているが、そいつは微量。いつ無くなってもおかしくないぜ?」


 水分を奪う液体が大量にかかっていた方が残りの寿命が長い。

 現在のぽん太とトリニコはそのようなおかしな状況に陥っていた。


「ト、トリニコ……」


「……しょうが、ねえか」


 トリニコに死なれるのはまずい。

 ここで能力を解除すればぽん太に逃げられてしまう可能性が高い。次に闘う時には液体対策をしてくることは間違いない。

 だが、それでもトリニコを失うくらいなら、その方がマシか。


 ミガテが能力を解除しようとした、その瞬間であった。


「ミガテ……そのままでいい。オイラは今、全く傷を負っていないんだ。ミガテがボロボロになってまで繋いだこの場面。オイラのせいで台無しにしたくはない」


「死んでもいいってか? だから、それは俺が困るんだよ」


「誰が死ぬって? オイラは生きるよ。ちょっと痛いけど、こうすればオイラは死なないんだ!」


 水分を奪う赤い液体。

 それは決して布で拭き取ってはいけない。体温を上昇させて拭き取ってはいけない。

 そうしてしまったが最後、その部位からは水分が失われ、肉体は朽ち果ててしまうのだから。


 だから、トリニコは落ちていた針を1本、手に取ると手首に当てた。


「ぐぅっ……」


 手首に針を突き刺すと噴水のように血液が溢れ出す。


「何やってんだトリニコ!」


 自殺行為どころかただの自殺ではないか。

 このままでは数分と持たずに出血多量で死んでしまう。

 早く、止血しなければ……。


「いいんだよミガテ。こうすれば洗い流せる」


 噴水のように溢れる血液。それをトリニコは自分の頭から浴びせる。


 水源で洗い流すしかない赤い液体。

 水源が無いのなら自分で作り出せばいい。


 トリニコは液体に水分を奪われて死ぬというすぐにでも有り得たかもしれない状況を、数分後に確実に死ぬという状況に作り替えた。


「やってくれよミガテ」


「……おう!」


 命をかけてトリニコは窮地を脱した。

 ここで勝たなければミガテの面目もプライドも何もあったものではない。


「さて、これで本当に終わりといこうじゃねえか」


 ミガテが疾走する。

 液体はもう使わない。

 鋭い牙の生えそろった顎を開く。


「お、俺も液体を血で落とせば……」


 ぽん太もトリニコを習い血液で以てこの状況から脱しようとしたが気づいた。

 すでに十分すぎる血液を失っている。腕と足。その2つが欠損している今、それらに当てられていた血液も相対的に無くなっている。更に失ってしまえばすぐにでも血が足りなくなり死んでしまうだろう。

 万が一、血液が足りていたとしてもこの後で止血を誰がするというのだ。


「や、やべえ……何とかしないと……」


 何とかとと言っているが具体的に何も考えは出て来ない。

 血を失ったことで思考力も低下しているのだ。先ほどの空洞状の針は運よく思いつけただけに過ぎない。


「針の能力、か。俺がせいぜいうまく使ってやるよ」


 ミガテが吹きかけた液体はぽん太の全身の針にも付着していたようだ。

 すでにその液体は乾いており、針からは水分が失われている。それに伴い強度も低くなり、ミガテが触れるだけで崩れていく。


「助かったぜ、チマチマとした臆病な闘い方をしてくれてよ」


 ぽん太の首元に喰らい付きながらミガテはそう、礼を言った。

 薄れゆく意識の中でぽん太は最初から接近戦ですぐさま倒しておけば良かったと思いながら首元の肉をミガテに飲み込まれる感触を味わうのであった。


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